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東京都初の痴漢被害実態調査の結果公表!目撃者が行動する場合、痴漢被害の9割超が止まる

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
東京都痴漢被害実態把握調査

政府が「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ」をまとめ、東京都も痴漢撲滅プロジェクトを立ち上げるなど、着実に取り組みが進められつつある痴漢問題。

関連記事:100年続く痴漢問題、撲滅なるか?政府が「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ」を公表(室橋祐貴)

2023年12月25日には、東京都が初となる痴漢被害実態把握調査の結果を公表した。

東京都 痴漢被害実態把握調査

今回、被害者に加え、目撃者も対象にアンケート調査、ヒアリング調査を行った。

調査概要
Web調査
被害者調査
2,219名(電車内2,010名、駅構内209名)
東京都内在住または東京都に通勤・通学等をする16~39歳の方で、通勤・通学に電車を用いる方のうち、電車内、駅構内で痴漢にあったことがある方

第三者調査
1,354名(電車内1,042名、駅構内312名)
東京都内在住または東京都に通勤・通学等をする16~69歳の方で、通勤・通学に電車を用いる方のうち、電車内、駅構内で痴漢を目撃または痴漢の現場に居合わせたことのある方

ヒアリング調査
被害経験者調査
【目的】 痴漢被害状況、被害時の心情、対応等に関する詳細な把握
【対象】 WEB調査(被害者調査)に協力いただい方から 20名

相談支援機関等調査
【目的】 痴漢被害の相談・支援状況、被害防止対策等の把握
【対象】 東京都内の相談支援機関、学校、鉄道事業者 8機関

結果としては、

・女性の4割超、男性の約1割が、これまでに痴漢被害にあったことがある

・被害者の4割は「我慢した・何もできなかった」

・被害者の6割は、痴漢被害直後に誰にも連絡などしていない

・目撃者の5割弱が、痴漢被害を目撃した際に行動

・行動しなかった理由の3割弱が「確証が持てなかった」

・目撃者が行動する場合、痴漢被害の9割超が止まる

ことが明らかになった。

東京都では新しく作成したポスターから「アクティブ・バイスタンダー」の考え方を取り入れているが、第三者(目撃者)が行動する重要性が改めて浮き彫りになった。

東京都 駅構内ポスター
東京都 駅構内ポスター

関連記事:東京都が痴漢撲滅キャンペーンを開始!アクティブ・バイスタンダーの役割とは #NoMoreChikan (室橋祐貴)

個別の調査結果の内容については、被害経験者が読むことも踏まえて、ここでは詳細は記さないが、調査結果の考察としては下記の点が挙げられている。

痴漢被害にあいやすい状況・場所:
時期 6~7月(軽装になる時期※夏季休暇時には減少)、4~5月(新学期・新年度)
時間帯 朝のラッシュ時間帯
混雑状況 混雑状況が高くなるほど被害が多い(身動きできない状況では減少)
車両の位置 改札・階段等に近い車両
車両内の位置 ドア付近およびドアとドアの間のスペース
その他 1人で乗車している、制服を着用している等

被害者の心情と対応:被害者が行動を起こすことの難しさにつけこむ加害者
・WEB調査および被害経験者ヒアリング調査からは、被害時の心情としては、「驚き」、「嫌悪」、「羞恥」、「恐怖」、「怒り・悔しさ」等が複雑に交差する状況になることが示唆された。

・そのような状況下で、被害者が我慢した・何もできなかったとする状況、周囲の人も気づかない状況が多くみられる。加害者にとっては好ましい状況と言うことができる。

・被害者もしくは周囲の人が痴漢行為を止める行動を起こさない限り、痴漢行為は数分~十数分間程度(被害者や加害者が降車等するまで)続くことが示唆され、その間、さらに悪質なものにエスカレートすることも懸念される。

・長く続く痴漢行為に我慢する状況は、被害者の心身に悪影響を及ぼす可能性を高める。この状況に対して、被害者だけではなく、第三者がアクションを起こせるかが鍵となる。

痴漢被害の心身への影響:心身状態が悪化する場合、電車に乗る、外出する等の行動自体が怖くなることも
・WEB調査からは、痴漢被害後の心身への影響について、特に影響はなかったとの回答が5~6割との一方で、フラッシュバック、電車に乗れなくなった、加害者と同じ性別の人を避けるようになった、人間不信になったとの回答も、それぞれ1割前後みられた。痴漢被害により心身の状態が悪化・重症化する方の存在を認識することが必要である。

・相談支援機関等ヒアリング調査では、痴漢行為の度合いというよりも、被害者側のさまざまな要因(被害時の年齢が低い、以前に受けた被害の積み重ね等)により精神的に脆弱になっている状況において、被害が心身状態の悪化につながりやすいとの意見もみられた。

・痴漢被害は、電車内や路上等、どこで、誰から被害を受けるかが想定できないため、電車に乗ること、家から出ること自体が怖くなってしまう人がみられる。いつ被害にあうかわからない恐怖から行動制限されることになれば、被害の影響は大きいと言える。

・このような状況に苦しむ被害者に対しては、カウンセリングの無料化等の対応検討も望まれる。

痴漢被害にあったときの対応:多くの痴漢は、被害者が対応を取れば止めることができるが、心理的負担も大きい
・WEB調査からは、痴漢行為を被害者がやめさせたケースは1割強程度となったが、被害者が対応を取った場合には、痴漢が止まったとする回答が7~8割に達した。

・加害者にとって、被害者や第三者に対応をとられると、逮捕のリスクが一気に高まる。例として、被害経験者ヒアリング調査においても、被害者が被害を止めるための対応(加害者をにらむ、足を踏む、手首をつかむ、声をあげる、追いかける等)をとった4件のうち、2件で検挙に至っている。

・被害経験者ヒアリング調査では、痴漢を止めるための対応をとった被害者には、恐怖よりも怒り・悔しさの心情が上回った、周囲の助けを期待せずに自衛することを考えていた、以前に被害にあった際に対策を考えていた等の共通要因もみられた。

・一方で、これらの方にあっても、痴漢を止めるための行動を取った後に、恐怖や安堵で感情が高ぶる状況もみられており、極限の精神状態の中での行動だったことがよくわかる。

・具体的な対応を取れる被害者ばかりではないことは自明である。現在、痴漢被害にあっている状況を画面で知らせるスマートフォンアプリも普及しているが、心理的負担を少しでも下げながら、痴漢被害を周囲に知らせ、助けを求めることができる環境づくりが望まれる。

痴漢被害を目撃した時の対応:多くの痴漢は、第三者が対応を取れば止めることができる
・WEB調査からは、周囲の人が痴漢に気づいたと回答した被害者は1割程度となっている。また、痴漢行為を第三者がやめさせたケースは数%にとどまる。

・一方で、痴漢行為に気づいた場合には、周囲の人が助けてくれたと回答する被害者は5~6割となった。驚き・恐怖・羞恥の最中にいる被害者よりは、第三者の方が行動を起こしやすいと思われ、その役割が期待される。

・第三者が痴漢に気づいたきっかけとしては、下記等が挙げられた。
①困っている様子の被害者に気がついた
②被害者が声を出して助けを求めた
③周囲の人が声を出して助けを求めた

・実際に、被害者を助けた方法として下記等が挙げられた。その際、周囲の人と連携すべく、目配せや合図をする行動もとられている。
①直接、加害者の行為を止めた(加害者を注意する等)
②被害者に声をかける(大丈夫ですか、困っていますか、具合が悪いですか等)
③加害者と引き離す(こっちに来なさい等)

・第三者が対応をとった場合に、痴漢が止まったとする被害者の回答は9割超に達している。

・第三者が痴漢被害に気がついても行動をしなかった理由の1位に、痴漢と確証を持てなかったことが挙げられている。被害者の周囲の人に対し、痴漢被害を確証してもらうようなメッセージを発信する仕組みづくりが重要である。または、確証が持てなくとも、さりげない行動によって痴漢を「止めさせる」という視点があってもよい。

「周囲の人が痴漢を防ぐ」:この考え方を広め、周囲の介入行動を増やしていくことが重要
・WEB調査からは、「周囲の人が痴漢を防ぐ」との考え方の認知率は約1/3となっている。また、次に痴漢を目撃したら行動を取りたいとの回答も5割弱となっている。

・第三者が痴漢を止めたり、被害者を助けたりする際に、周囲の人が一緒に行動してくれること、被害者が助けを求めてくること、痴漢をとがめることが当然という意識を皆が持っていること等の条件・環境が整うと、行動を起こしやすくなるとの回答が得られた。

・学校のヒアリング調査では、周囲の人ができる行動として“5つのD”(下記)を基に検討している事例もみられた。
【5つのD(周囲の人ができる行動)】
①Distract:注意をそらす(嫌がらせを受けている人の知人のふりをする等)
②Delegate:第三者に助けを求める(駅員、周囲の人に介入してもらう等)
③Document:証拠を残す(画像等で証拠を残す等)
④Delay:後でフォローする(被害者に大丈夫か、サポートできる方法があるかたずねる等)
⑤Direct:直接介入する

相談機関への相談状況、相談支援機関の対応状況:痴漢専門の相談窓口機能が望まれる
・WEB調査からは、相談機関へ相談した被害者は数%と少ないことがうかがえた。

・相談しなかった理由として、どのような相談機関があるか不明、相談機関の連絡先がわからないとの回答がそれぞれ1割弱みられた。また、相談機関に対する印象としては、どのようなことをしてくれるかがわからない、どの機関に相談してよいかわからない、どのような相談方法があるかがわからないとの意見が多い。

・この一因として、痴漢専門の相談窓口の不在がある。相談支援機関等ヒアリング調査では、都内には、性犯罪被害者、DV被害者、女性、若者等を対象とした相談支援機関は存在するが、痴漢を主対象とし「痴漢」とうたった相談窓口はないため、相談を意図した被害者がいても、どこに相談していいのかわかりにくい状況にあることが指摘された(痴漢被害者が、性犯罪被害の相談窓口に痴漢を相談してよいのかと迷うシーンもみられるという)。

痴漢撲滅に向けた取り組み:
・WEB調査、相談支援機関等ヒアリング調査からは、痴漢撲滅に向け、効果がありそうな取り組みとして、下記等が挙げられた。
通勤・通学環境:始業時刻の分散、オンライン授業・在宅勤務の定着、オフピーク通勤の普及
防犯ICT:防犯カメラの設置、防犯ブザーの普及、防犯アプリの普及
手続:相談・連絡の簡素化・簡略化、匿名で行政の相談窓口に連絡・相談
被害者・加害者対応:加害者の再犯防止プログラム、被害者カウンセリングの無料化

予防(痴漢についてよく知る)に関する施策展開のポイント

若年層への包括的性教育の普及推進が、痴漢防止への意識醸成へとつながる
・本調査において、10代は痴漢被害にあいやすい状況にある中で、被害を大したことではないと思ったり、被害を回避する行動や届け出・相談等の行動を取っていなかったりする方が比較的多い状況が明らかになった。この点は社会にとって、都にとって大きな課題と言える。

・中高生等においては、痴漢にあうことが日常茶飯事になっており、“特別なことではない”、“仕方ない”等の空気感になっている状況は、以前も現在も変わらないのではないか。このような状況で、自分だけ被害を訴えるのは恥ずかしい、自分だけ騒いでると思われたくない等、同調圧力に配慮して訴え出ない被害者も少なくないと思われる。

・日本人は幼少期から、包括的な性教育の中で“自分の身体は自分のものである”という性的自己決定権を学んできておらず、そのために他人に不当に触られることに対し、自分が不当な行為をされたという反応より、自分が声をあげると周囲が困るのではないか、自分が我慢すればこの場が治まるのではないか等の思考となる被害者は多い。

・“自分の身体は自分のもの”との認識を持ち、プライベートゾーンを不当に触られたら、それは権利の侵害であり、反発・抵抗をしてよい、SOSの声をあげてもよいこと、また、反発・抵抗ができなかったとしてもそれも当然のことであり、あなたが悪いわけではないこと等も含めた包括的性教育を、子どもの頃から行っていくことが必要である。

・学校教育において性暴力を取り上げにくい状況があるならば、国や自治体がこれを主導していくことにも検討の余地がある。国や自治体が教育プログラムやパッケージを開発し、学校等に提供することで、学校における痴漢防止教育等の普及推進に寄与するならば、非常に意義深い。

・痴漢被害のリスクが高い若年層、とりわけ10代を、痴漢被害から守る対象群として明確に位置づけ、重点的に教育・啓発を進めていくことが必要である。

痴漢行為を止められない加害者に対し、早期に再犯防止プログラムを提供する
・痴漢加害者に対しては、刑罰と治療(再犯防止プログラム)の両輪が必要である。

・性犯罪加害者の再犯防止プログラムの参加者に、痴漢・盗撮の加害者は多い。痴漢・盗撮の加害者に対しては、認知行動療法により加害行為を止め続けることができるが、プログラムの認知が進んでいないこともあり、加害者を参加につなげることが難しい点が課題である。駅等で加害者向けプログラムの紹介等がなされるようになれば理想である。

・再犯防止プログラムを受けることにより、痴漢行為を止め続けることができることへの社会認識が広がれば、早期発見・早期治療につながるが、現状では加害者が治療につながるまでに平均約8年かかっており、その間にも痴漢行為が繰り返されている。

・痴漢行為を止められない加害者が、早期に、当り前のように、再犯防止プログラムを受ける社会になることが望まれる。

早期対応(痴漢にあっても続けさせない)に関する施策展開のポイント

被害者が痴漢を止めるための方法を提起・周知し、行動変容につなげる
・「誰かが行動を起こさない限り、痴漢行為は一定時間継続する」ことは、本調査における重要な気づきである。

・多くの痴漢加害者は度胸があるタイプではなく、恐る恐る痴漢行為を行っている。臆病で、バレないように痴漢行為に及ぶタイプが多く、少しの介入でも行為を諦める人が多い。一方、相手に反応がなく、成功体験を重ねると、徐々に行為をエスカレートさせていく。

・そのため、被害者が周囲に助けを求めている気配があるときには、加害者は一時的に痴漢行為を止める傾向にある。本アンケート調査でもみられるように、被害者や周囲の人が行動を起こすことで、痴漢阻止へとつながる可能性は高い。

・ただし、多くの被害者にとって、行動を起こすことは容易ではない。また、痴漢を止めるためにどのような行動が有効かについては明らかでないところもあり、今後の研究が待たれる。そのような現状においては、周囲の人の注意を引く(例:音を出す、物を落とす、気分が悪くなったふりをしてしゃがみ込む等)等の低リスクと思われる行動を取ることが、総合的にみて事態を好転させる/深刻化させないと言えるかもしれない。

伝達・援助(皆で痴漢を止める)に関する施策展開のポイント

・被害者が被害を知らせやすく、周囲の人が被害を確証しやすい仕組みを作ることで、援助活動を促進する
・周囲の人が痴漢を止めるための方法を提起・周知し、介入行動を促進する

連絡・相談(痴漢被害を埋もれさせない)に関する施策展開のポイント

痴漢被害の連絡・相談に関する学校や職場等の理解の促進
・警察等に届け出る被害者が少ない中、誰かに相談できたのにそれが届け出につながっていない状況は深刻である。

・被害者が児童の場合、被害を親や先生にはなかなか言えない。現実的には、友人がゲートキーパーになり、然るべき大人につなげることが望ましく、そのための教育・啓発が重要である。また、痴漢被害の相談を受けた学校の先生は、被害者や保護者とも相談の上、被害を警察や駅職員に通報することを目指してほしい。

・痴漢被害の届け出等を行う際には、被害者も第三者も、かなりの時間を要することになり、学校や仕事に遅れることになるが、それに対する遅延証明書も発行されない現状には改善の余地がある。学校においても授業に出れなかった時間を公欠扱いする等の対応を行わなければ、被害者は声をあげない選択をしてしまう。

・痴漢被害防止にかかる遅刻を認める社会になることで、またそのような行動を評価する社会になることで、被害者も第三者も声をあげやすくなる。学校や企業をはじめ社会の理解を促進し、社会構造を変えるソーシャル・アクションを進めていくことが重要である。

以上のように、痴漢撲滅に向けて取り組まなければならない課題は数多くあるが、ようやく本格的な実態調査が行われるなど、対策を進めるための土台は整いつつある。

1月からは受験シーズンが始まる。被害者を生み出さないよう、スピード感を持って取り組みが進むことを期待したい。

東京都に「受験生を狙った痴漢防止に向けた要望書」を提出しました(日本若者協議会)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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