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ホンダがバイクの世界選手権で初の三冠。オートバイ競技こそ「クールジャパン」?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
2016年の2輪MotoGP王者、マルク・マルケス【写真:本田技研工業】

12月4日(日)にツインリンクもてぎ(栃木県)で開催されたモータースポーツイベント「Honda Racing THANKS DAY 2016」の会場で本田技研工業の八郷隆弘社長がスピーチし、3つの2輪世界選手権レースで年間チャンピオンを獲得したことをファンに報告した。「ロードレース世界選手権(MotoGP)」「モトクロス世界選手権」「トライアル世界選手権」それぞれの最高峰クラスでの年間王座獲得。三冠達成は同社が1959年に世界選手権レースへ参戦して以来、初めての快挙である。

ホンダ・八郷社長とマルク・マルケス【写真:本田技研工業】
ホンダ・八郷社長とマルク・マルケス【写真:本田技研工業】

日本のバイクによる素晴らしい快挙なのに

オートバイレース界の2016年はまさにホンダイヤーとも言える1年だった。ロードレース世界選手権の「MotoGP」クラス(排気量1000cc)では9人の優勝ライダーが誕生する史上稀に見る大混戦の中、「ホンダRC213V」を駆るマルク・マルケス(スペイン)がホンダの母国「日本グランプリ」で優勝し、年間チャンピオンを決めた。

また、長年に渡って最高峰クラスのチャンピオンから遠ざかっていたモトクロス世界選手権「MXGP」クラス(排気量450cc)では、若干19歳のティム・ガイザー(スロベニア)が「ホンダCRF450RW」を駆り、ルーキーながら年間チャンピオンに輝いた。ホンダにとっては1994年以来22年ぶりの最高峰クラス制覇である。

ゼッケン243番、王者のティム・ガイザー【写真:本田技研工業】
ゼッケン243番、王者のティム・ガイザー【写真:本田技研工業】

そして、岩場などの難所を足をつかずに駆け抜けるオートバイ競技、トライアル世界選手権ではホンダが製作するファクトリーマシン「モンテッサCOTA 4RT」を駆るトニー・ボウ(スペイン)が前人未到の10連覇を達成。同じマシンを駆る日本人ライダーの藤波貴久(ふじなみ・たかひさ)もランキング3位に入る活躍を見せた。

トライアル10連覇の世界王者、トニー・ボウ【写真:本田技研工業】
トライアル10連覇の世界王者、トニー・ボウ【写真:本田技研工業】

ロードレース、モトクロス、トライアルの世界選手権・最高峰クラスにはホンダがそれぞれファクトリーチームと最新鋭のファクトリーマシンを参戦させている。3つの世界選手権・最高峰クラスを制することはホンダにとって積年の夢が叶った瞬間だった。

テレビやインターネット配信を通じ、世界中に配信され、特にヨーロッパ圏で人気の高いバイクレース。そのトーンの高さとは裏腹に、こういった日本メーカーの快挙が、日本国内ではほとんど報じられていないのが現状だ。あなたはこの事実を知っていただろうか?

世界中の人がクールと感じる日本のバイク

国内での2輪車販売台数は日本自動車工業会の報告によると、2015年で約37万2700台。近年は再び2輪車の売り上げが上昇する傾向にもあったとはいえ、1980年代のピーク時と比較して15%までに落ち込んでいる。確かにオートバイに対する関心が国内ではかなり低下しているのは否めないが、世界的な視点で見れば日本はホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキという4大バイクメーカーが存在する。

MotoGP日本グランプリ 【写真:MOBILITYLAND】
MotoGP日本グランプリ 【写真:MOBILITYLAND】

海外では日本製オートバイは今も昔も高い技術力を誇り、いわば「ブランド」視されている。昨今はオートバイの売れ行きが好調な東南アジアなどで日本メーカーが積極的なブランド戦略を打ち出しているのはよく知られる通りで、世界選手権レースへの参戦はマーケット拡大のために重要なファクターになっている。だからこそ、各メーカーが最新の技術を用いて、世界選手権に力を注いでいる事実を見逃してはならないと思う。

日本では経済産業省が中心となって「クールジャパン」を推進している。同省のホームページによると「コンテンツ・ファッション・デザイン・観光サービスなどを中心に海外で人気の高い商材を国内外に発信」としている。オートバイは工業製品にカテゴライズされ対象外なのかもしれないが、バイクレースにおける日本メーカーの活躍も一つの「日本を象徴するもの」としてもっとPRしても良いのではないだろうか?

残念ながら近年は国内では最も人気のあるロードレース世界選手権「MotoGP」クラスで優勝を争う日本人ライダーが居ないため、国内ではインパクトに欠ける感があるが、MotoGPに参戦する国内メーカー・ワークスチームの選手が発信するツイッターフォロワー数を合わせると、約955万ものフォロワーが居る(マルケス 約197万人 ペドロサ 約81万人 / ロッシ 約477万人 ロレンソ 約146万人 / ビニャーレス 約22 万人 エスパルガロ 約32万人)。たった6人の選手だけでもこの発信力である。

4輪レースの世界選手権、F1と比較すれば、ツイッターのフォロワー数だけを見ても影響力劣るのは事実であるが、F1では日本メーカーが携わった世界チャンピオン獲得は1991年のマクラーレン・ホンダ以来、25年間無い。1回の優勝ですら、ホンダの2006年ハンガリーGP以来10年間無い。それがMotoGPでは2008年以来9年連続で日本メーカーのヤマハとホンダがチャンピオンを獲り続けている。外国人ライダーによるチャンピオンに価値が見出せないのか?「いや、バイクは日本人が作っているんだぞ!」と声を大にして言わせていただこう。

日本のオートバイが好きで、憧れて日本にやってきた観光客が「人気の商材」であるオートバイに触れられないなんて、それは寂しすぎやしないか。アジアの周辺諸国にもある「カジノ」作りに躍起になっている場合ではない。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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