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「14億人なら死者4000人は『ゼロ』みたいなもの」政府そんたく?不謹慎発言に中国ネットで非難噴出

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
笑顔を見せながら講演する李毅氏=YouTubeより筆者キャプチャー

「中国の14億人のうち新型コロナウイルス感染症の死者は4000人。20万人以上が死亡した米国と比べれば、1人も死んでいないも同然だ」。講演で笑いながらこう語る在米中国人「学者」の映像がインターネット上で拡散し、批判が渦巻いている。習近平指導部のコロナ対策を讃える趣旨で語られたとみられるが、その表現方法の無思慮さに市民が反発した形だ。

◇北朝鮮と中国で「新型コロナが最も有利に働いた」

 中国広東省深せん市で10月16日に開かれたイベントで「米国在住の社会学者」という中国人の李毅氏が「国際社会学から台湾海峡情勢まで」をテーマに約1時間講演した。問題の発言は後半に差し掛かったところで飛び出した。

「新型コロナウイルスというものが、最も不利に働いたのが欧州と米国だ。……最も有利だったのが(北)朝鮮と中国だ」

 こう口火を切ったあと、笑いながら次のように続けた。

「我々の死者は4000人だ。だが米国の死者22万人に比べれば、中国の4000人死亡とは1人も死んでいないようなものだ。14億人のうち死者は4000人である。これは、だれも感染せず、だれも死んでいない、ということに等しい」

 李氏はこう中国政府の新型コロナ政策を讃えた。一方、「私は先月、米国から戻ってきたばかりだ」と明かしたうえ「米国では、みんなまだ、食べて、飲んで、遊んでいる。死者に遠慮せずに」と皮肉った。

 話は米中関係に向けられた。

「みなさん、中国を見よ。グローバル経済で、中国がいま、ひとり勝ちの状態だ。中国が米国を追い抜く日は早まるだろう。2027年実現に何ら問題はない。米国は生き残れないだろう」

「14億人の中国人が、ほとんど認識できていないことがある。米国が中国を苦しめているのではない。米国が立ち行かないようにしているのは我々だということだ」

◇台湾では退去処分歴も

 この発言が最近、インターネットで拡散し、中国のネットユーザーの間で李氏に「冷血」「非人道的」との非難が集中した。

「死んだ4000人は人間ではないというのか。何がうれしくて笑っているのだ」

「米国を嘲笑しているといえ、すべての数字は命だ」

「中国が米国の息を止めるというなら、どうしてあなたは米国の永住者カードを持っているのか」

 北京の有力紙・新京報も11月24日付で「4000人も死者がいるのに1人も死んでいないのか。なぜ死者の命がゼロになるのか」「新型コロナによる無数の家族の不幸を完全に無視している」と批判した。

 そもそも李毅氏は「台湾の武力統一」を主張してきたことから、台湾では警戒対象だった。

 昨年4月、台湾の親中団体「中国平和統一促進会」の招きで台湾を訪問した際、李氏が同団体のフォーラムで「台湾における1国2制度を模索する」という趣旨の講演をするという情報が流れた。当局は「観光ビザでは政治関連の講演ができない」という規定を適用し、台湾からの退去処分を科したという経緯がある。

 台湾の自由時報によると、李氏はかつて中国陝西省の共産党組織で働いた後、中国の国政助言機関、中国人民政治協商会議(政協)の省弁公室秘書処に移ったという。

 経歴に「中国人民大学重陽金融研究院」(人大重陽)と記されているが、人大重陽は11月23日、公式の中国版LINE「微信」(WeChat)で「最近、李氏という名の人物が『台湾』『抗疫』などの問題で繰り返し発言し、世間に不安を与えている。この人物の略歴には『人大重陽研究員』とある。ここで繰り返すが、人大重陽には『李』という姓の研究員はいない」と表明している。

 これに対し、李氏は自身の微信に「同研究院が2014~17年、李氏を研究者として雇用」と記されていた「在職証明」のコピーをアップして反論している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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