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サモア代表戦、間に合った! 日本代表アマナキ・レレイ・マフィの「辞退危機」?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
繊細な心で豪胆なプレー。愛される人。(写真:ロイター/アフロ)

最初からぶちかました。球を持つや、身長188センチ、体重122キロの名物巨漢プロップ、ヤニー・デュプレッシーに正面からぶつかる。ふっ飛ばした。

「絶対できる、と言い聞かせた。(蹴散らせると)わかっていたよ」

9月19日、ブライトンのコミュニティースタジアム。4年に1度あるワールドカップのイングランド大会初戦で、日本代表のアマナキ・レレイ・マフィは過去優勝2回の南アフリカ代表を破った。34-32。芝に突っ伏した。

好事魔多し。続く23日、グロスターのキングスホルムスタジアムでのスコットランド代表戦では先発も、後半初頭にタンカで運ばれた。いくらかのラインブレイクを重ねた後、プレーの合間に、突然、その場にうずくまった。大会直前まで骨折からのリハビリを重ねていた、股関節周りを痛めたのだ。結局、驚異の回復力で10月3日のサモア代表戦のベンチ入りを果たした。間に合った。ミルトンキーンズはスタジアムmkで、後半10分過ぎあたりからの登場をにらむ。

関西大学Bリーグの花園大学出身のプロ2年目。14年秋に初めてジャパンに入った頃から、「シンデレラストーリー」の主人公として注目はされていた。「ギフト」。エディー・ジョーンズヘッドコーチは、身長189センチ、体重112キロの快足トンガ人ナンバーエイトをこう評している。同年冬にマフィが大けがをした際は、病院へ「9.19 南アフリカ」と書かれたジャージィを持って訪れたものだ。

端的なプレーぶりからだろう。奇跡に近い復活を遂げて臨んだ南アフリカ代表戦以後、マフィはその知名度をさらに高めた。スコットランド代表戦を途中で抜けた時は『yahoo! トピックス』に「日本、大幅戦力ダウン」との見出しが打たれ、練習への合流が叶うや日本のニュース番組で人気タレントからコメントされた。

狂騒曲のシチュエーション。きっと本人は、多少の戸惑いこそあれ喜んでいる。

――注目されることについて、どう思いますか。

ジャパン入りした際には、「とても嬉しいです」と即答。別の機会には、千葉県にある所属先のNTTコムのクラブハウスでこんな言葉を残したものだ。

「正直にお話しますが、学校の成績もとてもよかったんです。ただ5歳で始めたラグビーでも、感覚的にいい選手になりそうだとも感じていた。いまの自分の夢はラグビー選手として活躍し、有名になることです」

一部報道ではフランスのプロリーグへの移籍の噂が立ったが、それ以前から複数のオファーが本人や周囲には知れ渡っていた。

近くにいる人によれば、「見た目はあんなですが、ピュアなんです」。学生時代は夢だったトンガ代表入りを断られた。ところが日本代表候補となった折、同国協会からラブコールを受けた…。「なぜ、いま、って」。その顛末を話す折、心のささくれを示したものだ。

そういう気質だから、ジャパン入りも一筋縄ではいなかかった。最初は合宿で話し相手がおらず、自分が必要とされているのか、疑心暗鬼になった。

「大丈夫か」。マフィをNTTコムにスカウトした内山浩文・採用担当(当時)は、その性格を心配してメールを送信。受け取ったマフィは、その場こそ「余計な心配をかけたくない」から「大丈夫」と返信したが、合宿解散後、内山に「俺、やっぱりジャパン辞める」とこぼした。

結局は「一緒にプレーをしているうちに、お前が必要だとわかってもらえる」と説得され、いまに至った。内山は南アフリカ代表戦でプレーするマフィを、現地で応援。「お前がチームに必要なんだ、って伝わったらいいな」。世界へ羽ばたくかもしれぬ才能に、複層的な感情を抱く。

怪我からの復活のアピール。スター街道の序章。純真さの発露…。サモア代表戦に臨むジャパンの「20」は、「シンデレラストーリー」以外にも多くの物語を紡ぐこととなる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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