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産廃業界が林業に参入! その目的は……

田中淳夫森林ジャーナリスト
建設廃材から木質を仕分ける現場

産業廃棄物処理業の現場を見学する機会を得た。

訪れたのは仙台環境開発株式会社。東北・関東一円の、主に建設関連廃材を扱うリサイクル業者である。とくに木屑の再資源化に力を入れていて、建設廃材やボードなどをチップ化して燃料やオガ粉などを製造していた。

産廃処理と聞くと、残念ながら負のイメージが強い。中間処理や最終処理の問題にかかわって、ダイオキシンの発生や重金属の地下水汚染など環境問題のほか、不法投棄のような事件のニュースが多く出ているからだろう。

しかし現場を訪れると、木質系、石膏ボード、プラスチック、セメント……と細かな分別を繰り返し、人の手によるピックアップまで含めて、ここまで行っているのかと頭が下がる思いがした。そのうえで最大限に再資源化に取り組んでいる。その過程のチェックも厳しく行われていた。

産廃業は、現代社会において静脈産業として欠かせないのだ。

手作業の分別
手作業の分別

ところで、このところ森林に関心を示す産廃業者が増えつつある。社会貢献だけでなく、林業に参入しようという声も届いている。

産廃業と林業。一見何の関わりもない両者のつながりを考えてみた。

まず大きな目的には、イメージアップがあるだろう。自然の象徴とも言える森林を整備したり所有することで産廃業者が負のイメージを払拭しやすくなる。有名になった埼玉県の石坂産業のように、雑木林や人工林の整備を「企業の森」としてCSRの一環で取り組むところは増えている。

折しも産廃業界最大手の大栄環境ホールディングスが、全国に森林8000haを所有する総合農林の全株式を取得した。これは大栄環境グループが、全国有数の山持ち企業(10位)となったことを意味する。目的は、林業への参入と「環境づくり」の一環と説明している。

一方で、バイオマス発電所を新設するに当たって森林を所有する動きも各地で起きている。それは燃料としての木材の調達という面からだ。すでに数百ha単位の森林取得の例は少なくない。

現在、産廃業界でもっともホットな話題なのは、バイオマス発電事業だ。自ら手がける大手業者もあれば、燃料チップの供給を担うケースも増えているようだ。

私は、今後バイオマス発電所の燃料にリサイクル木材の需要が増すと想像している。FIT価格は低い(kw当たり13円)が、未利用材や一般木材と違って建設廃材は乾燥しているから熱量は高いし、使い勝手がよいのだ。

FITに対応したバイオマス発電所として認可された数は、すでに全国に72か所となった。現在稼働しているのは約30件だが、全部完成したら年間1000万トン以上の木材が燃料として必要となる。これは年間の国内木材生産量(約1200万トン)に近い数字だ。つまり木材生産量を2倍近くにしないと足りないことになる。

当初バイオマス発電の燃料として注目されたのは、未利用材である。日本の山には、年間約1200万トンもの未利用材が捨て置かれている……と林野庁が試算したからだ。加えて未利用なものを使うのは環境に優しい、森林保全にもつながるというイメージがあったのだろう。またFITによる売電価格も、未利用材がもっとも高い(未利用材は発電規模2000kw以上が32円、以下40円)ため、利益が出やすいという目論見もあったに違いない。

しかし未利用材の搬出は想像以上に難しく、少々売電価格が高くなっても引き合うところは少ないことがわかってきた。出しやすい未利用材は、数年で底を尽く。

そもそも未利用材を、それ単体で生産することが本来おかしい。製材用や合板用の木材の搬出に合わせて使えない部分も搬出するのでなければコストが引き合わないし、資源の有効利用にもならない。言い換えると、林業を活性化しないと未利用材も増えないのである。

このままだと、バイオマス発電の燃料は、海外からの輸入に頼ることになりかねない。とくに注目されているのが油ヤシの殻だ。海外の業者から「日本はシャングリラ(理想郷)」という発言が出たという。いくらでも買ってくれると睨んでいるのだ。

しかし、遠くから輸送するには化石燃料を大量に消費するから、環境に優しいとは言えない。本末転倒だろう。

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大阪のバイオマス龍間発電所。

やはりバイオマス発電は、林業の振興とともに成り立つものだ。そして製材廃材や建設廃材などのリサイクル利用も、林業の大きな流れの一環だと私は考えている。

林業とは、木を育てる森林創成業と、木材加工~建築業まで含む木材利用業の大きな流れを包含する存在だ。その末端にリサイクル木材も含まれるのではないか。その点からは、産廃業者の手がける森林整備や林業参入には期待したい。

しかし、間違ってもバイオマス発電の燃料確保のために山を皆伐するようなことがあってはならない。5000kw級のバイオマス発電所を1年間稼働させるには約6万トンの木材が必要で、それは100ha規模の山を丸裸にするほどの量だ。

あるいは自社の山から伐りだした未利用材に建築廃材のチップを混ぜて未利用材価格で売るようなことがあったら、FITを利用した詐取になりかねない。

産廃業が森林事業に参入するのなら、持続的な林業を行いながら木材資源を無駄なく有効利用することこそが、業界のイメージアップにもつながる本物の環境企業になるだろう。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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