Yahoo!ニュース

アプリだけで運動計測ができるMovesをFacebookが買収、人間の「1歩」ごとのデータ取得へ

松村太郎ジャーナリスト/iU 専任教員
スマートフォンだけで運動計測ができるアプリMovesをFacebookが買収した

以前から利用していた活動トラッキングアプリMovesが、Facebookに買収されました。Facebookは、AppleやGoogleなどがスマートフォンのプラットホームやウェアラブルデバイスで参入していくとみられる健康管理の分野への参入の足がかりをつかんだことになりますが、もっと異なる活用方法も考えられます。

・Moves/・プレスリリース

アプリのローンチは2013年1月。「ウェアラブルデバイスを置き換えるアプリ」というコンセプトで160万ドルの投資を集め、同年11月にはUP by Jawboneよりも2倍の「20億歩」をアプリを通じて計測した、人気のあるアプリでした。

このアプリを使いながら「果たしてどこが買収するか」とみていました。個人的には、Jawboneが早めに買収しておくべきだったけれど、Googleも興味がありそうだな、と見ていました。ちなみにAppleによる買収はないと思っていました。MovesはAppleが提供するセンサーデータのAPIを「上手に活用」しているアプリなので、わざわざ買収するまでもなく、Appleは同じものを作れるはずだからでした。

しかしFacebookが買収したというのはなかなか興味深い展開です。

Movesとは

日々の活動を1本の線で振り替えれるStoryline(提供:Moves)
日々の活動を1本の線で振り替えれるStoryline(提供:Moves)

このアプリは、当初iPhone向けにリリースされ、現在ではAndroid向けにもダウンロード可能な、健康トラッキングアプリです。特別な機器を用意せず、無料で気軽に活動トラッキングができる画期的アプリでした。現在は2.99ドルで販売されています。

UP by JawboneやNike Fuelbandのように、加速度計を内蔵したデバイスを身につけるのではなく、スマートフォンに内蔵されているセンサーのデータを使って運動の状態(止まっている、歩いている、走っている、交通機関で移動中など)を検知し、歩数や消費カロリーなどを計測してくれます。

またスマートフォンのGPSデータを使って、どこでどのような活動をしたのかもあわせて記録します。ここでスマートだと思った点は、場所にチェックインするサービスFoursquareのAPIを使い、Movesで検知した場所に名前を付けることができる点です。行こう同じ場所に行くと、その場所に行ったことにして自動的にスポット名を入れてくれるのです。

ドコモの研究によると、都市で生活している人を6週間トラッキングすれば、どこが自宅で、どこが学校や職場で、どこが行きつけの店で、どこがイレギュラーな行動だったのか、ということが把握できるといいます。

確かに、Moviesを使っていて、1ヶ月くらいで、よく行く場所の名前は自動的に登録されるようになりました。

こうした日々のログは、「Storyline」として記録し、画像として出力することができます。また最近のバージョンでは、連携するアプリへの出力もできるようになりました。

バッテリーの問題をM7で解決

ここまで聞いていると、素晴らしいアプリに聞こえますが、最大の問題点はバッテリー消費が激しくなることでした。アプリを立ち上げていると常に加速度計とGPSをモニタすることになり、通常のよりも早く電池がなくなっていきます。トラッキングの正確性と、スマートフォン利用の本文であるバッテリーの長寿命かを両立させるためのイノベーションは、アプリ側だけでは限界がありました。

そこで、Appleが2013年9月に発表したモーションコプロセッサM7が助け船になります。いままでメインのプロセッサを使っていた各種センサーデータの情報処理をM7に任せ、同時にユーザーの状況を判断して通信の接続などを制御することで、バッテリー消費をより小さく抑えることができるようになりました。

2013年11月に、Movesは、M7に対応したバージョンをリリースしています。

またAndroidサイドでも、同様のイノベーションがありました。2013年5月に開催されたGoogle I/Oでもこうしたモーションデータを扱う新しいAPIが披露され、Movesがその代表アプリとして取り上げられていました。現在の最新バージョンであるAndroid 4.4 KitKatでは、システムスリープ中でもセンサーの情報を取得でき、省電力性が向上しています。

AppleもGoogleも、Movesがよりよいパフォーマンスを発揮できるように、ハードウエアやソフトウエアを整備しているようにも見えます。裏返せば、Movesというアプリが、ちょうどモバイルデバイスの新しい用途への興味に合致していたことを表しています。

Facebookに買収されて、どうなる?

Movesは、フィンランドの企業。Wall Street Journalによると、引き続きFacebookとは別のアプリとして活動するとしているが、CEOでアプリをデザインするSampo Karjalainen氏ら経営陣は、ヘルシンキからFacebookの本拠地であるシリコンバレーへと移るそうです。

FacebookはInstagram、What’s Appなど、独立したモバイルアプリの企業を買収してきた。What’s Appは買収したばかりだが、InstagramはFacebookによる買収後も成長を続け、年齢層によっては本体のFacebookよりも信頼されるソーシャルアプリになりました。MovesもこうしたFacebookファミリーの独立したアプリとして存在していくことになるでしょう。

Movesは、ソーシャルメディアへの投稿のような能動的な種類のデータではなく、人の「1歩ずつ」の生のデータを計測し、蓄積しています。これをFacebookが握ることによって、何が起きるでしょうか。MovesのデータをFacebookが直接使わないとしても、非常に有用な研究開発の切り口を手にしたとみています。

Facebookのビジネスモデルは、先般の好決算でも見られる通り、広告が中心です。また先日発表したNearby Friends機能のように、リアルな世界での活用をより深めていく中で、広告だけでなく決済についての興味も持っているようです。

Movesはスマートフォンだけで、人が今どこへ向かおうとしているのかがわかり、わずかな期間の蓄積だけで、普段よく行く場所やイレギュラーな行動までわかります。行動予測のデータとして非常に有用な活用が見込まれ、広告の効果を高めたり、人に「発見」の感覚を楽しんでもらうマーケティングツールを提供できるようになるかもしれません。

関連記事:TAROSITE.NET/social,TAROSITE.NET/mobile

ジャーナリスト/iU 専任教員

1980年東京生まれ。モバイル・ソーシャルを中心とした新しいメディアとライフスタイル・ワークスタイルの関係をテーマに取材・執筆を行う他、企業のアドバイザリーや企画を手がける。2020年よりiU 情報経営イノベーション専門職大学で、デザイン思考、ビジネスフレームワーク、ケーススタディ、クリエイティブの教鞭を執る。

松村太郎の「情報通信文化論」

税込330円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

米国カリフォルニア州バークレー在住の松村太郎が、東京・米国西海岸の2つの視点から、テクノロジーやカルチャーの今とこれからを分かりやすく読み解きます。毎回のテーマは、モバイル、ソーシャルなどのテクノロジービジネス、日本と米国西海岸が関係するカルチャー、これらが多面的に関連するライフスタイルなど、双方の生活者の視点でご紹介します。テーマのリクエストも受け付けています。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

松村太郎の最近の記事