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2015年・このK-POPがおもしろかった![ガールズ編・後編]――CL、テヨン、4minuteなど

松谷創一郎ジャーナリスト
'80sサウンドで見事な復活を果たしたWonder Girls

【前編はこちら】

やっぱりおもしろいK-POP

前編では、20位から11位までの10組をご紹介してきました。アイドルから本格派ラッパー、はたまたパンクバンドまで、バラエティ豊かなラインナップとなりました。

今回は引き続き、私が選んだ10位から1位までの10組をご紹介したいと思います。これらをきっかけに、それぞれのアーティストの他の曲を聴いてみたり、あるいはご自身の趣味を開拓されたりなど楽しんでいただければ嬉しいです。

なお、最後には簡単な総論も付記しております。

▼第10位:CL「HELLO BITCHES」

待望の2NE1・CLのソロ曲。今年の早い段階でグローバルデビュー予定ですが、これはそのプロモーション曲です。タイトルが「こんにちは、アバズレ」(日本語訳)であるように、それはお下品レッツゴーな濃厚ヒップホップです。MVでは、背中に虎の刺繍が入ったレザーのレオタードを着た面々が、廃屋の工場で大騒ぎするという強烈さ。CLさんは中指立てているので、案の定YouTubeでは閲覧規制となりました(笑)。

音楽的には、単なる欧米のヒップホップではなく、アジア的な雰囲気も感じられます。欧米からはオリエンタルに見えることでしょう。モデルとしてるのは、楽曲的にもM.I.Aあたりでしょう。なんにせよグローバルデビューが楽しみになる一作です。

▼第9位:f(x)「4 Walls」

一昨年の活動中にソルリが活動停止し、その後が危ぶまれたf(x)でしたが、ソルリ脱退を経て見事に復活したことを印象づけたのがこの曲です。姉・ジェシカとそっくりな声をしたクリスタルのヴォーカルの強さ、アンバーのラップの巧みさによって年々パワーアップしており、現在は安定感があります。ファンには申し訳ないですが、ソルリ脱退は逆に正解だったのかもしれません。

この「4 Walls」は何気なく聴くと印象に残りませんが、とても癖になる曲でもあります。さらにMVも、地味にすごい。それは非常に不思議な内容で、まるで夢のようです。フワッとしながらも、なにかしらのロジックがありそうなところが、すごく夢っぽいのです。こういう映像作品は、そう簡単には創ることができないと思います。

▼第8位:EXID「Ah Yeah」

EXIDは2015年でもっともブレイクした感があるガールズグループです。しかもそのプロセスが、非常に現代的でした。2014年夏に発表した「Up & Down」は、当初はパッとしなかったものの、10月のライブでメンバーのひとりであるハニを撮ったファンの映像がYouTubeでまさかの大ヒット。現段階の再生回数は1878万に達しています。そして発表から4ヶ月後の2015年1月、ついに音楽番組でトップに立ち、それまでパッとしなかったEXIDはメジャーシーンの真ん中に躍り出ることとなりました。ハニが腰をクネクネするダンスが、大受けしたのです。

「Ah Yeah」は、「Up & Down」の延長にあるセクシー系の曲。相変わらず腰をクネクネさせています。MVも面白くて、メンバーの腰の部分にモザイクを入れるなど、エロさ上等な感じ。こういうふうに意図的にモザイクを使いまくる映像作品は、そもそも珍しいですよね。また11月発表の「HOT PINK」もセクシー路線で、さらに強さを増した印象。今後、どう変化していくのか楽しみなところです。

▼第7位:TWICE「Like OOH-AHH」

去年デビューした新人グループのなかでかなり水準が高かったのは、JYPの9人組・TWICEです。韓国人5人、日本人3人、台湾人1人の多国籍グループです。日本人が3人もいるのは珍しく、おそらくK-POPを好きになった若いひとが3年前くらいに韓国に渡って練習生となり、やっとデビューし始めたということなのでしょう。

MVも面白く、なぜかゾンビワールド。そのなかで笑顔で踊る9人というギャップが面白いのです。マイケル・ジャクソンの「スリラー」を思い出させますね。

残念だったのは、今年初頭に起きた、台湾人メンバー・ツウィの謝罪劇。韓国のバラエティ番組で台湾国旗を振っただけで炎上させられ、JYPが彼女とともに「中国はひとつです」などと謝罪するという顛末でした。JYPには中国人メンバーが2人いるmiss Aもおり、中国マーケットは決して無視できないものでもあるのでしょう。しかし、政治的メッセージを発したわけでもない16歳の彼女にそんなことを課すのは、過剰な対応だったと思います。台湾総統選挙にまで影響を与えたと言われるこの一件でしたが、グループにとっては完全に事故。乗り越えていって欲しいものです。

▼第6位:テヨン「I」(feat.Verbal Jint)

少女時代のエース・テヨンの待望ソロデビュー曲。これまでにもドラマの挿入歌やライブでソロ曲を歌うことはありましたが、ちゃんと勝負してきた一曲です。これが、ストレートないい曲なんですよね。伸びやかかつ骨太なテヨンのヴォーカルの特性がしっかり発揮されており、ゴージャス感もあります。この水準のものをちゃんと出してくるあたり、さすがSMエンタという印象です。少女時代としては、本体がジェシカ脱退もあって弱まり、メンバーによって女優活動も活発しているので、音楽活動はテヨンとテティソを中心としていくのかもしれません。

なお作曲家は少女時代「Lion Heart」OH MY GIRL「CLOSER」と同じく、ショーン・アレキサンダー。私が素直に「いい曲だな」と思った20曲のうち3つもこのひとが絡んでいるというのも、なかなかの驚きでした。

▼第5位:ヒョナ「Roll Deep」(Feat.チョン・イルフン of BTOB)

年々パワーアップが止まらないヒョナさん(敬称付き)。昨年は4 minuteの大復活も導き、パワー全開でした。一昨年の「RED」に続くこのソロ活動曲は、相変わらずビッチ度120%。MVではビキニ姿で巨乳を強調させながら踊りまくっています。セクシーでもありますが、どちらかと言えばストロングといった印象。デビュー直後に身体が弱くて「わがままヒョナ」と揶揄された面影は、もはや微塵も感じさせません。沢尻エリカが10年かかったところを5年で通過したという感じでしょうか。

なお、昨年は「Run & Run」という短い曲のMVも発表しましたが、アメリカでハメを外している様子が全開です。またヒョナさんのInstagramもかなりはっちゃけていて面白いのでオススメです。

▼第4位:OH MY GIRL「CLOSER」

前出のTWICEをはじめ、CLCやG FRIENDS、Aprilなど、2015年も多くのガールズグループがデビューしましたが、楽曲の良さで頭ひとつ抜けていたのは間違いなくOH MY GIRLです。1994~1999年生まれで構成される8人組で、年齢的にはかなり若いのがその特徴。同じ事務所のB1A4の妹分とのことで、外見的には初期の少女時代、あるいはA pinkの後釜を狙うポジションでしょうか。

しかし、曲はアイドル的とはいえず、すごく独特でしかも完成度が高いです。デビュー曲「CUPID」も安定感ありましたが、この2ndシングル「CLOSER」は、ゴージャス感あふれる名曲です。外見は保守的なアイドルなのに、曲はエリー・ゴールディングが歌っていても不思議ではない水準。MVは絵本のなかのようなファンタジックな世界観です。アイドルでありながらこの水準の曲を歌い、さらに後半でラップが入るあたりも、昨今のK-POPの状況をよく表しています。私はこの曲をそうとう気に入ってしまい、年末に出演したラジオ番組でかけてしまったほどです。素晴らしい。

▼第3位:Wonder Girls「I Feel You」

1年4ヶ月前、「少女時代・ジェシカ脱退から見るK-POP」という記事を書いたのですが、そのとき少女時代とともに活動状況が不透明になった2007年組として挙げたのが、KARAとWonder Girlsでした。KARAは今年になって完全に空中分解することになりましたが、Wonder Girlsはこの曲でまさかの復活を果たしました。現在のメンバーは4人ですが、前出ヒョナも含めこれまでのメンバーは累計7人。全期間いるのは、イェウンだけになりました。

それにしても、この復活は意外でした。しかも楽曲やMVもすごかった。2007年のブレイク曲「Tell me」もレトロ調でしたが、今度は80年代リバイバルソング。MVも全員レオタード姿で、C-C-Bのような楽器を持っています。映像のアスペクト比もむかしのテレビと同じという凝りようです。これを観て洋楽好き中年が即座に思い出すのは、やっぱりカイリー・ミノーグ。日本ではWinkが「愛が止まらない 〜Turn It Into Love〜」としてカバーした「Turn It Into Love」あたりですね。私が中学生くらいのときのファッションが、それから30年近く経ってリバイバルするのですから、不思議なもんです。若いひとは、どういうふうに受け止めているのか気になるところです。

▼第2位:キム・イェリム(トゥゲウォル)「Awoo」

キム・イェリムは、従来のK-POPでは見られない独特のヴォーカルを持つシンガーです。トゥゲウォルというデュオで活躍しており、デビューから3年ほどにかかわらずその実力で一目置かれているような存在。これまでは日常系ユルフワソングが多かったものの、この「Awoo」は路線を変えて、挑発的な曲を送り出してきました。髪もブロンドにして、イメージも変えました。作詞作曲は、人気プロデューサーのPRIMARY。

昨年は、「Lovegame」「Stay Ever」も発表しましたが、これらもかなりの水準です。彼女自身、高校生の頃からアメリカ在住で、現在は韓国に戻ってきているようですが、K-POPの枠にはとどまらず、世界的にブレイクする可能性を大いに秘めている存在だと思います。

▼第1位:4 minute「Crazy」

すでにヒョナさんのソロ曲については書きましたが、昨年のK-POP界のMVPは間違いなく彼女でしょう。それは4 minuteの大復活を見せたこの「Crazy」のMVを観ればよくわかります。

既に1年前に「韓国で巻き起こる“ガールクラッシュ”現象」に詳しくは書きましたが、強さを全面に出したこの曲は圧巻です。男の目などはガン無視して、ひたすら強い女性をアピールしまくりです。鬼のようにカメラを睨みつけるヒョナさんに、クラクラします。モノクロームのMVもソリッドでかなりカッコいい。

楽しみなのは、2月1日に発表予定の新曲「Hate」です。赤いパンツに白いタンクトップで踊りまくる面々は、どんなパフォーマンスを繰り広げてくれるのでしょうか!

簡単な総論

インターネット普及以降、とくにYouTube普及以降の音楽シーンは、世界的な流動が高まりかなり面白い状況が続いています。K-POPがそうした社会のなかで存在感を増していったことは、あらためて触れるまでもないでしょう。PSYにしろ、クレヨンポップにしろ、昨年のEXIDにしろ、従来のマス・メディアが仕掛けとは異なり、ボトムアップでいきなりの大ブレイクが毎年のように生じています。

音楽的にもK-POPは年々動いていて面白いです。単に競走するだけでなく、マーケットの小さい韓国からいかに飛び出していくか、そのチャンスをどのグループも考えています。これまでは東南アジアや日本が中心でしたが、現在は中国や欧米に目が向いている印象です(韓国で落ち目のT-araなどは、完全に中国シフトです)。東南アジアや日本は既に定着したので、さらなる拡大期入っていると捉えられるでしょう。

こうしたグローバルな視座は、音楽的にも活性化をもたらせています。CLのゴリゴリヒップホップもそうですが、Wonder Girlsの思いきった'80sシフトも、世界のファッションの潮流をしっかりと反映したもの。閉鎖的かつ強い文脈依存による競走に終始してばかりで縮小再生産を繰り返す日本と異なり、拡大再生産をいまだに続けているのです。だからこそ、K-POPは面白いのです。

■関連

・2014年・このK-POPがおもしろい![ガールズ編](2014年12月)

・AKB48を超えた! メンバー101人のK-POPグループが誕生!……と思ったら(2015年12月)

・韓国で巻き起こる“ガールクラッシュ”現象――4minuteが「Crazy」で魅せる“強い女”(2015年3月)

・少女時代・ジェシカ脱退から見るK-POP――韓国芸能界を生きる韓国系アメリカ人(2014年9月)・視覚重視+レトロブームが席巻するK-POPの現在(2014年3月)

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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