北海道胆振東部地震から学ぶ10個の教訓
本年9月6日午前3時過ぎに発生した北海道胆振東部地震は、地震規模はM6.7、震源深さ37km、最大震度は7でした。この地震について、気になることを10個あげてみます。
心配される今後の地震
M6.7と言えば数年に一度は起きる地震です。震源深さは37kmとやや深く、陸のプレート内で発生しました。余震がやや浅い位置でも発生しているため、近くにある石狩低地東縁断層帯の今後の活動が気になります。ただし、地震調査研究推進本部によると、この断層帯主部の今後30年の地震発生確率はほぼ0%、また断層帯南部は0.2%以下と評価されており、大きな心配はないのかもしれません。
むしろ、この地震は、十勝沖から択捉島沖に至る千島海溝沿いでの地震の準備過程と言えそうです。昨年12月に地震調査研究推進本部は、今後30年間にM8.8程度以上の超巨大地震が発生する確率を7~40%、M7.8~8.5程度の根室沖の巨大地震の発生確率を70%程度、M7.0~7.5程度の十勝沖及び根室沖の大地震の発生確率を80%程度と評価しました。2011年東北地方太平洋沖地震でも発生前に内陸で多くの地震が発生しましたから、今後が気になります。
比較的深い地震での震度7
厚真町鹿沼や安平町追分で震度7相当のゆれが観測されました。追分での最大加速度は3成分合成で1796Galに達します。地震規模がM6.7程度で、深さ37kmとやや深い位置での地震にもかかわらず、このような強い揺れになった理由については、今後検討が必要です。深い位置から浅い位置に破壊が伝播したことや、地盤の特性によるように推察されます。今後の、強震動予測に一石を投じたと言えそうです。
広範囲での土砂崩れ
厚真町や安平町で大規模な土砂崩れが起きました。これらの地域には、4万年前の支笏カルデラ噴火以降、恵庭岳や樽前山の噴火による軽石などの火山噴出物が堆積しています。この軽石は、園芸で使う鹿沼土を想像すると良いと思います。鹿沼土も群馬県の赤城山の火山噴出物ですが、軽くて触るとすぐに崩れてしまい、水を含みやすい土です。前日までの台風21号による雨の影響もあり、強い揺れで土砂が崩壊しました。あらゆる場所が同じ堆積物で覆われているため、至る所で土砂崩れが起きました。実は、東京や神奈川も東京ローム層などの火山堆積物で覆われています。1923年関東地震の時にも大規模な土砂崩れが起き、神奈川県秦野市には地震で崩れた土砂によってできた「震生湖」があります。
繰り返す液状化
清田区里塚では驚くような液状化がありました。大きく沈下した場所がある一方で、泥水で埋まった場所ができました。この場所は、支笏カルデラ噴火による火砕流でできた台地です。台地にできた谷を火山灰で埋めていたようです。かつての川筋ですから、前日までの雨で水を多く含んでいたのかもしれません。上流側は、地下の火山灰が液状化して下流に流れ、それによって地盤沈下が発生し、一方で、下流側は流れてきた泥水で埋まってしまったようです。実は、清田区では、1968年十勝沖地震でも、2003年十勝沖地震でも液状化被害が出ていました。災害は繰り返します。過去の災害に学び危険を避けることの大切さを感じます。
強かった北海道の住家
土砂崩れや液状化の被害は目立ちますが、揺れによる建物被害はむかわ町の商店街などの被害に限られるようです。寒い北海道では、凍土対策で基礎を頑強にし、窓が小さく壁が多く、屋根もスレート葺きの軽い住宅が一般的です。さらに土地が広大なので、多くは平屋建てです。建物に作用する力(地震力)は、建物の重さ(質量)と加速度(揺れ)の積で与えられますが、軽くて堅い住宅はこの力が小さくなります。一方で、それを支える壁が多ければ、被害を受けにくくなります。大阪府北部の地震と胆振東部地震の震度6弱地域の一部損壊住家数、熊本地震と胆振東部地震の震度7地域の全壊住家数を人口当たりについて比較すると、胆振東部地震での被害は何れも1/10程度になっています。一方で、被害が顕著だったのは、1階が商店で壁が不足する古い建物で、過去の地震被害と共通しています。
ブラックアウト
広い面積で人口密度の低い北海道では、送電・配電コストが高く、また、発電所の新設が遅れ発電コストもかかります。電力自由化で、新電力との厳しい競争の中、発電コストを抑えるには、新しい石炭火力の苫東厚真火力発電所に頼らざるを得ませんでした。このため厚真火力発電所のダウンで、ブラックアウトに至りました。発電と需要の地域バランスが良くないため、送電ルートの切断で需給バランスが崩れたりもしました。さらに、本州と結ぶ北本連系線が直流送電だったため交流変換が必要で、全域停電では役に立ちませんでした。電気は現代社会にとってなくてはならないものです。安全性強化とゆとりある運用が必要です。
全道の孤立
北海道は空路、海路、青函トンネル、北本連系線などで、本州と結ばれています。ブラックアウトによる新千歳空港の閉鎖と北海道新幹線の停止などで、本州との人流・物流が途絶えました。青函トンネルの開通で海運への依存が減る中、フェリーがほぼ唯一の輸送手段になり、救援に手間取りました。連絡橋途絶による関西空港の問題と同様、孤立する恐れのある場合には、隘路の強化、迂回、孤立時の籠城力などの対策を進める必要があります。
移動手段が奪われた大都市
停電により鉄道が止まり、信号が点かない道路は渋滞、ビルの上下階を結ぶエレベータは9千台も緊急停止し、大都市・札幌市は、水平・上下の移動手段を奪われました。停電で他のライフラインも影響を受け、都市を支える基盤を喪失しました。暗闇と停電の中、生活、経済活動、医療活動が停滞・混乱しました。
データセンターの停止
クラウドコンピューティングに頼る現代社会は、データセンターや通信網の維持が鍵を握ります。寒冷地の北海道は、冷房代が節約できるため、データセンターの適地です。多くのデータセンターは無停電電源装置(UPS)や自家発電機の切り替えができて、停電時も動作し続けましたが、一部のデータセンターで電源切り替えに失敗し、5時間ほど停止しました。長期間の停電で燃料輸送が滞れば、より多くのデータセンターが停止した恐れもあります。
経済被害を大阪府北部の地震と比べると
涼しい夏を楽しめる北海道は観光のメッカです。この地震で115万人の宿泊客のキャンセルがあり、観光消費の損失は356億円に上りました。北海道は日本の農地面積の1/4を占めており、26億円の農産物被害や146億円の農地損害などが報告されています。これらに、商工業被害256億円を合わせると、全体で800億円程度の被害になります。今後、さらに増加すると思われますが、M6.1、最大震度6弱だった大阪府北部の地震による推定被害額1800億円(SMBC日興証券)と比べると少ない印象です。北海道の製造品出荷額は6兆円程度、大阪府のそれは16兆円程度ですから、産業集積度の違いに関係するのかもしれません。
このように、北海道胆振東部地震から学ぶことは多々あります。確実に発生すると言われる南海トラフ地震や首都直下地震を前に、これらの教訓を活かし、事前の備えを進めたいと思います。