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「正直、怖いです」36歳の加藤条治が5大会連続五輪へ、“一発”にかける決意。

折山淑美スポーツライター
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

北京五輪シーズン開幕戦となる、スピードスケート全日本距離別選手権初日10月22日の男子500m。第9組のアウトレーンからスタートした加藤条治(博慈会)は、躍動感のある動きを見せた。

「ここ数年はずっと疲れていて自分のスケーティングが全然できていなかったので、夏場はまずフィジカルに目を向けてしっかり身体が動くように持っていくことを課題にしました。ただ36歳なので、昔のようにガンガン上がってきたわけではないが、一発の体力を発揮できる準備は整えてきた。実力を比べれば若手とはかなり差はあると思うが、どこかで一本にかけて、その差をひっくり返すだけのポテンシャルは体の中に秘められたと思うので。それを発揮するところが、この距離別と年末の五輪代表選考会だと思っています」

 前日の公式練習のあとでこう話していた加藤。その言葉を証明するかのような、キレのある動きだった。

 山形中央高校3年だった02年に、日本人選手としては史上初の高校生W杯代表に選ばれた加藤。初レースの長野大会で3位になると、1週間後の中国・ハルピン大会では、当時は世界の第一人者だった清水宏保を破って2位になり天才スケーターと注目された。

 04~05年シーズンは世界距離別選手権で、王者ジェレミー・ウォザースプーン(カナダ)の3連覇を阻止して優勝し、W杯総合は2位。06年トリノ五輪シーズンには11月に34秒30の世界記録を出し、W杯も6戦3勝で優勝候補として五輪に臨んだが、レース前の接触事故でエッジが欠けるアクシデントがあり6位に止まった。 

 08年からのスランプも乗り越えた10年バンクーバー五輪では、銅メダルを獲得して銀の長嶋圭一郎とともにダブル表彰台を実現。その後もW杯総合上位を堅持し、14年ソチ五輪では日本男子最上位の5位。16年には所属する日本電産サンキョーの選手兼監督に就任したが、競技に専念するため17年3月に退社して新たな道を歩み始め、18年平昌五輪では6位という結果を残している。

 その後の距離別選手権は19年12位、20年17位と結果を出せずW杯遠征からは外れたが、競技への意欲は衰えなかった。五輪の500mはソチ大会まではインスタートとアウトスタートの2本を滑った合計で競われていたが、平昌大会からは1本勝負。それなら付け入る隙はあると考えるからだ。

 北京五輪前のW杯前半戦の代表選考もかかっていた、今回の距離別選手権。加藤の100m通過は、18年平昌五輪を共に戦った同走の長谷川翼(日本電産サンキョー)より0秒03速い9秒73。その差を0秒12差まで広げて35秒07でゴールする滑りで、その時点でトップに立った。だが第11組で34秒台が出ると、有力選手が滑る最後の2組はともに34秒台連発。新鋭の森重航(専修大)が大会タイの34秒64で優勝し、加藤は7位という結果になった。

 それでも加藤の表情は明るかった。「タイムは出なかったが、4年ぶりくらいに気持ちよく、元気に滑るレースができた」と。

「正直、今の実力では35秒前半が出せればいいかなと思っていたが、もし身体がうまくかみ合えば『勝つために必要だ』と考えていた34秒台中盤が出てもおかしくないなと思っていました。ただ、久しぶりに全力で滑れたが、それにフォームが追い付いてない感じで……。だからレース中は複雑な感覚でした。身体はめちゃくちゃ動いているのに、それがスケーティング技術で50~60%に抑えられている。いい時なら身体がスムーズに動くが、スケーティングで足を置いた瞬間にパワーが発揮できない状態になっていたので。35秒0で嬉しい気持ちと、『もっとタイムが出るはずだ』という気持ちが半々でした」

 そう話す加藤だが、今回確認できたのは「連戦を戦うのは無理でも1試合に集中すれば、爆発的なパワーを出すことは可能だ」ということだった。今後は練習でも試合に近いイメージで気持ちを入れた、マックススピードの中で技術を向上させていかなければいけないと。

 今大会の結果を見れば、世界トップレベルの力を持つ新濱立也(高崎健大)と村上右磨(高堂建設)に加え、新たに森重が台頭してきたことで代表争いのレベルはさらに上がってきた。5回目の五輪出場を果たすためには、その中に割って入っていかなければいけない。W杯前半戦のリザーブ選手には選出されたが、加藤が今狙うのは、12月27日から開催される五輪代表選考会の500m1レースのみ。

 その戦いへ決意をこう話す。

「正直、怖いですね。これからもっと、体力を一発で発揮しなければいけないというのが。今回のレースも怖かったけど、これからもっと厳しい状況の中に自分を持っていかなければいけないというのは、めちゃくちゃ怖いです。ただそれをやらないと自分の目標にはたどり着かないので。これからその厳しい戦いに、笑いながら入っていきます」

スポーツライター

1953年長野県生まれ。『週刊プレイボーイ』でライターを始め、徐々にスポーツ中心になり、『Number』『Sportiva』など執筆。陸上競技や水泳、スケート競技、ノルディックスキーなどの五輪競技を中心に取材。著書は、『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)など。

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