Appleの『サブスクリプション・ビジネス戦略』を予測する
KNNポール神田です。
Appleを取り囲むサブスクリプション事情
サブスクリプションサービスといえば、Microsoftが『Office 365』をリリースしたのが、2010年。Adobe Systemsが、パッケージ版のCS6と同時に『Adobe Creative Cloudをリリース』したのが2012年。そして、Appleが『Apple Music』をリリースしたのが、2015年7月1日。
そして、現在のユーザー数は推定で全世界5,600万人と云われる。※毎月400万人増加している。
ちなみにSpotifyの全世界の有料ユーザーは8,700万人、フリーユーザー数は1億900万人だが、米国内ではApple MusicがSpotifyのユーザーを抜いたと報じられた。
SpotifyのMAU数 出典:All digital Music □Spotifyは2018年11月のQ3決算発表(7-9月期)で、アクティブユーザーは1億9100万人と発表していた。内訳は1億9100万人のうち、8700万人が有料ユーザー、1億900万人が無料ユーザーだった。
Appleのサービス部門の売上は過去最高を更新中
Apple Musicのユーザーは基本、@980円(税込み)有料、米国では9.9ドル(@111)1,108円なので、約1,000円として換算すると、月額の売上が5600万人ユーザーで最大で560億円(約5.6億ドル)となる。※家族契約や年間割引、インドやロシアなどの料金を考慮していない。単純に年間にすると、Apple Musicだけで 6,720億円(67億ドル)だ。
Appleの業績はSEC情報でいつでも確認できる。2018年度の『10K(年次報告書)』によると…サービス部門の年間売上は371億ドル(3.7兆円)だった(期間:2017年10月〜2018年9月)。
つまり、昨年度でAppleMusicの年間67億ドル(予測)の5.5倍の売上の371億ドルだった。
しかし、毎月400万人=40億円=4,000万ドルが、『複利』で増えるという計算で考えると、単純計算でも年間で480億円(4.8億ドル)の増額となる。サブスクリプションサービスの旨味は、ユーザー数の増加分が母数に毎月足されて、複利で増えて行くところにある。成長サービスは、解約さえなければ純増で増えていく。ただ、ユーザー数のシェアの奪い合いはプラットフォーマーごとに、さらに熾烈になっていく。
Appleの直近の10Q(四半期レポート 2018年10〜12月)を見ると…サービス部門の3ヶ月の売上高は、過去最高の108.7億ドル(1兆87億円)となる。
単純に4半期売上を4倍するだけで、2019年度のサービス部門の売上予測は435億ドル(4.3兆円)となる。
iPhone部門の年間売上1,666億ドル(16兆円)からするとサービス部門の371億ドル(3.7兆円)は、22%でしかない。2019年度の予測の435億ドル(4.3兆円)でもたったの26%に過ぎない…。それだけiPhoneの売上に依存している。
Appleの全売上2,655億ドル(26兆円)に占める売上は、iPhoneが62% サービスは13%である。しかし、新製品の販売時期によって変動があるiPhoneよりも確実に売上の基礎となるサービス部門はAppleにとっては、一番の成長の期待部門である。iPhoneの次の分野を伸ばす事が最大の事業目標とも言えるだろう。
おそらく、Appleの歴史の中でも、この2019年は大きな転換期といえるだろう。長年云われ続けてきたiPhoneのセールスの成熟期と、同時に『プラットフォーマー』としての役割の端境期でもある。Appleは、『iOS』における『アプリ』の『プラットフォーマー』として、Googleの『PlayStore』と同様に業界に君臨している。それと同時に、30%のアプリに関する『流通税』が取れる仕組みも構築してきたからだ。
ジョブズが構築した0.99セントの音楽のバラ売り
そのきっかけは、スティーブ・ジョブズが一曲0.99セントで楽曲をiPodで販売できた背景がある。当時、音楽産業が違法のMP3のデジタルで瀕死になった時に、『iTunes Music Store(2003年)』で白馬の騎士となったのが、Appleである。また、『iTunes』のプラットフォームをWinodwsにも広げていたところが勝因でもあった。SONYのような『音楽レーベル』と『ウォークマン』いう『プレイヤー』を持つところは『iTunes』への参加に二の足を踏んだが…。大半の音楽レーベルは、音楽のバラ売り活動をAppleと共に展開した。しかしだ。まさか、ここまでデジタルの音楽が普及するとは、当時は、誰も思わなかっただろう。そして、今や『デジタル音楽』でさえも細分化され、『バラ売り』『売り切り』での販売ではなくなり、サブスクリプションモデルの『プレイヤー』からの『印税分配』によって成立するところにまできてしまった。このたったの10年で誰もが予期しなかったメディアの編纂が発生している。
『iTunes Music Store』はその後、『App Store』へと進化していく。『AppStore』は、30%にわたる手数料をデベロッパーに課金している。サブスクリプションモデルでもこれが適応され、ユーザーが2年目になってはじめて課金は15%となるようになった。
元レンタルDVD屋がアカデミー賞を受賞する…
アカデミー賞作品に、Netflix作品の『ROMA』が監督賞、外国語映画賞、撮影賞と三冠も受賞し、『映画』が『映画館』とのパッケージでなければならない時代に終止符を打った。2時間のコンテンツをどの場所で、どのプレイヤーから配給されるのか?が問われるようになったと言えよう。テレビに関しても、CATVで数百チャンネル楽しむ家庭はいなくなり、『コードカッター』と呼ばれ、ネットで楽しむ人たちが急増している。ハリウッドメジャーの親会社のCATVも先行きが不安となることだろう。そう、まさにテレビ番組や映画などもCATVで楽しむのではなく、いつでも、テレビやスマートフォンやタブレットで楽しめる時代になった。そして、今や、その主役に躍り出ているのが、元レンタルDVD屋だった『Netflix』(1997年創業)だから戦々恐々だ。
既存メディア産業にとっては、Appleのような企業は脅威ではあるが、直接ビジネスモデルが競合するところではなかった。むしろ、新興メディアである『Netflix』や『Amazon Prime』や『YouTube』のようなところのほうが、さらに脅威なのだ。Appleと手を組み、デジタルシフト化を図れるのならばその道を選ぶところは多いはずだ。ディズニーのような自前で対抗するところは、それほど多くもない。21世紀FOXの買収も完了し、DisneyDELUXEやDisney+も展開する。しかも、ディズニーの個人大株主は、スティーブ・ジョブズ夫人だ。まさかディズニーもレンタルDVD屋とこんな競合関係になるとは夢にも思わなかったはずだ。
アップルの30%課金逃れ
『Netflix』や『Spotify』のような大手となると、Appleを経由した、アプリ内課金ではなく、自分のサイトでユーザー課金することによって、Appleの手数料から逃げることができるようになった。しかも、Appleが『プラットフォーマー』として手数料を取りながら、ライバルとしての『プレイヤー事業』をやりはじめたものだからたまったものではない。『Netflix』や『Spotify』も『iOS』で利用されるメリットがあるからAppleとは仲良くせざるをえないが、今後、『プレイヤー』として『サブスクリプションビジネス』のライバルとなった場合は、徹底的に戦う相手となりそうだ。
そう、いわば、Apple商店街のテナントに、入っていながら、大家のAppleが隣に競合店を出店するようなものだ。しかし、売上があるから撤退できないというジレンマが残る。
また、Netflix側は今回、Apple側のサービスには入らないと声明した。
アップルのサービスは少なくとも開始時には、コンテンツ調達で他社にかなり頼ることになる見通しから、同社がネットフリックスと何らかの提携を結ぶのではないかと取り沙汰されていたが、ブルームバーグ・ニュースは先週、ネットフリックスがアップルの新サービスに参加することはないと報じた。
GAFA 新・コンテンツ戦国時代のはじまり
むしろ、これで構図は明確になってきた。『Apple陣営 VS Netflix 』という構図だ。
そしてややこしいのが、Amazon と Googleなどの GAFA群との戦国時代だ。
現在、『スマートスピーカーの乱(2017年)』以来、Amazon と Googleの間は、お互いのコンテンツを切りあう冷戦状態が続いている。
YouTube Originals ミッシェル・オバマ夫人とのBookTube
Googleの『YouTube』はサブスクリプション型の『YouTube RED(2015年)』を『YouTube Premium(2018年)』と『YouTube Music(2018年)』として参入した。YouTubeのビジネスモデルは『広告ビジネスモデル』なのに、広告を排除してサブスクリプションというスタートを切った。基本的に、ノンストップで広告なしのコンテンツの連続再生は、まるで新たなコンテンツを開発したようだ。さらに『YouTube Originals』という形態でamazonのようにオリジナル作品に乗り出した。『広告ビジネスモデル』からの派生事業だ。さらにゲームプラットフォームの『Stadia』も発表している(2019年3月19日)。
Facebookは、『Oculus Go(2018年)』 でVRコンテンツで『Facebookビデオ』の視聴体験などを提供している。もちろん、YouTubeやNetflixもVRの没入型大画面で視聴できるという意味では、VRのプラットフォーマー的な立ち位置を構築しつつある。
Appleのストリーミング事業の戦略性
現時点で、Appleの新たなストリーミング配信事業の開始は、容易に理解できるが、2019年3月25日は、単なる始まりでしかないというのが、筆者の見立てだ。
Appleの利点としては、旧態依然とした、オールドメディアのコンテンツ事業の再編・再生プランは、iTunesの音楽産業のカオス期と非常に近似しているので、やりやすいことだろう。iTunesで興したメディアの再編成に、映画やテレビ、CATV、雑誌、ニュースのオールドメディア群が協力することは容易に想像できるからだ。
Appleは、GAFA群の中では、amazonと比較的、協業しやすい関係性にある。相互の本来の本業ビジネスに抵触しないからだ。すでに、Apple Musicなどで相互接続性を実現しているからだ。
Googleとは、Androidでの本業での競合関係があるが、相互に接続するメリットは十分に理解しあっている。
GoogleのAndroid OSは、あくまでも広告媒体創造のための手段のOSに過ぎない。YouTubeのサブスクリプションもいわば『あぶく銭』のビジネスだ。
Facebookとは、『VR』では競合しないが、今後、『AR』や『自動運転カー』となるとわからなくなる。
そして、GAFA群から離れると、Netflixは、Appleとしては、何度か買収のチャンスはあったが、それには至っていない。むしろ、それどころか AppleやDisneyが結合して、Netflix潰しという戦略も考えられるだろう。
敵の敵は味方となりえるか?AppleとDisney
すでに、Disneyは713億ドル(7.1兆円)で、21世紀FOXの買収を2019年3月20日を完了している。Disneyだけでなく、21世紀FOX所有のコンテンツも包括されるようになる。すでにストリーミングサービスの『Disney+』も年内後半と発表済みだ。
しかも、Appleと、Disneyは現在でも良好な関係にある。すでにDisneyの個人筆頭株主の2番目はDisney社のPixar社の買収によるSteve Jobs氏の夫人の個人財団である。そして、Disneyの個人筆頭株主のトップはFOX社買収によるルパート・マードック氏だ。両氏のストックの合計だけでも、Disney株の7.6%と最大株主となる。
Disneyも21世紀FOXも、現在のメインビジネスは映画ではなくCATVとTVだ。この分野を侵略してきたNetflixやAmazonと戦うパートナーとして、Appleを選択するのはそんなに無茶な話ではないかと思う。
Macを使わせるための、iPodから生まれたiPhone。そして、そのiPhoneが築いた十数年。5Gの浸透を前にして、サブスクリプション時代のストリーミング戦国時代の新たな世界が始まろうとしているのだ…。