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「自分の中のBPOを作る」『ゴッドタン』佐久間Pに聞くネット時代のテレビの作り方

てれびのスキマライター。テレビっ子
『ゴッドタン』(画像提供:dTV)

テレビを取り巻く環境は年々厳しくなっていっている。

そのひとつが「不寛容社会」などと言われるとおり、ちょっとしたことでクレームが入ってしまうことだ。

昨年も「『裸になれば笑いがとれる』という低俗な発想が許しがたい」などという意見が寄せられ『お笑い謝肉祭』(TBS)がBPOの審議入りになった。

その結果なのか、コンプライアンスを過剰に意識した自主規制がされるようにもなってしまった。

そんなテレビを取り巻く環境などについて前回に引き続き『ゴッドタン』の総合演出でありプロデューサーの佐久間宣行氏に話を伺った。

幸い『ゴッドタン』は時間帯が深いことと続けてる期間が長くて、「そういう番組ね」って思ってくれている人が多いから審議入りしたことは、一回もないんですけど、やっぱりラジオの書き起こしと一緒で、キャプチャーされて、誤解されるってことはたくさんあるので、そこは気をつけるようになりましたね。自己防衛本能でヤベえコメントにはコメントフォローしない(テロップをつけない)とか。ここだけテロップ付きでキャプチャーされたら、すごい悪口に聞こえるなとか、差別発言に捉えられるなってところは、いままでだったら、コメントフォローしてたんだけど、それはやめちゃうかとか。そこはラジオの書き起こし問題と同じようなことがテレビにも起きてるなって思うんですよね。その一枚切り取ったら、そりゃ後輩イジメに見えるけどって。文脈を理解する人だけが見てるわけじゃないっていうのは、防衛本能としては考えるようにしてるんですけど、だとしたら、「その文脈を知らないでいるのはダサいよね」っていう空気をできるだけ作ろうとは思うんです。

制作者の段階で防衛本能を立てておかないと、最終的にいままでの文脈を分かっていない人が、言葉狩りみたいな規制の仕方をしちゃうので、そうなると今までOKだったものが全部NGになっちゃうから、“自分の中のBPO”を作って制作してます

そういう意味ではdTVをやってて感じるのは、お金払って番組を見てくれる人には、通りすがりで表層だけを見て誤解する人はいないんじゃないかって思うんです。

dTVでオリジナルコンテンツを作る理由

これまで佐久間氏は、番組の先行配信や過去映像の配信などインターネットの動画配信サービスなどを積極的に活用してきた。

そんな中、昨年から始まった、『ゴッドタン』とdTVの取り組みは、一歩踏み込んだものだ。

テレビ放送用に作ったものではなく、dTVオリジナルコンテンツを作り、配信しているのだ。

ライバルとも言えるネット動画配信サービスにそれを提供するのはなぜなのか。

きっかけは、dTVに番組の熱烈なファンがいて、その人に話をもらったからなんですけど、30分では難しいけど、10分くらいならおもしろいんじゃないかっていう企画がたくさんあったからできるなあと思って始めたんです。

配信の良さって、ひとつは企画によって尺を決められること。テレビははじめから30分とか時間が決まってるから、そこに収まるように企画を考えるんですけど、ゴッドタンの企画の中でも、ホントは10分がおもしろいものとか、40分がおもしろいものとかがあるんですよ。ネタとかでも『レッドカーペット』でおもしろいものと、『THE MANZAI』でおもしろいネタは違うじゃないですか、それと同じで。ゴッドタンでも、短い尺のほうが面白いネタはdTVに入れられることが分かってボツ企画が減りましたね。

もうひとつはアーカイブされるってこと。「キス我慢選手権」をなんで最近やっていなかっていうと、みひろと劇団ひとりの文脈を理解して全部ついていける人が、5年とか全部見続けた人しかいなくなっちゃった問題があるんです(笑)。もちろん企画の鮮度でやめるっていうのもあるんですけどね。でも、配信だと大体1話から見るじゃないですか。そういう意味で言うと、いつからでも文脈があるものを作れる。そのふたつがメリットだと思うし、地上波の制作者としては脅威でもありますね。

dTV版『ゴッドタン』の一場面
dTV版『ゴッドタン』の一場面

dTV版『ゴッドタン』に出演しているのは、おぎやはぎや劇団ひとりを筆頭に地上波の第一線で活躍しているタレントたちが少なくない。そんな彼らが配信限定のコンテンツに出るのはなぜなのだろうか。

最初、出演者も「配信? 佐久間さんがやるっていうならやるけど……」って感じの反応だったんですけど、いまはなんでも試していい空気になってるから楽しんでくれてますね。どうせやるんだったら、パンクなことをやろうと思って、見てる人も喜んでくれる人は喜ぶだろうなって思ってやってるし、そういう視聴者の顔が見えてるっていうか。だから、そんなに作り方に迷いはないですね。

ウエストランドとかタイムマシーン3号とか地上波でハマる企画が思いつかなくて、dTVの企画で呼んだら、トークもハネて、関係性ができたからそのうち地上波でも呼べるねみたいになってるのでそういう部分も良かったなって思いますね。

dTVでは最近僕らの間では、バイきんぐ・西村の喜ぶ顔が見れたらそれでいいっていう風になってる(笑)。西村がdTVに凄い似合うんです。僕らの中で小峠と西村っていうのが地上波とdTVの企画の明確な線引き。小峠が栄える企画が地上波で、西村が栄える企画はdTV(笑)。今度、西村が出る「雑我慢」の回がすごい面白くて、西村の喜ぶ顔が見たいよねえってみんなで言ってる。まあ、それが象徴することですね。地上波では伝わりづらい人でも、超絶おもしろい顔を引き出してあげたいなって。

ネット配信の課題と可能性

では、動画配信サービスの現状やその課題を佐久間氏はどのように感じているのだろうか。

明らかにこの3年くらいで配信されるコンテンツのレベルが上がってるから、本格的にライバルだと思いますね。『ドキュメンタル』は別格としても『有田と週刊プロレスと』とか、バラエティ番組でも地上波の深夜番組でもおかしくないクオリティのものが増えてきている。ドラマに関してはもう死角がある感じがしないんですよね。

単純に棲み分けが出てくるだろうなって思っていて、アーカイブ化されていくものと、リアルタイムでお祭りにしていって楽しむものと。

僕らはテレビとかカルチャーとかごった煮の世代なんで、バランスよく食べられる気がするんですけど、自分の子供とかYou Tube世代とかだと、本当に好きなものしか見ない。たとえば『ドラえもん』だけずーーっと見てる。何十話でも見れちゃうから。『ドラえもん』漬けになっちゃうと、観終わらない限り、よっぽどのことがないと、他のものに行かないから、偶然の出会いがどんどん減っていってますよね。しかも専門性のある番組がより喜ばれている感じなので「きっかけ」にはなっていない感じですね。

dTV版『ゴッドタン』の一場面
dTV版『ゴッドタン』の一場面

いま、テレビでは、コントのような作り込んだ笑いができなくなってきている。そんな中、佐久間氏は、『ウレロ』シリーズや、『SICKS』、『刑事ダンス』などでコント的な笑いを模索し続けている。

配信と組む流れが、コントをやれる新しい空気を作れると思うんです。コントをやりたかったけど、いまのテレビではコントにかける予算とか時間がなかなか生み出せなくて、それができるのを待っていたら、僕がディレクターをやっている時代にはコントができなくなっちゃうから、ドラマと絡めて『SICKS』みたいにしたり、『ウレロ』みたいに一発撮りでシチュエーションコメディ寄りのコントをやっていくことによってやるというふうに仕掛けていったんですけど。いま配信は、ドラマと組んでやってたり、今度はバラエティと組んでやってたりする。だから、バラエティの中でも、配信を見る人が増えていけば、もうちょっと濃い、作品性のあるものをっていう時代になってくると思うんですよね。

ネットでの動画配信サービスの特長のひとつは世界で同時に見れることがある。作り手として佐久間氏はどのようにそれを見ているのだろうか。

ネット配信のお陰で全世界のおもしろいものにリアルタイムで触れられてる。たとえばこの間のゴールデングローブ賞のオープニングの映像を見ると、『ラ・ラ・ランド』から始まって『ミスター・ロボット』とか『ストレンジャーシングス』とか、ほとんどがアメリカのドラマなどのパロディなんですよ。俺、8割くらいわかって良かったなあって(笑)。そんなことって配信がなかったら絶対わからないじゃないですか。配信のお陰でリアルタイムで知ることができてセンスが錆びつかないでいられる

僕らが作っているお笑いを世界に向けてやろうとすると文脈が難しい。世界同時に見るには、ピコ太郎さんのようなシンプルさだったり『SASUKE』やゲームのようなビジュアルや快感原則に則ったものでないと受け入れられられにくいんですよね。芸人さんのコントって隣国ですら伝わりづらいんです。

でもコメディの中で同時に伝わるものも探していきたいとは思いますね。せっかくこの時代に生まれたんだから、世界同時に見れるものでも勝負してみたいなって思います。

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ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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