スエズ運河事故で起きた海上の渋滞。最新の衛星画像を欧州が無償公開
2021年3月23日、エジプトのスエズ運河の南端付近で、日本の正栄汽船が保有する大型コンテナ運搬船M.V. EVER GIVEN(エヴァーギブン)が座礁した。3月25日のスエズ運河庁の発表によれば、コンテナ船を離礁させるための作業に8隻のタグボートが投入され、アメリカからの支援を受け入れるとしているが、作業はまだ完了していない。
スエズ運河は、地中海側のポートサイドと紅海側のスエズを結ぶエジプトの人工海面水路。欧州とインド間を航行する場合にアフリカを経由しないため、航行距離を約7000キロメートル短縮できる。2019年の航行実績では、年間1万8880隻、1日あたり51.7隻が航行している交通の要所だ。
スエズ運河を航行して運搬される貨物は、資料が示す1975年以降、運搬量が増加し続けている。2001年以降は、2009年の急減を除き右肩上がりといってよい増加を示しているが、座礁事故による足止めで2021年の実績にも影響があると見られる。
世界で地球観測衛星を運用する宇宙機関や衛星オペレーターは、コンテナ船と座礁の状況を宇宙から観測した画像を次々と公開している。事故現場の作業の様子はスエズ運河庁の発表や現地での報道を待つよりほかないが、衛星ならば現場の状況や海上交通に与えた影響まで、事態の推移を能動的に見守ることができるからだ。
中でも強い関心を示しているのは、スエズ運河のもう一方の当事者ともいえる欧州だ。ESA(欧州宇宙機関)は3月26日、事故の前後でスエズ湾に滞留する船の数の変化を示す衛星画像を公開した。ESAが運用するレーダー衛星Sentinel-1(センチネル1)の画像では、事故前の3月21日に比べ、事故後の3月25日にはスエズ運河へ向かうタンカーやコンテナ船の数が滞留している様子が見られ、スエズ湾が「渋滞」しているという。
欧州の衛星画像は、衛星画像サイト「Sentinel Hub(センチネル・ハブ)」で一般向けに無償公開されており、事態に関心を持つ人ならば誰でも画像にアクセスできる。センチネル・ハブ上では、今回の事故に関する合成開口レーダー(SAR)衛星センチネル1の画像が事故後の3月24日から27日まで毎日更新されている。センチネル1の画像は、通常ならば2機の衛星で6日ごとに公開されるもので、事態の重要性から緊急に観測画像の情報公開が行われていると見られる。
画像は、現地時間3月27日午前5時44分に撮影された事故現場の様子。スエズ市側のタウフィーク港から約11キロメートル航行した地点で、エヴァーギブンが東岸に食い込むように座礁している様子がうかがえる。付近には、タグボートなどの作業船も見える。画像は建築物や船舶などの人工物を強調するようSAR画像を処理したものだ。
事故の現場の推移や、スエズ運河付近の船舶交通量の変化などを視覚的に知りたい場合は、GIFアニメーションで変化を動画として捉えることができる。
「衛星画像」として一般に普及しているGoogle Earthは、今回のように事故などの推移を見守るには向いていない。Google EarthやMapで使用されている衛星画像は、ある地域を見やすく表示するため、複数の日時で撮影された画像をモザイク状につなぎ合わせて表示されている。3月28日午後の時点で表示されているGoogle Earthのスエズ運河付近の画像では、フランスやアメリカなど複数の衛星事業者の名前がクレジットされており、これもつなぎ合わせた画像であることがわかる。また最新の画像が表示されているわけではなく、事態が起きる以前のデータと考える必要がある。
欧州が公開する無償の衛星画像は、世界のサプライチェーンが大きな影響を受けた海運事故の推移を知る強力な手段だ。不確かな情報に惑わされないためにも、宇宙から世界を知るツールを使いこなしたい。