Yahoo!ニュース

東日本大震災から10年、電力の安定供給は大丈夫?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
筆者撮影

電気に依存する社会を襲った東日本大震災

 現代社会は電気がなければ成り立ちません。エネルギーには様々なものがありますが、電気への依存度が急速に高まっています。声高に叫ばれるデジタルトランスフォーメーション(DX)も、電気と通信が支えています。生きていくのに不可欠な水の供給も電気に依存しています。オール電化住宅も増えてきましたし、カーボンニュートラルの流れの中で、自動車の電動化も進んでいます。逆に言えば、確実に電力供給を行うことが社会の維持に不可欠であるということです。その電気が失われたのが2011年東日本大震災でした。

多くの発電所が止まった

 東日本大震災では、強い揺れと津波によって、多数の発電所が停止しました。稼働中だった原発については、福島第一原発1-3号機、福島第二原発の1-4号機、女川原発1・3号機、東海第2原発は地震の揺れで自動停止しました。ただし、福島第一原発は敷地内の送電鉄塔の倒壊で外部電源を失い非常用発電装置が稼働しましたが、津波による浸水で全電源を喪失し、冷却機能を失って放射性物質放出という深刻な事態となりました。

 火力発電所も、東京電力では広野火力発電所、常陸那珂火力発電所、鹿島火力発電所、大井火力発電所、五井火力発電所、東扇島火力発電所が停止し、東北電力では新潟県内の火力発電所を除くすべての発電所が停止しました。

送電・変電・配電設備も被害を受けた

発電所に加え、送電設備、変電設備、配電設備も大きな被害を受けました。とくに東北地方の太平洋側の送電設備や変電設備は、津波による瓦礫や車両が流入したことで送電鉄塔の倒壊などの被害が生じました。それに加え、揺れによる碍子などの折損などが多数発生し、津波による電柱等の倒壊・流失も深刻でした。

大規模な停電が発生

 多数の発電所が同時に停止する災害は初めての経験でした。広域で強く揺れ、さらに津波を伴う超巨大地震ならではの被害の特徴です。この結果、供給量が需給量を下回り、東北地方や関東地方の広域で停電が発生しました。そのため、東北電力では790万kW、東京電力では890万kWの供給支障が発生し、東北電力では最大466万戸、東京電力では最大406万軒の停電が起きました。

連系線の細さと東西で異なる周波数

 供給不足分を他電力から補えるとよいのですが、日本は東西で周波数が異なります。このため、同じ周波数の北海道電力からの供給と、中部電力から周波数変換しての供給に頼るしかありません。ですが、北海道と東北を結ぶ北本連系線の送電能力も、周波数変換能力も全く足りませんでした。このため深刻な電力不足に陥ることになりました。

 北本連系線の容量不足は、2018年北海道胆振東部地震での北海道のブラックアウトでも大きな問題となりました。

計画停電と節電

 震災後、被害が少なかった火力発電所が徐々に再稼働し、供給量は増えました。また、比較的電力消費量の少ない時期に当たり、節電の呼びかけもあって需要も抑制されました。ですが、ピーク時間には需要が供給量を上回る事態が予想されました。このため、供給不足になると思われる時間帯に、地域を区切って輪番で停電させる計画停電が東京電力管内で実施されました。3月14日から2週間にわたった計画停電では、電気がなければ成り立たない産業など、社会活動が大きく影響を受けました。

電力の安定供給

 電力の安定供給のためには、需要と供給をバランスさせること、周波数をコントロールすることが必要になります。ですが、需要量は季節変動や時間変動が大きく、天候にも左右されます。また、電気は蓄えることが難しいので、揚水発電などに頼ることになります。このため、供給余力を確保しながら、需要量に応じて発電量を変化させる運用が各電力会社によって行われてきました。一方で、環境負荷低減の立場から、太陽光などの再生可能エネルギーの利用が増加し、供給量の変動も大きくなってきました。このため、電力システムの改革が行われることになりました。

電力システムの改革

 東日本大震災を受けて、①安定供給の確保、②電気料金の最大限の抑制、③事業者の事業機会と需要家の選択肢拡大の3つの目的を掲げた電力システム改革が始まりました。2013年4月に閣議決定された「電力システム改革に関する改革方針」によって、①広域系統運用の拡大、②小売及び発電の全面自由化、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保という3段階からなる改革の全体像が示され、昨年、一連の改革が完了しました。この間、2015年4月に、地域を越えて電力需給を管理するために電力広域的運営推進機関が発足し、2016年4月には「電力の小売全面自由化」によって多数の新電力会社が設立され、昨年には各地で送配電会社が設立されました。

心配される南海トラフ地震での大規模停電

 広域系統の運用は拡大したものの、日本国内に限られ、ヨーロッパのように国を超えた運用とは異なります。また、東西の周波数変換能力は210万kWに過ぎず、東日本大震災での供給支障量に比べはるかに少ないのが現状です。西日本広域での被害が予想される南海トラフ地震や、首都圏の被災が予想される首都直下地震を考えると、不足は明らかです。また、小売りと発電の自由化によって過度のコストカットが行われれば、安全に対する配慮が不足がちになります。社会の維持のためには、多少のコストはかかっても絶対に供給を途絶えさせないようにすることが望まれます。

再生可能エネルギーと電気自動車普及への期待

 少数の大規模発電所に頼る現在の集中型の電力システムは大変効率的です。ですが、発電所の多くは災害危険度の高い沿岸部にあり、大規模な送電、変電、配電システムを維持し続けていく必要があります。一方で、近年、新築戸建て住宅の多くに太陽光発電が設備されています。また、電気自動車の普及も見込まれ、各戸で発電・蓄電をすることが容易になりつつあります。近い将来には蓄電容量の大きな固体が開発される見込みです。これが実現すれば、分散型電力システムと集中型電力システムが相互補完でき、大規模災害時にも電力の供給が可能になります。

 我が家も、太陽光発電、蓄電池、燃料電池、ハイブリッド車を組み合わせて、停電防止に励んでいます。明るい気持ちで、カーボンニュートラルと防災減災を同時実現してきたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

福和伸夫の最近の記事