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1部での初勝利。輝いたノジマステラ神奈川相模原と、AC長野パルセイロ・レディースの苦悩(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
3点目を挙げたノジマのDF石田みなみ(写真は開幕戦)(写真:アフロスポーツ)

【新たな歴史の1ページ】

4月2日(日)、なでしこリーグは各地で第2節が行われ、ノジマステラ神奈川相模原(以下:ノジマ)は、AC長野パルセイロ・レディース(以下:長野)をホームに迎えた。

1部昇格1年目のノジマと、同2年目の長野との注目の一戦は、共に攻撃的なサッカーを展開し、シュート数はノジマが13本、長野が14本に上った。

その中で、効果的に得点を重ねたノジマが、3-2で勝利。

試合後、ノジマの菅野将晃監督は1部での初勝利の感想と、サポーターへの感謝を口にした。

「ノジマステラの、新たな章(ページ)だと思います」(菅野監督)

記念すべき、ノジマの1部初得点を決めたのは、FW南野亜里沙だ。

試合開始9分、石田みなみが前方へ送った浮き玉のパスを、ゴール前でフリーになった吉見夏稀がシュート。GK望月ありさが逆サイドに弾いたが、こぼれ球に詰めていた南野が左足で豪快に蹴り込んだ。

33分には、長野がフリーキックで同点に追いつく。センターサークルの右斜め前付近から横山久美が入れたロングボールに、ファーサイドでDF矢島由希がヘディングで合わせて1-1。

後半、試合はさらに動いた。

51分、右サイドでペナルティエリア内に絶妙のタイミングで走り出していた南野が、後方からの田中陽子のスルーパスをダイレクトで左サイドに流し込み、ノジマが2-1とリード。ノジマは72分にも、吉見のパスにペナルティエリア内で抜け出した石田がゴール左上に決め、3-1とリードを広げた。

長野は89分、國澤志乃のロングフィードを山崎円美がゴール前で落とし、横山が決めて再び1点差に迫ったが、残り時間は少なく、試合はこのまま終了した。

【持ち味を発揮したノジマ】

スコアは1点差で、シュート数では長野が上回ったが、内容はノジマに分があった。

ノジマは開幕戦で、昨シーズン2位のINAC神戸レオネッサ(以下:INAC)に0-3と完敗。ボールを持たせてもらえず、攻撃面の良さを発揮できなかった。

しかし、この試合では選手間の距離が改善され、攻守の切り替えもスムーズだった。ピッチの至る場所でトライアングルを作り、3人目の動き出しのタイミングにはオートマティズムが感じられた。結果、ボール支配率で長野を上回り、積み重ねてきた自分たちの良さをしっかりと表現した。

ゴールは3得点とも、時間をかけて積み上げてきたホットラインから生まれたゴールだった。

一方、守備面では、長野のエースである横山の得点力をどう封じるかが一つのポイントとなった。

ノジマの菅野監督がこの試合で横山のマークを任せたのが、センターバックの長澤まどかだ。2部で戦っていた昨シーズンも、対戦相手のキープレーヤーをマークすることが多く、今回もしっかりとその役をこなした。とはいえ、横山に対しては、1人で止められないことを想定した上で、人数をかけて対応した。

実際、横山は3人に囲まれてもボールを失わず、力強いターンや切り返しからシュートを何本も放った。2点目のゴールは止められなかったが、そのほとんどは、GKジェネヴィーブ・リチャードが安定したキャッチを見せた。

長澤とセンターバックを組んだ國武愛美の存在感も光った。國武は今シーズン、武蔵丘短期大学シエンシアから加入し、開幕戦でなでしこリーグデビューを飾ったばかりの20歳。なでしこリーグ2試合目の出場ながら、堂々たるプレーで最終ラインを引きしめた。

昨シーズンはセンターバックのレギュラーとして活躍したDF高木ひかりは、開幕戦に続いてボランチで出場。この試合で見せ場は多くなかったが、新たなポジションで、今後の成長が期待される。

「昨年の失点数の少なさを考えれば、ポジションを変えない(で、センターバックで起用する)ことも考えられますが、彼女の持っている能力をより高めるためには、ポジションを一つ前に上げて、180度のサッカーから、360度のサッカーをできるようになってほしい。それができなければ、代表で活躍する選手にはなれないと思います」(菅野監督)

1部での初勝利を挙げたノジマだが、厳しい戦いはまだまだ続く。ノジマは次節、同じく昇格組のちふれASエルフェン埼玉をホームに迎える。

【進化に伴う「痛み」】

一方、長野が良さを発揮できなかった原因の一つは、今シーズンからチャレンジしている、自陣に引いてブロックを形成するゾーンディフェンスがうまく機能しなかったことにある。

開幕戦ではその守備が機能し、浦和レッドダイヤモンズ・レディースの猛攻を凌(しの)いで1-0で勝利した。しかし、この試合ではノジマに先制を許したことで守備のラインを上げる必要が生じ、その中で選手同士のイメージが共有できていなかった。

ノジマの中盤の選手達が流れの中でポジションを変えたことも、長野の守備を混乱させた。長野はマークの受け渡しがうまくいかず、アプローチのタイミングにバラつきが見られた。ボールを奪う位置が低くなり、前線の泊志穂と横山が孤立しがちで、持ち味である縦に速い攻撃は怖さが半減してしまった。

試合後、長野の本田美登里監督は、新たな戦術に取り組む難しさについて、このように話した。

「(ブロックを作って引いても)結局は3失点してしまったので、それなら最初から自分たちの(マンツーマンで前からプレッシャーをかけにいく)サッカーをやっても良かったのではないか、と。その使い分けをできるようにしていきたいです」(本田監督)

今シーズン、長野はここまでの2試合で、マンツーマンからゾーンディフェンスに切り替えただけでなく、フォーメーションも、昨シーズンまで採用していた、中盤がダイヤモンド型の4-4-2(4-1-3-2)から、中盤がフラット型の4-4-2に変更。國澤のワンボランチからダブルボランチにし、國澤の相方には、INACから移籍した野口彩佳を抜擢した。

また、GKにはベレーザから獲得した望月、左サイドバックには東京国際大学から新加入の小泉玲奈を抜擢。変化はシステムだけにとどまらない。

昇格1年目にして3位の成績を残したにもかかわらず、2年目の今シーズン、本田監督はなぜここまで変化を加えているのか。

それには、ワケがある。

まず、守り方を変えたのは、昨シーズン18試合で「34」にも上った失点数を減らすためだ。個人の能力に頼るマンツーマンから、人数をかけて奪うゾーンディフェンスにし、時間帯によっては引いてゴール前を固める戦い方も選択できるようにするためである。

攻撃面では、縦一辺倒になりがちだった攻撃に「横」の選択肢を加え、ボールのポゼッション率を高めて相手ゴールに迫る戦い方も目指す。

長野の今シーズンの目標は「トップ3」だが、本田監督は昨年と同じ戦い方でその目標を達成できるとは考えていない。

ライバルチームから研究され、得点源の横山が厳しいマークに晒される中で勝ち抜くには、戦い方のオプションを増やすことが不可欠だと判断したのだ。

つまり、これまでの戦い方を根本的に変えたわけではなく、あくまで「使い分ける」ことが前提である。

しかし、「使い分ける」ためには、ゾーンディフェンスとボールポゼッションの精度を高める必要があり、11人がイメージを共有できるようになるためには、実戦を重ねるしかない。

チームの進化に「痛み」はつきものである。

守り方や選手の顔ぶれが変わったことで、選手同士の距離感や、求められる役割が変わった。フォーメーションがわずかに変わるだけで、チーム全体のバランスをとることが難しくなることは、開幕戦でのベレーザが証明している(中盤の形を変え、前半6分に失点)。

サイドハーフの大宮玲央奈は、この試合で感じた課題について、以下のように話した。

「今はチームの意識の中で、ブロックを作ってリトリート(自陣に下がりゴールを守る)することが先にきているのですが、相手は前からガツガツ来られた方が嫌なのかな、と感じる場面もありました。今後は試合状況を読んで、前からプレッシャーをかけるのか、引いて守るのかというところを、自分たちで判断して変えていけるようにしたいです」(大宮)

進化するためには高いハードルを乗り越えなければならないことを覚悟した上で、長野は新たな戦術にチャレンジしている。

サッカーに「必勝の方程式」は存在しない。しかし、変化を恐れていては、成長は期待できない。

その選択が正しいかどうかが分かるのは、シーズンが終わった時である。

なでしこリーグは、全18試合。実戦を重ねる中で、ノジマと長野がどのような変化を見せるのか、楽しみである。

なでしこリーグ第3節は4月15日(土)と16日(日)に開催される。

試合結果詳細

なでしこリーグ1部日程

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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