広告なしの『YouTubeプレミアム』は、広告に奪われていた人生を取り戻した気分だった…
KNNポール神田です。
2018年11月14日(水)、ついに、有料動画の黒船『YouTube Premium』が日本にも上陸した。米国では、2015年から動画に関しては『YouTube Red』として開始している。音楽は2018年5月22日のYouTube Musicとしての開始だから、日本では新たなスタートと考えても良いだろう。まずは、3ヶ月間、無料で体験できる『YouTube Premium』で、『動画』もYouTube Musicの『音楽配信』も楽しめる経験をしてみる。
https://www.youtube.com/premium
■同じサービスでも、値段がiOSのアプリと違う差別化
YouTubeなどのGoogle陣営(Alphabet社傘下同士)は、スマートスピーカー市場で争うamazonに対し、YouTubeを配信しないなどの露骨な差別化を図ってきた。しかし、Apple陣営のiOSではYouTubeの利用は可能だ。しかし、今回 YouTubeの有料サービスにおいて、iOSのアプリ経由だと値段が高くなるという差別化された状況で参入してきた。
つまり、無料体験時では気にならないが、3ヶ月後はYouTube Premiumでは、月額1180円とiOS版の1550円と、毎月370円の差が発生することになるのだ。年額にすると、その差は4,440円となる。日本ではamazonプレミアム(年間3,900円)に入会できてしまうほどの金額の差である。これはiOSプラットフォームを運営するAppleとしても、Googleとのパワーバランスにおいて、緊張問題が起きかねない事象だ。
YouTube Premium(Musicも含む) は月額1,180円だが、年間では、1万4,160円となる。
YouTube Musicは月額は980円で、年間では、1万1,760円。
月額での差は、たった200円だが、年間では2,400円の差となる。この差をどう考えるか?まずは、3ヶ月無料体験してから考えてみることにする。今からだと、2019年の2月までは無料で楽しめるのだ(入会日から3ヶ月間)。
■立場が大きく変わるプラットフォーマーとプレイヤー
YouTubeも今までは、Googleの広告媒体としてのメディアだった。いわば広告のためのプラットフォーマーのひとつだったのだ。しかし、広告を排除することによって有料のYouTube Premiumになることによって、今までの『Google』のビジネスモデルとは大きく異なる。そう、コンテンツを配信するというプレイヤーの領域への参入となったのだ。しかも、音楽配信の月額サブスクリプションも付随するから、まったく新たなビジネスモデルへの融合と考えることができるだろう。もちろん、今までも『Google Play Music』という有料サブスクリプションもあったが、Googe特有の無料もあり、有料もありの『フリーミアム』モデルであった。競合する『Spotify』らからのAndroid OS経由のプラットフォーム収入もあり、プラットフォーマーとしては、平和な時代だったといえる。しかし、2018年5月22日『YouTube Premium』という「動画+音楽配信」の月額サブスクリプションに参入したことによって無料動画、無料音楽の広告モデルであったGoogle陣営が、新たな『フリーミアム』モデルとして参入してきたことになった。そして遂に、日本のGoogleも、2018年11月14日に、YouTube Premiumとしての火蓋を切ったのだ。
■Google広告ビジネスモデルからの卒業
今やGoogleといえば、『GAFA企業』を代表するプラットフォーマーの一つだが、広告事業の成功が大きすぎて、他の事業が、すべてかすむほどだ。いわば、Googleといえども広告に次ぐ事業の成長が見当たらないという現状だ。そんなYouTubeの動画プラットフォームに月額サブスクリプションプランと、月額音楽配信が融合するというメディアの再編成が行わた。サブスクリプションは、気に入ってもらえれば強固となり競合を蹴落とすことができる。その反面、広告を排除するという広告を否定するビジネスモデルへのトライでもある。
■2012年4月からのYouTuberへの広告利益分配
YouTubeの著作権を侵害せずに、コンテンツを強化できた『ユーチューバー』との広告分配モデル『YouTubeパートナープログラム』が2008年に開始され、2012年4月からは一般の人でも申し込めるようになり多くの『YouTuber』を排出するようになった。しかし現在では問題のあるYouTuberを除くため、「過去12か月の総再生時間が4000時間以上」「チャンネル登録者数が1000人以上」を満たす必要がある。
それでも、『ユーチューバー』という一部の億万長者たちは、子どもたちのあこがれる花形の職業となり、広告のリベニューシェアのモデルを浸透させてきた。そして、ユーザーたちも、テレビの民放同様、CMの広告を観ることによってYouTuberに利益が還元される仕組みを理解し視聴している。しかし、YouTubeに広告がなくなると、ユーチューバーの収益源が絶たれると心配されるが、トップユーチューバーのHIKAKIN氏も『YouTube Premium』から分配制度があることを動画で解説している。
むしろ、子供から圧倒的な支持のあるYouTuberは、単価の低い子供向けの広告よりも、視聴回数や滞在時間などによる分配金のほうが魅力的な収益になる可能性が高い。広告がなくなることにより、とぎれることなく『一気視聴』という視聴スタイルも登場しそうだ。真剣に時間を確保して視聴しようとする『Netflix』の強敵になりえるかもしれない。有料化することによって、Netflixが「可処分時間」の競合として最もライバルになりえると思える。
■YouTube Premiumを丸24時間体験して感じた事
YouTube Premiumの体験視聴をはじめて24時間が経過した。何よりも驚くのが、YouTubeの視聴が画面をタッチすることなく、温泉の『源泉掛け流し』のごとく、ストリームしっぱなしになっている。広告のたびに脱落する必要がない『自動再生』のままだ。興味が削がれてくると…次の動画のリストから別の動画を選び、そのまままた『自動再生』だ…。もう、ひさしぶりにYouTubeの底なし沼に沈んでいく感覚がわかる…。これは新たなテレビかもしれない。ニュースからコメディから音楽から、プレゼンからガジェットまで、なんでもある!
しかも、広告を見せる必要がないので、『バックグラウンド再生』に対応したり、オフラインで視聴できるように『ダウンロード』も可能となっている。
それと同時に一番、驚いたのが『YouTube Music』のアプリだ。有料サブスクリプションの音楽配信に、YouTubeにアップされたライブ音源なども同様に聞くことができる。これは、例えば、日本ではすべてのプラットフォームで定額配信されていない『L'Arc~en~Ciel』や『サザンオールスターズ』『福山雅治』らの楽曲を聞こうとすると、有料でも『オルゴール音楽』や『インストルメンタル』楽曲になってしまう。
しかし、YouTubeはJASRACとの『包括契約』権利関係の賜物で、アップロードされたライブ動画などからも、テレビやラジオ局と同様、視聴回数に応じた分配がなされる。これは新たなYouTubeからの権利分配に、アーティストたちも恩恵に預かれるのだ。YouTubeのシステムが楽曲の権利保持者をアップロードされた動画から分析できるAIテクノロジーがあるからこそ実現された権利分配システムだ。
これは、他の音楽配信プラットフォーマーにとっては驚異のスペックだといえよう。何よりも、広告が一切入らず、洋楽、邦楽に限らず、エンドレスで再生される環境は、音楽の世界が新たに変わった印象である。そして、気に入った楽曲は、『オフラインに保存』で自分の中でヘビーローテション化することができる。
しかし、Spotifyのように『歌詞』が表示できるようなサービスはまだない。他の音楽配信をキャンセルしてでも、YouTubeの動画も広告のストレスフリーで視聴できるとすると、『ファミリープラン(6人まで1,780円)』も考えたくなる。同居家族が6人いれば一人あたり296円だ。もちろん、スマホや、タブレット、そして『CromeCast』を通じて、リビングやベッドルームのテレビにも映し出すことができる。
音楽に飽きたら、CNNやBBCのニュースもずっと『源泉掛け流し』で視聴することができる。これは『音楽定額配信』というよりも、『メディアの定額配信』に近い。
テレビのディスプレイで見れば見るほど、民放なのに広告が一切挿入されないという変な世界観になってきた…。しかも気に入らない番組はスキップしていけばよい。三度のメシよりも、ニュースとインターネットとテレビが大好きな筆者にとっては、もはやこれは『ドラッグ』に近い。昨日から家を一歩もでないまま、YouTube Premiumと紐付いている。
これは、YouTube Premiumを長期2年契約したらもらえるような高音質な専用タブレットが欲しくなってくるくらいだ。
この『Premium体験』は、広告に費やされていた人生の時間から開放された気持ちで一杯だ。今まで、一番、時間を奪われたメディアは『テレビ』の地上波だった。
まずは、一週間くらい使い続け、他のサブスクリプションしているメディアとの時間の奪い合いを自分をサンプルに改めて評価してみたい。