秋の『Apple TV+』サブスクリプションではなく5月からの『AppleTVアプリ』に世界は注目
KNNポール神田です。
「Appleの『サブスクリプション・ビジネス戦略』を予測する」でAppleとDisneyのストリーミングサービス『Disney+』との協業を期待していたが、予測ははずれた(※Disney+は4月11日に発表予定されている)。しかし、『Apple TV+』という、サービスが多くの予想どおりスタートすることとなったが、2019年の秋という…。なぜ? 秋のリリースを今頃、発表しなければならなかったのだろうか?2019年6月3日からの『WWDC(世界開発者会議)』でも十分に間に合うではないか…。この2019年3月に発表しなければならなかった理由とは?
■Appleの公式YouTubeの登録者はたったの848万人、はじめしゃちょーは772万人
AppleのSpecial Eventの全容が『YouTube』でもAppleの公式アカウントで公開された。
もちろん、Appleの公式ウェブサイトでも公開されているが、ライバルのGoogle陣営の『YouTube』でも公開している。
https://www.apple.com/apple-events/march-2019/
『Apple TV+』のプレビュー動画
ちなみに、世界でも公式AppleのYouTube登録者数は、848万人だ(2019/03/27現在)、日本語YouTuberの「はじめしゃちょー」や「ヒカキン」よりも100万人ほど多いくらいだから不思議だ。また、 Apple関連のYoutuberの「EverythingApplePro」でも708万人の登録ユーザーがいる。
Apple Japanの登録者数は、たったの26万人だ。しかし、日本語の字幕がついているので、とても見やすい。
そして、『Netflix(有料ユーザー数1億3,900万人)』の公式YouTubeの登録者数は824万人とApple公式のYouTube登録者数と拮抗している。
しかしながら…iPhoneの稼働台数は世界で9億台、iOSでは14億台を考えると、この登録者数はかなり少ない…。この登録者数の差は、『YouTube』というプラットフォームの特性を表している。
■YouTubeのサブスクリプションサービスで求めるもの
『YouTube』というプラットフォームの基本的なDNAは、『CGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア)』であり、ユーザーが作ったものを共有するところだ。だからこそ、企業のPRを兼ねたYouTubeは、まるで『広告』のような見え方になってしまう。月額1180円のサブスクリプションの『YouTube Premium』は、そのYoutubeに、公式のコンテンツやオリジナル作品もかぶせてきた有料サブスクリプションサービスであり、コマーシャルをカットし、連続バックグラウンド再生、オフライン再生というフォーマットを登場させたサービスだ。ユニークな点は、契約上サービスを公式に提供されていない日本のアーティストの作品などもYouTubeでは視聴できる点だ。そう、ピエール瀧の『電気グルーブ』もYouTubeでは自粛されることもない。しかし、Apple Musicなどからはレーベルがデジタル配信を自粛したので購入しているものまで削除されるという前代未聞の自粛問題が発生している。デジタル配信には、そういうリスクもあるのだ。
■『Apple TV+』よりもむしろ新しい『Apple TV アプリ』の登場でサブスクリプションはどう変わる?
今まで、『Apple TV』といえば、HDMIでモニターに接続するデバイス機器であり、コンテンツを購入したりレンタルできるなどのプラットフォームデバイスであった。しかし、2019年5月より、Apple TVの『アプリ』が刷新され(※日本未公開)、CATVや衛星放送のチャンネル契約をApple TVの『Apple TV Channel 』で契約できるようになる。広告がなくなり、家族契約が基本。そしてパーソナライズが可能だ。現在の10カ国が世界100ヶ国に向けてリリースされる計画だ。しかし、価格は未発表。
世界100カ国でCATVや衛星チャンネルを、ひとつのアプリで展開というのが今回の『Apple TV』の一番の注目ポイントなのだ。つまり、これは必ず日本でも展開されることだろう。…ということは、全世界のCATVチャンネルや衛星放送との契約が水面下で絶賛進行していることを表す。
■Apple はコードカットされるCATV業界テレビ業界の救世主なのか?
もちろん、日本での『Apple TV Channel 』のラインナップはまったく不明だが、米国同等のサービスが開始されるとするならば、かなりドラスティックな業界再編が期待できそうだ。
日本のCS、BS、衛星放送のスカパーやWOWOW、そしてCATV業界にも多大なインパクトがありそうだ。チューナーの搭載されたモニターの『テレビ装置』を使用しなければ、NHKにまで、その影響が広がる可能性もある。『Apple TV Channel 』に参画すればネット進出が用意にでき、テレビを見なくなった家庭も受信料に巻き込むことが可能だからだ。
青少年のネット利用時間が1日平均3時間とテレビ離れを起こしている。そして、コミュニケーション(SNS)と動画視聴がメインだ。この若者のテレビ離れをくい止めるにも、テレビコンテンツを番組表から開放し、もっとパーソナライズしなければならないのだ。
2018年の日本の地上波のテレビ広告費用は1兆7848億円だった。今年はインターネットに広告費が抜かれることはほぼ確定だ。この金額を単純に民放ネットワークの5局で割り算すると、一局あたり年間3,569億円で、1日9.7億円あればテレビ放送局を維持できる。Appleのサブスクリプションに番組をオンデマンドで提供し、おこぼれに預かれることを考えると、『TVer』や独自の課金で運用するよりも、Apple陣営で配信を検討するテレビ局が出てきてもおかしくない。そう、NETFLIXやYouTubeには、ニュースとスポーツチャンネルの弱点があり、テレビ局にはそのどちらも存在する。いわば、『雑誌読み放題サービス』と同様に、視聴された時間からの分配ビジネスへの参入だ。
そして、サービスとしての『Apple TV』は、2019年の秋からは『macOS』でも稼働する。しかも、SamsungやSonyらのスマートTVと考えると、Google以外の場所では、すべて視聴できるという環境がこの秋までのたったの半年で成立するのである。当然、ハードウェアの『Apple TV』でなくても、『Apple TVアプリ』が稼動する端末があればよい。それを作りたいと考える日本、いや世界のハードウェアベンダーもいるだろう。
しかも、『Amazon Fire TV』というAmazon側のプラットフォームにも提供される。しかし、GoogleのChoromeCastには、提供されないという差別化つきだ。Appleは、Google以外と手を組むことによって、いわばオールドメディアの『Apple TV連合軍』を形成することになりそうだ。おっと、Disney陣営60%の『Hulu』もある。もちろん、今まで同様『NETFLIX』も視聴できる。現在、Apple TVでは、『YouTube』はアプリを別途ダウンロードする必要があるが、おそらくそれは、そのまま改善されないことだろう。
つまり、Apple は、 Google以外とはすべて手を組むという戦略を選んだ。しかし、ユーザーの選択肢を完全に奪うのではなく、アプリとしてダウンロードすれば『YouTube』は視聴はできるところの皮一枚分、残しているのだ。
気になるのはDisneyの存在だ。テレビ局のABCもあれば、21世紀FOXもある。しかも、日本でもDisney がドコモと組んで『Disney DELUXE』のサービスを2019年3月11日より開始した。月額756円で見放題だ。
■秋からのサービスインを現在発表した理由は?
Appleが、NETFLIXなどで、CATV業界が悲鳴をあげているところに対して、『AppleTV アプリ』を現在の10ヶ国から100カ国に対応すると発表したことがAppleTV関連では一番のエポックメイクだった。しかも当然、支払いは『Apple Card』を使えば3%割引になるという金脈も作った。しかもそれらが、2019年の5月からだから、現在の3月25日の発表だったのだろう。ハードウェアを3日間も続けて販売予約をしてまで、この話題で独占したかったからだ。しかし、あくまでも、Appleのこの発表は、エンドユーザー向けのものではない。一番メッセージを届けたかったのは、世界100カ国以上のテレビ&CATV関係者へ向けてである。つまり、プラットフォームに乗っかればすぐに、サブスクリプションの分担がもらえる。Appleは全世界でのアプリの手数料モデルではなく、Apple Cardを経由したサブスクリプションモデルの収益が構築できるのだ。
そして、その本気度を表現する為には、スピルバーグ監督やJJエイブラムス監督、オプラ・ウィンフリーなどの業界セレブとの間での
『Apple TV+』というオリジナル番組を製作していることを強くアピールする機会としたのだろう。『Apple TV+』は2019年の秋だが、もうすでに、『Apple TVアプリ』の戦いはすでに火蓋が切られたのだ。
全世界でネットに可処分時間を奪われてきた古い体質のテレビ業界が、ネットの覇者のAppleと座組をすることによって危機を逸脱することが果たしてできるのだろうか?
あと、2ヶ月もすると、その結果が見えてくる。テレビ業界の再編が世界で始まる。