国立大出身のロマン砲はその名もロマン! 物理学を用いた豪快なスイングでかっ飛ばす打球はロマンそのもの
■大化けを予感させるロマン砲
「ロマン」とは、辞書には「夢や理想を追い求める心情や、現実離れした物語性」とある。ドラフト市場でも、粗削りながら一発長打を秘めた選手を「ロマン砲」と称する。
まさに、そんな“ロマン”を感じさせるスケールのデカい選手がいる。石川ミリオンスターズの森 路真(もり ろまん)選手。登録名も「路真」だ。
岡﨑太一監督も「路真はロマン砲ですね(笑)」と表現するように、187cm・88kgの恵まれた体躯から放たれる打球は、見ている者にまさしく“ロマン”を抱かせる。
入団した当初は練習生だったが、オープン戦で結果を積み重ねて出場選手登録されると、開幕戦では2点を追う九回裏の1死二塁、代打で打席に立った。公式戦初打席で気持ちのいいスイングを披露し、三塁打を放って追い上げの1点を叩きだした。
その次のゲームからは指名打者としてスターティングメンバーに名を連ね、クリーンアップも経験。「守備でも使いたいけど、そこもチーム内の競争やから」と岡﨑監督は話していたが、6月には2試合、レフトで先発出場もした。
まだまだ未完である。だが、何かやってくれそうな、大化けを予感させるロマン砲…それが路真選手だ。
■野球は失敗できるスポーツ
石川県白山市の出身だ。幼稚園のころから「メジャーリーガーになりたい」と無邪気に口にする子どもだった。「まだ野球もやってないのに(笑)。たぶん、父親に『野球選手になれよ』みたいなことを言われていたのかもしれないです」と、野球好きのお父さんの影響だったのだろうと振り返る。
小学1年で野球を始めてからは一筋で、ほかのスポーツには見向きもしなかった。
「だって野球はおもしろいから。失敗できるスポーツというか、バッティングでも失敗が多い分、打ったときに楽しい。そういうのは、ほかのスポーツには少ないんじゃないかなと思います」。
どんなにいいバッターでも7割近くは失敗するのが、「やっているほうも、見ているほうも、おもしろい理由じゃないかと思います」と分析する。
中学まではピッチャーやキャッチャーをし、金沢泉丘高校に入学すると「ピッチャーもちょっと挑戦したけど、コントロールが悪くて」と、外野手になった。
県内でも有数の進学校だが、「野球にも力を入れていて、勉強だけじゃなくて野球もしっかりやっていました」と文武両道を極めた。
■大学時代に自身の武器を知る
子どものころから、夢はプロ野球選手だった。その「夢」が、職業として明確な「目標」になったのは、大学生のときだ。大学は国立の金沢大学に進学した。
「高校を出たときは『野球だけやりたい』っていうよりは、野球もしたいけど学力としてはできるだけ上を目指したかった。でも、大学に入って自分のスイングスピードとかを計ってもらって、ほかの選手と比べたときに強く振れることが武器なんだとわかって。それで、もっと上のレベルで試したいと思ったんです」。
ラプソードで計測すると、打球速度が150キロあった。誰にも負けない打球速度は自信になり、自身の進む道が見えた。入学時に72~3キロだった体重も、シーズンオフのトレーニングと食事で約15キロ増えていた。
大学での練習時間は1日に約3時間で、週に5日。入学したときは北陸大学野球連盟の二部に所属していた金沢大学だが、路真選手の奮闘もあって3年春に優勝し、入れ替え戦で勝って一部に昇格した。
一方、「テスト期間中の部活ができないときに、一気に勉強して単位を取っていました」と勉強も疎かにはせず、しっかりと両立した大学時代だった。
卒業時、「プロを目指したい、とにかく野球を続けたい」という気持ちを抑えきれず、高校時代のトレーナーのつながりでミリオンスターズのトライアウトを受けた。そして、地元の独立チームからNPBへと、目標を定めた。
■物理学とバッティングの関係は?
路真選手のウリは、なんといっても豪快なスイングだ。
「全然タイミングが合っていないような空振りとかもするけど、そのあと、対応する。同じ球種を続けられたり、裏をかいてまっすぐが来たりしたら、それをカーンって打ったりする。右バッターの中では、速いボールに対して一番強いんじゃないかな。それくらい、しっかり振れますね。スイングスピードはチームでもトップクラスなんで」。
岡﨑監督はこのように讃える。
とにかく振るのだ。振りながら、修正してアジャストしていくスタイルだ。「空振ったときに、ちょっと引っ張りにいきすぎているなと思ったら、意識を右中間にするとかしています」と、まず振ることで情報を得る。
「甘い球、ストライクゾーンは全部振るのが理想」とキッパリ。「配球は読まないようにしている」とも言いきる。どんな球でもとらえられるように待ち、来た球に反応することが理想だという。
「ボール球を振らず、ストライクゾーンにきた球に強振することを繰り返していけば、結果はついてくると思います」。
好球必打に徹し、思いきり振る。飛距離だけでなく、広角に打てるのも特徴だ。
また、理工学域機械工学類で学んだ物理学を用いて、打撃を追究しているのだと明かす。
「たとえばバットを、構えから落ちてくるスピードを利用して加速していくとか、理論的にバットの角度がこうだからこういう打球がいくとか、映像を見ながら考えています。フォーム、構え方を考えるのには、役立っていますね。いろいろ考えて試行錯誤していますが…」。
やや前かがみな独特な構え方も、「リラックスできる」と行き着いたスタイルだ。
■鈴木誠也選手を目指す
守備に関しては、経験を積んでいる途上だ。ポジショニングなど「やらかした」という日もあり、「もっと余裕をもって(打球に)いなかないと。まだまだですね」と向上を目指す。ただ、「肩は自信があります」と胸を張る。
そして、足も長所の一つだ。走攻守三拍子そろっているのは、路真選手としてもアピールしていきたいところだ。
そんな路真選手が目標に掲げるのは鈴木誠也選手(シカゴ・カブス)。「三拍子そろっているから。バッティングもいいし、肩も強い。そして走れる」と、まさに理想の選手像だ。あんな選手になりたい、いや、なるんだと誓う。
■準備のたいせつさを教わる
阪神タイガースで16年にわたって活躍した岡﨑監督からは、日々学ぶことばかりだという。直接話しかけられて教わることもあれば、「いろんなことを考えてらっしゃる」と監督の様子を見て習得することもある。
「とくに準備の部分ですね。しっかり試合に臨むための準備を最大限にやるっていうことを、学んでいます。プロは試合の何時間も前に球場に来て準備しているというのを聞いて、すごく意識が高いなと思います」。
試合に臨む準備はもちろんのこと、打席に向かう前の準備も重要だ。あらゆることを想定し、備えている。
また、昨年までタイガースのプロスカウトをしていた岡﨑監督に見られていることで、「常にスカウトの目がある」との意識もし、刺激になっているという。
■NPBで「ロマン」のコールを
ミリオンスターズには「森」姓が2人いることから、登録名は「路真」になった。自身もお気に入りのこの名前が、バックスクリーンのビジョンに出ることは誇らしい。
「この名前で得したことは、たくさんありますよ。自己紹介したら1回で覚えてもらえます。たとえば新チームが始まって自己紹介するときって、みんな聞いてはいるけどだいたい右から左じゃないですか(笑)。接しているうちに覚えていくっていう感じですけど、僕の場合はその場ですぐみんなに覚えてもらえる。ほんといい名前をもらったなと思います」。
いつの日かNPBで、「ロマン」の名がコールされる日が訪れることを目指している。
「いい打席をどんどん増やして、圧倒的な成績を残します」。
森路真は気合いをみなぎらせ、今日もロマンあふれる打球をかっ飛ばす。
【森 路真(もり ろまん)*プロフィール】
2001年9月10日(22歳)
187cm・88kg/右投右打
金沢泉丘高校―金沢大学
石川県出身/外野手/背番号60
【森 路真*今季成績】
16試合/打席62/打数58/安打17/二塁打2/三塁打1/本塁打1
四球3/死球1/三振12/犠打0/犠飛0/併殺打2/盗塁3/盗塁死0
打点9/得点8/失策0
打率.293/出塁率.339/長打率.414/OPS.753
(7月19日現在)
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(撮影はすべて筆者)