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おもしろいだけの番組は終わってしまう 『ゴッドタン』佐久間Pに聞く深夜番組の生き残り方

てれびのスキマライター。テレビっ子
『ゴッドタン』レギュラーメンバー /画像提供:dTV

『ゴッドタン』(テレビ東京)はレギュラー放送開始から10周年を迎える。

いま深夜番組は基本的にサイクルが早く寿命が短い。

しかも情報性のない、ただただおもしろいだけの番組が10年以上続くのは驚異的だ。

これまでも『ゴッドタン』は、人気企画「キス我慢選手権」を映画化したり、「マジ歌選手権」をライブで行ったりと“外”に向けた挑戦も行ってきた。「マジ歌ライブ」に関しては、今年行われるライブ会場はなんと、あの日本武道館(3月16日)だ。

さらに10年を超えたいまでも『ゴッドタン』は、ネット配信サービス「dTV」で、オリジナルコンテンツを制作し配信するなど、新しい挑戦を続けている。

そんな『ゴッドタン』の総合演出でありプロデューサーである佐久間宣行氏に話を伺った。

この番組が10年続くとは、まったく思ってないですね。レギュラーになるまでも2年くらいかかってますからね。

その頃は、関西芸人さん全盛の頃で、関東芸人さんが第一線で活躍されていたのは、爆笑問題さんとかくりぃむしちゅーさんとかごく限られた人たちだけだったんです。なのでバナナマンとかこんなに面白いのにテレビ出てないんだろうっていうのが自分の中で番組をやっていく原動力だったんです。だから、最初は視聴者の人たちのことを考えているというよりは、こんなにおもしろい人たちがいるよっていうのを紹介したいという気持ちが強かったですね。

でも、3年目くらいから番組宛てとかにファンレターのようなものが届き出したんです。「こんなくだらない番組のお陰で引きこもってた時期を支えられました」とか。それが、1通ではなく、結構あったから、こんなクラスの隅っこでやっているような番組でもやっている意味があるんだなと思って、どうせ続けるならスイングの仕方を変えないまま続けようって。演出家としてはそうやっておもしろいことをやり続けようって決めたんですけど、プロデューサーとしては、「続ける」っていうことを意識するようにしました。

今、テレビは情報性が求められ、ただおもしろいという番組が続けることは難しい。

先日も『クイズ☆スター名鑑』(TBS)や『そんなバカなマン』(フジテレビ)などの終了が発表された。

そんな中で、どうして『ゴッドタン』は10年も続けてこれたのだろうか。

地上波の深夜番組が生き残っていける方法は3パターンくらいしかないと思うんです。

ひとつは視聴率を獲って、ゴールデンタイムなどに上がっていく。深夜番組ってスポンサーがあまりつかないから、局にとって、深夜番組はやればやるほど赤字。オンエア自体がほぼ投資なんですね。ふたつ目は、お金を生む。あとは、大物MCの息抜き番組(笑)。

このうちのどれかを実現させてないと、ちょっとおもしろいって言われても1年以上は続かないんですよ。

『ゴッドタン』は幸いにも、1年目の夏に出した「キス我慢」のDVDが結構売れたから「お金を生む」ことを早い段階で実現できたんです。それでもう1年様子を見ようっていう空気が社内に生まれたのが大きかった。だから、なんらかの付加価値を考えて、「おもしろい」を包む理論武装をしておかないとどんなにおもしろい番組でも終わっちゃうんですよね。

『ゴッドタン』dTV版の一場面/画像提供:dTV
『ゴッドタン』dTV版の一場面/画像提供:dTV

最近おもしろかったものを訊くと、『ゲーム・オブ・スローンズ』や二兎社の『ザ・空気』、『夫のちんぽが入らない』、『蜜蜂と遠雷』、『春と盆暗』、『映像研には手を出すな!』……と、海外ドラマから演劇、小説、マンガと様々なジャンルの作品を次々に挙げてる佐久間氏。多忙を極めるいまでも多種多様な表現を貪欲に見て吸収している。

『ゴッドタン』を含め佐久間氏の手がける番組では、普段テレビのバラエティ番組にはあまり出ないような、小劇場の俳優やセクシー女優、声優、小説家などを積極的に起用している。

もともとのゴッドタンの立ち上げが、この東京の芸人面白いでしょって知ってほしいっていうのがあったように、岩井秀人とか「ハイバイ」のやってることってこんなにおもしろいのに、まだわかってもらえないなとか、お芝居でおもしろいのがこんなにいるんだよとか、アイドルの曲ってこんなにいいのになとか、アニメもこんなにおもしろいのになとか、そういう気持ちが絶えてなくて、もっとみんなに知ってほしいなっていうのがありますね。それは僕がラジオっ子で、ラジオのお陰でテクノとかそれまで知らなかったいろんなものを知ったり、フジの深夜番組のお陰で映画見るようになったっていう体験があるからだと思いますね。

来るべき全録時代に向けて

現在、テレビ番組を評価する絶対的指標が視聴率だ。スポンサーがその数字をもとに広告効果を計算し、番組を“買う”のが基本である以上、その指標は揺るぎようがない。

だが、番組のおもしろさと視聴率の乖離がたびたび話題にあがったりもする。加えて、録画機の充実などで、実態を反映していないなどという批判もある。

そんな中、録画視聴とリアルタイム視聴をあわせた「総合視聴率」が発表されるようにもなった。

でも視聴率が高い番組はおもしろいとは普通に思いますね。視聴率を小手先のテクニックで上げていくっていう時代はもう終わったと思うんです。いまは、番組の愛着を徐々に上げていって、ファンを作ってそれが視聴率につながっていくっていう時代に変わって来ていると思いますね。

あと、野球だっていま打率で見てないじゃないですか。OPSで見てるでしょ。そっちのほうが選手の評価としては正しいってなってる。

OPSとは、野球において打者を評価する指標の一つで、出塁率と長打率とを足した数字。それまで打率やホームラン数などでしていた選手の評価を、本当によりチームに貢献できる選手を選ぶ基準として生み出された。

テレビも、いま暫定的に録画視聴率を足した「総合視聴率」っていうものにしてると思うんですけど、テレビ番組のパワーや広告効果を測る上で、もうちょっといい掛け算があると思うですよ、きっと。それをホントはテレビ局主導で考え出していかなきゃいけないんじゃないかって思うんですよね。野球だってOPSを生み出したのは、いい選手を安く買うために球団側が考えたんだから。

動画配信サービスの充実や、全録機の登場で、テレビは岐路に立たされている。

もうどう考えても全録が普及していくに決まってるから、そうなっていくところを「全録になっちゃったね……」って迎えるのか、全録になると見越してやっていくのか

全録になれば、アーカイブ性という意味では、ネットの動画配信サービスと変わらくなるから、同じ土俵で戦うことになる。そうなるとおのずと作り方も、もっとアーカイブ性を活かしたものになると思いますね。技術が発達して録画できる期間が何ヶ月とか1年に増えれば、連ドラだっていつでも1話から見れるようになる。そうなれば、途中からでも分かるように作ろうって言われなくてすむ。バラエティだってシーズン企画とかもできやすくなりますよね。

全録になっていくのは絶対なっていくんだから、先に仕掛けた局が勝つんじゃないかなって思いますね。

まさに佐久間氏は、「先に仕掛け」ている。

『ゴッドタン』では動画配信サービス「dTV」で、過去映像を配信するだけでなく、一歩踏み込み、オリジナルコンテンツを制作し配信を始めた。それも、来るべき全録時代に向けた大きな“実験”のひとつではないか。

次回は、そんなテレビを取り巻く環境とネットとテレビの関係を中心に話を聞いた。

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ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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