認知症の家族を持つ方に『介護者手帳』を作成~家族を介護する方の戦略と準備を支える 業界初の試み~
6月1日に安倍首相は消費増税の再延期を表明しましたが、心配なのは社会保障の財源をどう確保するかについてです。「1億総活躍社会」や「介護離職ゼロ」といった言葉が飛び交う中で、実際に介護や保育の現場からは不安の声も上がっています。
ちょうど同じ日にNPO法人UPTREEでは、業界初の試みとして家族介護を行っている方々を支えるための手帳「介護者手帳」を発行しました。
NPO法人UPTREEは東京都小金井市にて、家族介護をしている方への居場所づくりを行っている団体です。「認知症カフェ」を2か所で開催し、人材育成も並行して行っています。また、将来的な家族介護を見越した事前啓蒙活動「介護者予備校」を主宰して、介護保険外の枠組みから介護を行っている家族に対し「助け合い事業」を実施しています。
家族介護者に向けた支援整備を急ピッチで進める必要性
家族介護者とは、ケアラーとも呼ばれる方々の総称です。
近年、介護保険では在宅への回帰が見られ家族を身内で在宅介護する方、すなわち家族介護者が増えています。内閣府『平成27年版高齢社会白書』では要介護高齢者で施設サービスを利用している方は91万3千人に対し、居宅系サービスは278万6千人と約3倍となっています。
そんな中、厚生労働省が2013年に発表した『平成25年国民生活基礎調査』では「家族の病気や介護」でストレスを抱える家族介護者は約53.1%おり、かつ約19.5%の方は「自分の病気や介護」にも悩んでいることがわかっています。
先の『高齢社会白書』では家族の介護や看護を理由とした離職・転職者数が年間10万1千人であり、とりわけ女性は全体の80.3%を占めていると示しています。また、男女・年齢別にみると、男女共に50代及び60代の離職・転職がそれぞれ約7割を占めています。
アベノミクスを通じて1億総活躍社会が目指され、「介護離職ゼロ」が叫ばれ、また介護保険も在宅へシフトする今日、家族介護者を支える活動や仕組みの整備が急務であると考えられます。
家族介護者を支える「介護者手帳」
そのような中でNPO法人UPTREEは「介護者手帳」の作成にとりかかりました。家族介護者のインタビューに基づき「あったらよかった」を手帳として形にしたものとなっています。
「介護者手帳」に対する介護者の感想をご紹介します。
母が認知症を発症した時、どうしたらいいかわからずパニック状態でした。そんな時に相談にのってもらった経験者の方から、ケアラーカフェとこの介護手帳を紹介してもらいました。冷静に家族と介護について考えるきっかけをもらえました。
40代 女性/介護者
介護の情報はバラバラに点在していて、不親切なものです。このノートを見て本当に感動しました。最初から最後まで介護者の気持ちに寄り添った内容でした。何よりも記入することで、心も現実も整理されると思いました。
50代 女性/介護者
この「介護者手帳」は、いわば介護版の母子健康手帳であり、介護ロードマップを掲載して介護のための戦略作りとその準備を促します。手帳を用いて介護した内容を可視化し、ご本人を取り巻く状況をまとめることができます。介護の準備だけでなく、介護者が記録することに特化した専門手帳であり、とりわけ家族介護が困難な認知症の方への介護も対象としています。このような手帳の作成は業界初の試みです。
NPO法人UPTREEの代表理事である阿久津美恵子さんは「この手帳は自分が、介護が始まる前に欲しかった手帳です。これから介護が始まる人たちに少しでも早く届ける環境が出来る様、新しい日本の仕組みを作りたいと思います。」と、介護者手帳への想いを語っていました。
この介護者手帳はきっと家族介護を行う人々の負担を減らしてくれることでしょう。将来的には介護離職ゼロを目指す企業に向けた研修の基礎テキストとして活用する、行政窓口より要介護認定が下りると共に家族へ配布されるなどで広く世間に浸透することを期待しています。
ぜひこちらの記事もご覧ください。