症状があるのに出勤を求められたらどうする? 多様なコロナ問題と法的「対処法」
全国各地で新型コロナウイルスの感染が次々に確認され、事態は新たな局面に入ったといわれている。
だが、労働者として働いている人たちは簡単には仕事を休めない。気にはなりながらも、いつも通り出勤しているという方が大半だろう。
いつ誰が感染してもおかしくない状況が続くなか、感染の拡大に関連した労働問題が発生することが懸念される。
自身に発熱などの症状がみられる場合や、会社内や取引先で感染者が確認された場合、多くの人は出勤を控えたいと考えるだろう。しかし、そんな状況でも休むことを許さない会社が世の中には存在する。
他方で、経済への影響が広がるなか、経営不振を理由に休業を命じたり、労働者を解雇したりする会社が増加する可能性も高い。
もしあなたの身にこのような問題が起こったらどうすればよいだろうか。今回は、こうしたトラブルへの対処法について、法的観点から解説していく。
症状があるのに出勤を求められた場合
37.5度以上の熱がある場合などは、新型コロナウイルスに感染している可能性があるため、念のため出勤せず、外出を控えて様子をみるべきだ(注1)。
注1
厚労省が作成したQ&Aには「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合には、最寄りの保健所などに設置される「帰国者・接触者相談センター」にお問い合わせください。また、高齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)の基礎疾患がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方で、これらの状態が2日程度続く場合は、帰国者・接触者相談センターに相談してください。・・・(中略)・・・これらの症状が上記の期間に満たない場合には、現時点では新型コロナウイルス感染症以外の病気の方が圧倒的に多い状況であり、インフルエンザ等の心配があるときには、通常と同様に、かかりつけ医等にご相談ください。」と書かれている。
〔参考〕新型コロナウイルスに関するQ &A(一般の方向け)令和2年2月23日時点版「1 すべての方へ」問13
※2月24日に更新しました。今後もリンク先の内容が更新される可能性があります。
そう言われるまでもなく、周りに感染させてしまうようなことは避けたいから症状が軽減するまでは出勤を控えようと考える方がほとんどだろう。
それにもかかわらず、会社が休みを認めてくれない場合はどうしたらよいだろうか。出勤の義務はあるのだろうか。
会社は労働者に対して「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」義務を負っている(労働契約法5条)。
そのため、会社による出勤命令はこの安全配慮義務に基づく一定の制約を受けると考えられ、無制限に認められるものではない。
客観的に病気であることが明らかな場合に出勤をすれば、その労働者の病状を悪化させることになるし、それだけでなく、もし感染症に罹っている場合、周りの労働者の生命や健康をも危機に晒すことになる。
このため、高熱があり、労働者が休みたいと伝えているにもかかわらず、出勤を強要しようとする場合は安全配慮義務違反に当たると考えられる。このような法的な根拠を武器に、会社と話し合ってみるべきだろう。
また、有給休暇を取得する方法もある。労働者には有休の時期を指定する権利が認められているため、適正に有休取得を申し出ていれば、会社は原則として労働者が指定した日に有休を与えなければならない。
会社に年休を取得すると伝えていたにもかかわらず、賃金をカットされた場合は、賃金不払いとして不足額の請求をすることができる。
感染するリスクが高い場合の出勤強要
例えば、同じ職場や日常的に接することの多い関係会社、取引先等で感染者が確認された場合、感染のリスクを避けるために出勤を控えたいと考える人が多いに違ない。
それにもかかわらず出勤を強要された場合も、上記の安全配慮義務を根拠に会社と交渉するとよいだろう。一人で交渉を進めるのは容易ではないため、職場の仲間と一緒になって集団的に交渉を行った方が効果的だ。団体交渉権を持つ労働組合を活用することも有効である。
尚、会社に労働組合が存在しない場合や、会社の労組がまともに会社と話し合ってくれない場合には、一人でも加盟できるユニオンに加入することで、労働組合法上の交渉権を確保することができる(末尾の相談窓口も参照)。
もちろん、安全配慮義務を踏まえ、感染のリスクを減らすために、会社はできる限り在宅勤務や時差出勤を認めるべきだ。
仕事の内容によっては困難な場合も多いが、その場合でも、少しでも感染のリスクを下げるための配慮や措置が会社には求められる。労働者の健康を守るためにどうすればよいかを労使間で話し合っていくことが大切だ。
症状がないのに自宅待機を命じられた場合
反対に、症状が出ていないのに、何からの理由で自宅待機を命じられてしまった場合はどうだろうか。人々が過敏になっている現在の状況では、例えば、「家族に中国出身者がいるから出勤するな」などと、合理的な理由なく出勤させてもらえないというケースが起こらないとも限らない。
就労が可能であり、労働者がその意思をもっているにもかかわらず、会社が就労を拒否して自宅待機を命じた場合、それを正当化する特別な事情がない限り、労働者は賃金請求権を失わない。
つまり、正当な理由なく一方的に自宅待機を命じられた場合には、賃金全額を請求することができるのだ。
まずは自身の体調や周囲の状況に問題がないことを会社に説明し、それでも就労させてもらえないということであれば、自宅待機の期間について賃金の支払いを求めるべきだろう。
自己の判断で休む場合は?
一方で、発熱などの症状があり、自己の判断で休んだ場合には、賃金請求権は認められない。ただし、有給休暇の権利が発生していれば取得することができるし、会社の就業規則に病気休暇制度があればそれを使える可能性がある。
比較的症状が軽い場合でも、周りへの配慮から、念のため休もうと考える方も多いだろう。そんなとき、自宅で仕事をすることが可能な場合であれば、会社に自宅勤務を認めてもらえないか相談してみてもよいだろう。
特に、欠勤すると給与が下がってしまう場合は、収入を維持するためにも、自宅勤務の可能性について、会社と話し合った方がよい。
感染の拡大が懸念される現状を踏まえれば、会社としても無理して出勤させるべきではないと考えるだろうから、もともとそのような制度がない会社でも特別に配慮してもらえる可能性がある。
尚、厚労省が作成したQ&Aには以下のようにあり、自宅勤務などの方法を推奨している。
「休業手当を支払う必要がないとされる場合においても、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。」
〔参考〕新型コロナウイルスに関するQ &A(企業の方向け)令和2年2月21日時点版)「3 労働者を休ませる場合の措置について」問1
※2月24日に更新しました。今後もリンク先の内容が更新される可能性があります。
経営不振に伴う休業や解雇
新型コロナウイルスの感染拡大は、経済にも大きな影響を与えている。業績予想を修正したり希望退職を募ったりする企業も出てきた。生産停止や減産を理由に休業を命じたり、解雇したりする企業が出てくる可能性がある。
経営上の困難を理由とする休業は、そうした事態を招来したことについて会社に責任がないと認められる場合に限り、賃金請求権が発生しなくなる。
新型コロナウイルスを原因とする経営不振の場合、会社に故意や過失があったとは認められず、賃金請求権が認められない可能性が高い。
ただし、賃金請求権が認められない場合でも、労働基準法26条に基づき、平均賃金の60%の休業手当を会社に請求できる場合がある。
一時的な休業にとどまらず、経営上の理由によって解雇されてしまった場合はどうしたらよいだろうか。不況や経営難などの理由によって人員整理のために行う解雇を整理解雇という。
経営難だからといって、どのような場合でも整理解雇が認められるわけではない。本当に整理解雇が必要な状況なのか、解雇を回避するための努力を行ったのかなど、一定の要件を満たす場合に限って整理解雇が有効となる。
法的な検討が必要になるため、解雇されたり退職勧奨を受けたりしたときには、専門家や支援団体に相談してほしい。
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