6戦終えて6人のウイナーが誕生!電気自動車のフォーミュラEは2019年最も面白いレースだ。
2019年のモータースポーツはシーズンインの季節となった。すでに開幕した「F1世界選手権(フォーミュラ1)」ではホンダエンジンを使うマックス・フェルタッペン(レッドブル・ホンダ)が3位表彰台を獲得。さらに2輪の「MotoGP」では軽量級のMoto3クラスで日本人ライダーの鳥羽海渡(とば・かいと/ホンダ)が優勝するなど、モータースポーツ界は早くも話題沸騰の3月になった。
そんな中、最高にスリリングなレース展開で国内でも人気をジワジワと上昇させているのが電気自動車の「フォーミュラE」だ。2018年末から始まったシーズン5(2018-19年)は開幕から6戦を終えて何と6人のウイナーが誕生するという混戦ぶりになっている。
新車になって実力伯仲の戦いに
今、一番面白いレースはフォーミュラEだ。そう断言してしまおう。
過去の4シーズンとは何もかもが変わったと言っても良いくらい今季の「フォーミュラE」は激変した。最も大きく変わったポイントは車体。よりレーシーなルックスを持ち、ダウンフォースを増加させた「Gen2(ジェンツー)」へと進化し、レースの迫力が大幅にアップした。
それだけではない。今季からルノーが「日産」にバッジを変える形でワークス参戦。さらに「BMW」もワークス参戦を開始し、開幕戦からいきなりの優勝を成し遂げた。既存の「アウディ」に加えて、来季からは「メルセデス」と「ポルシェ」が本格的なワークス参戦をすることになっており、ヨーロッパの主要自動車ブランドが激突する戦いへと変わりつつある。
巨大自動車メーカーの積極的な参加はその絶大なプロモーション力も相まってシリーズを華やかなものにしてくれる。しかし、その一方で、巨額なマネーの流入は自動車メーカーワークスの一人勝ちになる可能性を高めることになる。まさに「F1世界選手権(フォーミュラ1)」が良い例で、優勝を狙えるのはメルセデス、フェラーリ、レッドブル(ホンダ)、ルノーといった各パワーユニット供給メーカーのワークスチームに限られる。
「フォーミュラE」も程なくしてそういうメーカー主体のレースになっていくのではないかと思われたが、蓋を開けてみれば巨大ワークスの優勝は「BMW」と「アウディ」がそれぞれ1回ずつのみ。残りの4勝は「フォーミュラE」をそれぞれのスタイルで戦っているプライベーターまたは小規模メーカーによる勝利だった。
特に今季はレースシリーズによくある「流れ」というものが全く存在せず。1戦、1戦で主導権を握るチームとドライバーが異なる。そして、コンクリートジャングルの中に作られた市街地コースでは度々クラッシュが発生。さらにレースも終盤までドライバーたちが限界ギリギリのバトルを展開している。こんなスリリングなレースは他にない。
元F1ドライバーなど錚々たる面々
今季は先述した通り、全12戦(13レース)中の6戦を終えて、6人のウイナーが誕生している。その勝者6人は全て異なるチームからの参戦だ。
さらにポールポジション獲得者も6人で、この中でポールからの優勝はアントニオ・フェリックス・ダ・コスタ(BMW)の1人だけ。6人中4人が今季のウイナーとは違う面々だ。この混戦状況はF1ではまず起こらないことであるし、新型シャシー「Gen2」が導入された第2章がまさかここまで縺れるとは誰も予想できなかった。それどころか、今後の予想も全く立てられないくらいだ。
2018-19年のフォーミュラE(第6戦終了時点)
・優勝者
Rd1 ダ・コスタ(BMW)
Rd2 ダンブロージオ(マヒンドラ)
Rd3 バード(ヴァージン)
Rd4 ディグラッシ(アウディ)
Rd5 モルタラ(ヴェンチュリ)
Rd6 ヴェルニュ(DSテチータ)
・ポールポジション
Rd1 ダ・コスタ(BMW)
Rd2 バード(ヴァージン)
Rd3 ブエミ(日産)
Rd4 ウェーレイン(マヒンドラ)
Rd5 バンドーン(HWA)
Rd6 ロウランド(日産)
6戦を終えて、今季、最も多くのポイントを獲得しているのは開幕戦・サウジアラビアのウイナーであるアントニオ・フェリックス・ダ・コスタ(BMW)=62点。そこから僅か1点差で、ジェローム・ダンブロージオ(マヒンドラ)=61点。ランキング3位はトップから8点差で、昨年の王者であるジャン・エリック・ベルニュ(DSテチータ)=54点で続く。3位以降はさらなる大接戦だ。
全11チーム22人のドライバーの中で、F1経験者はネルソン・ピケJr.(ジャガー)、ストフェル・バンドーン(HWA)、フェリペ・ナスール(ドラゴンレーシング)、ルーカス・ディグラッシ(アウディ)、フェリペ・マッサ(ヴェンチュリ)、セバスチャン・ブエミ(日産)、ジャン・エリック・ベルニュ(DSテチータ)、アンドレ・ロッテラー(DSテチータ)、ジェローム・ダンブロージオ(マヒンドラ)、パスカル・ウェーレイン(マヒンドラ)の10人。この中でF1の優勝を経験しているのはマッサだけだが、F1デビューやテストドライバーの時代には将来を嘱望された選手ばかりである。
「フォーミュラE」の過去4シーズンのチャンピオンは全て元F1ドライバーが獲得してきたことを考えても、彼らが最高峰を経験した偉大なキャリアに恥じない結果を残していることが分かる。
フォーミュラEは再評価される舞台
そんな元F1ドライバーたちと戦うF1未経験者たちの活躍も見逃せない。彼らの多くはF1に昇格できる実力がありながら、資金力や政治または時の巡り合わせなどで、残念ながらF1を諦めざるを得なかった実力派ばかりなのだ。
サム・バード(ヴァージン)はF1直下のGP2(現F2)でランキング2位になったことがある。そして、エドアルド・モルタラ(ヴェンチュリ)やアントニオ・フェリックス・ダ・コスタ(BMW)らはF1への登竜門と呼ばれる市街地レース「F3マカオGP」で優勝しており、市街地コースが中心の「フォーミュラE」では、市街地コースを得意とするストリートマイスターぶりを発揮。モルタラもダ・コスタも今季のウイナー6人の中に名を連ねている。
さらに、ホセ・マリア・ロペス(ドラゴンレーシング)はWTCC(世界ツーリングカー選手権)のチャンピオンであるし、ゲイリー・パフェット(HWA)はDTM(ドイツツーリングカー選手権)で2度のチャンピオンを獲得。ロビン・フラインス(ヴァージン)はアウディのGTワークスドライバーとしてブランパンGTシリーズのチャンピオンにもなった。
彼らの多くは「フォーミュラE」と兼任で北米、欧州のGTレースやル・マン24時間レースなどの耐久シリーズを戦っている。GTカーでメーカーのワークスドライバーとして実力を発揮し、その実力が買われる形で、ワークス戦争が激化しそうな「フォーミュラE」に送り込まれた、いわばメーカーからの刺客なのである。
そんな中で、新たなチャンスを得て、別の舞台に旅立っていくドライバーも居る。日本のスーパーフォーミュラ、SUPER GTでも活躍したフェリックス・ローゼンクビストだ。ローゼンクビストは「フォーミュラE」にデビューしたシーズン3(2016年-17年)でシンデレラボーイのごとく優勝を飾り、所属したインドのチーム「マヒンドラ」を一気にトップチームの座へと導いた。
天性の速さとクレバーなレース運び、そしてエネルギーマネージメントに長けた走りは一気に開花し、世界的に注目を集める存在に。そして、今季は開幕戦に出場したのみで、北米インディカーのトップチーム「チップガナシ」からの熱烈なオファーを受け、ローゼンクビストは「フォーミュラE」を卒業した。
ローゼンクビストがインディカーでも早速トップを走るなど目覚ましい活躍を見せていることからも分かる通り、「フォーミュラE」で活躍することはレーシングドライバーとして次のステージへと繋がっていくのである。これは「フォーミュラE」が始まった当初ではちょっと考えられなかったことで、ローゼンクビストが切り開いた道はシリーズとしても大きな財産になって行くだろう。
今の「フォーミュラE」ドライバーたちがその道を狙っているのは当然だ。だからこそ「フォーミュラE」は面白いのだ。自動車メーカーが積極的に関与しても、現時点でのレギュレーションでは車体も同一であるし、極端に大きな差はすぐには生まれない。今の「フォーミュラE」を戦う上で非常に大事なのは、ハードの進化やバックグラウンドでのデータ解析以上に生身のソフトウェアとも言える、優れたレーシングドライバーを起用することにあると言える。
新車投入初年度でチーム間の実力は拮抗しているからこそ見えてくる、レーシングドライバーという人間のピュアな戦い。これがあるからこそ、エキゾーストサウンドが聞こえない電気自動車のレースでも興奮できるのだ。最後まで誰が勝つか分からないスリリングなレース。この戦いを勝ち抜いたドライバーはきっと誰も得たことがない名誉を得ることになるだろう。そんな激戦の「フォーミュラE」を是非見て欲しい。
【FIA Formula E】
次戦:第7戦・ローマe-Prix
日時:2019年4月13日(土)
場所:ローマ市街地コース(イタリア)
放送:J SPORTS(生放送)/BS日テレ(後日録画放送)
Web: フォーミュラE公式サイト(英語)