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【インタビュー前編】ジーザス&メリー・チェイン、2019年5月来日。ジム・リードが語る現在のバンド像

山崎智之音楽ライター
The Jesus and Mary Chain / Steve Gullick

ジーザス&メリー・チェインが2019年5月、来日公演を行う。

現代のオルタナティヴ、シューゲイザー・シーンに多大な影響を与えてきた伝説的バンドの3年ぶりとなるジャパン・ツアー。前回、2016年の来日ライヴでは“レジェンド”に祭り上げられられることを拒絶する生々しい現役感を見せつけた彼らだけに、今回も“何かが起こる”期待が高まるばかりだ。

日本上陸を目前にしてバンドのヴォーカリスト、ジム・リードが語るインタビュー全2回。前編では近年の活動を中心に訊いた。

<日本公演は自分たちにとってもスリルだ>

●5月の日本公演、楽しみにしています。どんなライヴを期待出来るでしょうか?

ジーザス&メリー・チェインのオールタイム・ベストに近いライヴになるよ。すべてのアルバムから数曲ずつプレイする。現時点での最新作『ダメージ・アンド・ジョイ』(2017)を含めてね。ファンにお馴染みの曲をたくさんプレイするし、シングルB面曲ばかり演奏するわけではないから、みんなで楽しめるショーになる。ライヴ向きの曲を選んでいくしね。3月にオーストラリアをツアーしたけど、日本公演に向けてセットリストを見直すことになる。だから久しぶりにプレイする曲もあるかも知れない。自分たちにとってもスリルだよ。

●3月にオーストラリアをツアーして、いったん家に帰って、5月に日本に戻ってくる?現在イギリス在住ですよね?

本当はオーストラリアが終わったらすぐ日本に行って、5月までずっと滞在していたいんだけどね(笑)。16年前からイングランド南西部のデヴォン州に住んでいるんだ。その前はロンドンに住んでいたけど、海辺の自然が多い環境で子供を育てたかった。ウィリアムはもう20年ぐらいロサンゼルス在住だ。

●前回、2016年2月の日本公演は2014〜2016年に行った名盤『サイコキャンディ』(1985)再現ツアーの一環として行われましたが、そのツアーはどのような経験でしたか?

すごく楽しかったよ。自分でも驚いたけどね。当初は、やるべきか迷ったんだ。何年も前からオファーされてきたけど、幾つかの理由から断ってきた。まずひとつ、楽しくなさそうだからだった。金のために楽しくないことをやりたくなかったんだ。もうひとつ、やる意味がなかった。いろんな人から再現ライヴをやるべきだと言われてきたし、俺たちなりに考えてみたんだ。でも、30年以上前のアルバムを振り返っても仕方ないと思った。

●それが実現したきっかけは何でしょうか?

『サイコキャンディ』を正しい形でプレイするという、1985年当時に出来なかったことをやろうと思ったんだ。あのアルバムを発表したとき、本来受けるべき注目を受けられなかった。俺たち自身、『サイコキャンディ』が発売された時点で、既に気持ちは『ダークランズ』(1987)の新曲に向かっていたしね。それに当時の俺たちのライヴは混沌としたもので、本来の音楽性を表現出来ていなかった。それにアルバム収録曲で、ライヴでやったことのない曲もあったんだ。だから『サイコキャンディ』をきちんとプレイしてみたかった。決して懐メロではない、1985年のメリー・チェインのショーを再現するのではない形でね。それだったら正しい姿勢だし、きっとうまく行くという予感があった。やるとしたら今しかない。『サイコキャンディ』再現ライヴを見たいお客さんがいて、俺たちがやる気になっている今しかないと思ったんだ。それでリハーサル・ルームを借りて、プレイしてみた。もしダメだと判れば、10分ぐらいで止めていたと思う。でも、俺たちがやろうとしていることが正しいと確信したんだ。

●『サイコキャンディ』再現ライヴでプレイして、特に感慨が深かった曲はありましたか?

アルバム最後の曲「イッツ・ソー・ハード」かな。おそらくライヴでやったことがなかったし、やったとしても記憶に残っていない。何故プレイしなかったのか、理由は判らない。とにかくやらなかったんだよ。おそらく理由に挙げられるのは、ライヴで盛り上がりそうもなかったことだった。再現ライヴでも、アルバムと曲順を変えようかと話し合ったりもしたんだ。でも結局、アルバム以上の曲順は考えつかなかった。実際にやってみたら「イッツ・ソー・ハード」はアップビートでノイジーで、ライヴの最後に相応しい、すごい盛り上がりになったよ。自分たちの予想と異なっていたけど、良い意味で裏切られたね。

●今後、別のアルバム再現ライヴを行う意志はありますか?例えば『ダークランズ』(1987)は全アルバムでチャート最高位(全英チャート5位)にランクインしたし、ヒット・シングル「エイプリル・スカイズ」を収録していますが...。

『サイコキャンディ』再現ツアーが成功したことで、大勢の人から『ダークランズ』再現ツアーのリクエストがあったよ。俺自身はリハーサルぐらいならやってみても良いと思ったけど、ウィリアム(リード/バンドのギタリストでジョンの兄)が乗り気ではないんだ。彼はもっと新しい音楽をやろうという意見だった。ニュー・アルバムを作ることが決まっているし、おそらく彼の意見が正しいだろう。

<ナイン・インチ・ネイルズは我々をリスペクトしてくれた>

●去年(2018年)9月、ナイン・インチ・ネイルズと北米ツアーを行いましたが、アメリカの観衆からの反応はどんなものでしたか?

ナイン・インチ・ネイルズのファンはメリー・チェインの音楽にも盛り上がってくれた。すごく盛り上がったよ。俺たちは当初ナーヴァスになっていたんだ。最初の数回のショーではみんなピリピリしていた。人気バンドのサポートとしてアメリカをツアーするのは初めてだったし、音楽スタイルがかなり異なったバンドだったからね。3ヶ月間一緒にツアーするという契約だし、大惨事になるかも知れないと思ったんだ。 “ロラパルーザ”に出演したときは悪夢だった(1992年夏)。観客は俺たちに興味がなかったし、他の出演バンドとも共有するものがひとつもなかった。それなのに10週間ツアーしなければならなかったんだ。仕事と割り切ってツアーをやって、ギャラをもらって家に帰るというのは、当時も今も苦手だからね。

●盛り上がって、本当に良かったですね。

うん、お客さんは俺たちの演奏にしっかり耳を傾けてくれた。俺たちにチャンスをくれると判って、安心したね。最初の数回のショーで、これはうまく行くぞと思ったよ。コロラド州の“レッド・ロックス・アンフィシアター”やニューヨークの“レディオ・シティ・ミュージック・ホール”みたいな、単独だったら到底出来ないような会場でプレイすることが出来た。ヘッドライナーではないからプレッシャーはなかったし、楽しむことが出来たよ。

●ナイン・インチ・ネイルズといえばグラミー賞メタル部門の受賞者ですが、彼らの音楽に馴染みはありますか?

「ヘッド・ライク・ア・ホール」は良い曲だね。1989年、彼らがメリー・チェインをサポートしたことがあったけど、そのときもライヴでやっていた。去年(2018年)はアンコールでプレイしていたよ。あとジョニー・キャッシュがカヴァーした曲...「ハート」か。あの曲は好きだね。それ以外にも俺が知らない曲で、ライヴで聴いて気に入った曲が幾つもあった。ナイン・インチ・ネイルズのアルバムは何枚も持っているけど、もう一度聴き返してみる必要がある。普段、俺が聴いているタイプの音楽じゃないけどね。

●ツアーでトレント・レズナーとは親しくなりましたか?

いわゆる友人関係というわけではなく、ライヴ会場で顔を合わせれば「やあ」と挨拶する程度かな。アメリカで大物バンドとツアーすると、ヘッドライナーと1週間まったく顔を合わさないこともあるんだ。俺たちもサウンドチェックが終われば会場にいる意味もないし、トレントにしてもそうだ。とても丁重に、リスペクトの念を持って我々と接してくれたけど、飲みに出歩いたりはしなかった。

The Jesus and Mary Chain / photo by Steve Gullick
The Jesus and Mary Chain / photo by Steve Gullick

<俺たちが夢見るアメリカ文化はもはや存在しなかった>

●ジーザス&メリー・チェインとアメリカの関係はどんなものでしょうか?

アメリカとの関係は、常に奇妙なものだった。メリー・チェインを始めた頃、ある特定のアメリカ文化に傾倒していたんだ。ある特定の音楽、映画、本...でも俺たちが夢見るアメリカ文化はもはや存在しなかった。俺たちが聴いていた音楽はヴェルヴェット・アンダーグラウンドやストゥージズ、スーサイドだった。1980年代半ば、スーサイドはまだ存在していたかも知れないけど、俺たちがイメージしていたアメリカ像は失われていたよ。アメリカに残っていたのはヘヴィ・メタルとMTVだった。それから30年以上が経って、もちろんアメリカは今日でも面白いことがたくさんあるし、ツアーをして楽しいけど、現代アメリカのロックンロールやカルチャー、アメリカの政治などに共感を持つことは出来ない。俺たちに出来るのは、存在しない虚構のアメリカを歌うことだけだよ。

●今回(2019年5月)の日本公演の後には7月にメキシコ公演、それから米国オークランドの“バーガー・ブーガルー”フェスで2日連続ヘッドライナーを務めますが、ホストが映画監督のジョン・ウォーターズというのが興味深いですね。

ホストがジョン・ウォーターズというのは知らなかったよ。彼と会うことが出来たら面白いね。彼の初期作品は好きだよ。『ピンク・フラミンゴ』『ヘアスプレー』... ディヴァインが出演していたやつね。『クライ・ベイビー』ぐらいまでは見た。最近の作品はあまり見ていないけど、凄い映画作家であることは間違いないよ。

●ジョン・ウォーターズはあなたが“夢見るアメリカ文化”の一部でしょうか?

...いや、そういう訳ではないな(苦笑)。

●“バーガー・ブーガルー”フェスにはデッド・ボーイズやドゥワーヴスも出演しますが、彼らのことは知っていますか?

デッド・ボーイズはメンバーが亡くなったよね(スティヴ・ベイターズ)?今でもやっているの?... ドゥワーヴスというバンドは名前を聞いたことがある。どんなバンド?

●ドゥワーヴスはギタリストがプロレスのマスクを被ってフルチンで演奏するパンク・ロック・バンドです。

それはクールだな。フェス前にどんなバンドか、音を聴いてみるようにするよ(笑)。

●ところで映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)で「ジャスト・ライク・ハニー」が印象的な使われ方をしましたが、この映画で再注目されたことが再結成のきっかけとなったでしょうか?

いや、『ロスト・イン・トランスレーション』が再結成のきっかけになったとは思わないね。ただ、あの映画のおかげで若い音楽リスナーに俺たちのことが知られるようになったことは確かだ。とても良い映画だと思うし、曲を使ってもらったことは光栄に思っている。

後編ではジムが兄ウィリアムとの関係、グラスゴーの音楽シーンとの関わりなどについて語ってくれた。

【THE JESUS AND MARY CHAIN JAPAN TOUR 2019】

- 5月19日(日)東京 STUDIO COAST

OPEN 17:00 START 18:00

- 5月20日(月)大阪BIGCAT

OPEN 18:00 START 19:00

【日本公演ウェブサイト】

https://smash-jpn.com/live/?id=3110

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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