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抜けないなら体当たりも?喧嘩レース、WTCRは東コースの開催でカオスになる!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
接触スレスレどころか接触も辞さないWTCR【写真:WTCR】

あの喧嘩レースが再び鈴鹿に帰ってくる!10月25日(金)〜27日(日)に鈴鹿サーキット(三重県)で開催されるのが、「WTCR」(世界ツーリングカーカップ)の第8戦「Race of Japan」だ。同レースは今年も「JAF鈴鹿グランプリ」のタイトルが付けられたイベントでスーパーフォーミュラと併催されるが、実は昨年の「JAF鈴鹿グランプリ」は観客の満足度が非常に高かったイベントで、その要因の一つとなったのがハコ車の喧嘩レースと呼ばれる「WTCR」の面白さだ。今回は見逃せない「WTCR」の魅力をご紹介しよう。

昨年の鈴鹿スタートシーン【写真:WTCR】
昨年の鈴鹿スタートシーン【写真:WTCR】

今年は異例の東コースでの開催

昨年も大接戦のバトルに加え、トップドライバーがこぞってシケインをショートカットする姿にスタンドが大いに盛り上がった「WTCR」。なかなか日本のレースでは見られないハチャメチャな展開に度肝を抜かれたファンも多かったことだろう。今年は少しテイストを変え、なんと1周2.2kmの鈴鹿・東コースで開催されることになった。

2011年のWTCC。カオスと化した1コーナーのバトル【写真:MOBILITYLAND】
2011年のWTCC。カオスと化した1コーナーのバトル【写真:MOBILITYLAND】

1周5.8kmの国際レーシングコースの前半部分で折り返すショートコースレイアウトの東コースでは主に地方選手権などのグラスルーツレースが開催されているが、WTCRの前身である「WTCC」(世界ツーリングカー選手権)が2011年〜2013年まで開催されていた前例がある。国際格式のレースとしては実に5年ぶりに東コースでのバトルが展開されることになるのだ。

コーナーが9つしかない東コースでは予選からタイムが接近する。最後にWTCCが開催された2013年の予選では0.2秒以内に6台がひしめき合うという大接戦になった。シケインやヘアピンなどのフルブレーキングポイントがない東コースはタイムが接戦になるばかりか、オーバーテイクポイント=抜きどころが異常に少ないため、決勝も数珠つなぎの接戦になっていくと予想される。

今年は東コースでの開催。【写真:WTCR】
今年は東コースでの開催。【写真:WTCR】

きっと単調なレースになるだろう、と思っていると見事に裏切られるのがツーリングカーレースの最高峰、WTCRだ。今年は鈴鹿の後にマカオ市街地セパン(マレーシア)と2ラウンド6レースが残っており、鈴鹿も含めると合計9レースある。さらに今季はポイントシステムが変更され、全レース15位までポイントが与えられるので、1レースくらい無茶して捨て身のアタックに失敗してもまだ取り返しがきく状況になっている。開かない扉を無理やりこじ開けていく「喧嘩レース」のお膳立てが揃っているのだ。

ウイナー12人のカオス状態

世界共通規定のツーリングカー「TCR」車両を使う「WTCR」には今季、ホンダ(日本)、ヒュンダイ(韓国)、Lynk&Co(中国)、クプラ(スペイン)、フォルクスワーゲン(ドイツ)、アウディ(ドイツ)、アルファロメオ(イタリア)と7つのメーカーのTCR車両が参戦している。昨年まではプジョー(フランス)のTCR車が走っていたが、今季は新たにLynk&Co(中国)が加わった。

鈴鹿初登場のTCR車両、Lynk&Coの「Lynk&Co 03」。VOLVOと吉利の共同出資で生まれた中国の自動車メーカーだ【写真:WTCR】
鈴鹿初登場のTCR車両、Lynk&Coの「Lynk&Co 03」。VOLVOと吉利の共同出資で生まれた中国の自動車メーカーだ【写真:WTCR】

市販車をベースにしたレーシングカーであるが、毎回BoP(性能調整)が実施され、マシンのポテンシャルは基本的には均等になる。しかし、サーキットのレイアウトによって得意不得意があり、どのメーカーの車両が優勢になるのかは走り出してみるまで分からないというのも面白いところだ。

そんな不確定要素の多さを反映するかのように、今季は鈴鹿までの7ラウンド21レースでなんと12人ものウイナーが誕生している。ここまで3勝したのはノルベルト・ミケリス(ヒュンダイ)、ネストール・ジロラミ(ホンダ)、テッド・ビヨーク(Lynk&Co)の3人のみで、ポイントランキングは首位がノルベルト・ミケリス(ヒュンダイ)=246点、2位がエステバン・グエリエリ(ホンダ)=232点、3位がイヴァン・ミューラー(Lynk&Co)=231点と接戦。1大会あたりの最大獲得ポイントが85点で、残り3大会あると考えると、チャンピオンシップの主導権を握っているドライバーがいない状況である。

今年はかつてWTCCに参戦していたハコ車レースのスーパースター達がWTCRに参戦しているが、アウグスト・ファーフス(ヒュンダイ)、ロブ・ハフ(フォルクスワーゲン)、トム・コロネル(クプラ)、アンディ・プリオール(Lynk&Co)らのスター選手がまだ未勝利であり、この鈴鹿でも新たなウイナーが誕生する可能性が高い。

シリーズランキング首位のノルベルト・ミケリス(ヒュンダイ)【写真:WTCR】
シリーズランキング首位のノルベルト・ミケリス(ヒュンダイ)【写真:WTCR】

これまでの傾向から見ると2大会連続でポールポジションを獲得した選手は皆無。そうなると、前戦・ニンボー(中国)で苦しい状況になったホンダヒュンダイの2メーカーは鈴鹿では性能調整によって多少有利な状況になるかもしれない。ホンダは昨年の鈴鹿では3レースともに表彰台を逃しているので、今年はそのリベンジを狙う。

ホンダ・シビックを駆るエステバン・グエリエリ【写真:WTCR】
ホンダ・シビックを駆るエステバン・グエリエリ【写真:WTCR】

東コースは何より予選のグリッドが重要で、この性能調整とコースとのマッチングが上位進出の重要な鍵となる。ただ、レース2はトップ10がリバースグリッドになるので、ポテンシャル的に厳しい結果になったとしても1勝はできる可能性があると言えよう。しかし、延々と続く接近戦の中、最後まで後続のライバル達を抑えられるとは限らない。また、スタート直後は各車捨て身のインサイドへの突っ込みを見せると予想され、今年は観戦するなら2コーナーよりのスタンドが最も面白いだろう。

日本から宮田と富田がアウディで参戦!

クラッシュも辞さない鬼のような猛者達の中に、今年は日本人の若手が2人ワイルドカードでスポット参戦することになった。マシンはアウディRS3 LMS TCRで、チームはSUPER GTでもお馴染みの名門アウディカスタマーチームである「Audi Team Hitotsuyama」。同チームは同じTCR車両を使う「TCR Japan」に参戦しており、ノウハウは充分だ。

宮田莉朋【写真:WTCR】
宮田莉朋【写真:WTCR】

ドライバーとして起用される宮田莉朋(みやた・りとも)は全日本F3選手権とSUPER GT/GT300に参戦する20歳。今季はSUPER GTにレクサスRC F GT3で参戦し、オートポリスで優勝。来季はGT500への昇格が確実視されているドライバーだ。

そして富田竜一郎(とみた・りゅういちろう)は30歳。レースデビューは24歳と遅咲きながら、日産GT-Rのレースで実力を示し、レース歴2年足らずでSUPER GTにデビューした才能の持ち主。現在は「Audi Team Hitotsuyama」でアウディR8 LMS GT3をドライブしており、日本を代表するアウディ使いと言えるドライバーだ。

SUZUKA 10Hにもアウディで参戦した富田竜一郎【写真:WTCR】
SUZUKA 10Hにもアウディで参戦した富田竜一郎【写真:WTCR】

今回、スポット参戦ながら「Audi Team Hitotsuyama」は実に興味深いドライバー2人を起用してきたと言える。将来が期待される実力派であり、彼らが国内のレース環境で育ってきたドライバー達が海外の猛者の中に入ってどれだけ戦えるか。結果次第では、近年少なくなっていた海外レースと日本のレースの接点を再び結びつけることになるかもしれない。

前戦・ニンボー(中国)では性能調整で苦戦を強いられていたアウディだが、その分、鈴鹿では良いポジションを走れる可能性も秘めているので、若い2人のファイトに期待したい。日本代表という応援する対象が増えることで、今年のWTCRはより楽しめるだろう。

(昨年のレース3 ダイジェスト映像)

WTCR公式サイト

【Race of Japan スケジュール】

10/25(金):

予選1回目 →Race1グリッド決定

予選2回目(Q1,Q2,Q3)→Race3グリッド決定

10/26(土):

決勝レース1:周回数=24周

10/27(日):

決勝レース2:周回数=24周

決勝レース3:周回数=28周

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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