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野良ネコからか〜ジフテリア様の感染症で初の死亡例

石田雅彦科学ジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 厚生労働省(以下、厚労省)は2018年1月10日、各都道府県・政令市・特別区向けに文書「コリネバクテリウム・ウルセランスによるジフテリア様症状を呈する感染症患者に関する情報について」(PDF)を出した。コリネバクテリウム・ウルセランス感染症とは、コリネバクテリウム・ウルセランス菌(Corynebacterium ulcerans、以下、ウルセランス菌)という細菌によって引き起こされる感染症で、ウルセランス菌はジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)と同じ属に分類される。

ジフテリア様の症状

 厚労省はこの文書の中で、2001〜2017年11月末まで国立感染症研究所が確認しているウルセランス菌による日本の感染発生状況(公表済みのみ、未公表6例)を表にしている。この表では、2001年2月に千葉県の50歳代の女性が呼吸困難などを発症した例から、2016年5月に福岡県で60歳代の女性が感染し呼吸困難などにより救急搬送後3日目に死亡した例まで19例を挙げている。

 最後のケースは、ウルセランス菌による感染症死亡として初めての例だ。国立感染症研究所のHP「Cornebacterium ulceransとジフテリア」によれば、日本国内で2001年から2010年までに8例が報告されているようだ。また、厚労省文書の表では2016年になって症例が増えていることがわかる。

 前述したようにウルセランス菌はジフテリア菌と同じ仲間の菌で、強い細胞毒性のあるジフテリア毒素を持つ。また近年、英国やフランスなどのヨーロッパ諸国から感染例が報告されるようになってきた。ちなみに、ジフテリア自体は国内で1999年を最後に感染例は報告されていない(厚労省HP)。

 厚労省文書によると、ウルセランス菌による感染症の症状はジフテリアに類似し、呼吸器感染の場合、初期には風邪に似た症状を示し、その後、喉頭痛、咳などとともに、扁桃や喉頭などに浸み出した膿などによる膜状の層(偽膜や白苔)ができることがある。重篤な症状になると呼吸困難などを起こし、死に至ることもあるようだ。また、まれに呼吸器以外の首のリンパ節や皮膚などへの感染も起こすらしい(※1)。

 厚労省文書によれば、海外ではウシの生乳からの感染(※2)が、また国内外でイヌやネコからの感染例が確認されているが、人から人への感染事例は国内では報告がなく国外でも非常にまれ、としている。治療法として、抗菌薬が有効とされ、国内ではマクロライド系抗菌薬の使用による回復例が報告されているようだ。

 今回、発表された福岡県の60歳代女性の死亡例では野良ネコからの感染が疑われている。これ以外に過去の症例では、英国や日本ではイヌや野良ネコのくしゃみか鼻水からの感染が考えられており(※3)、特にネコは人間に対するウルセランス菌のプールになっている可能性が示唆されている。また、ドイツではイノシシからウルセランス菌が発見され、東欧やロシアを含むヨーロッパ各地でジフテリアは減少しているがウルセランス菌による感染症は要注意とされている(※4)。

冷静な対応が求められる

 このようにイヌやネコ、家畜などからの感染が確認されているので、ペットや野良ネコなどがくしゃみや鼻汁を出して風邪のような症状を起こしている際には早めに獣医師による診療を受けさせ、またそれらと触れ合った後には手洗いやうがいなどを励行することが重要だ。厚労省文書によれば、日本国内の定期予防接種の対象3種混合(もしくは4種)ワクチンにジフテリアのワクチンが含まれていて、このワクチンはウルセランス菌感染症に対しても有効と考えられているらしい。

 政府は1月15日、菅義偉官房長官による記者会見を通じ、ウルセランス感染症で人から人への感染の事例はほとんどなく治療法も存在しているので、国民は過度に反応せず冷静に対応してほしいと発表した。

※1:M A. M. Corti, et al., "Rare human skin infection with Corynebacterium ulcerans: transmission by a domestic cat." Infection, Vol.40, Issue5, 575-578, 2012

※2:N J. Barrett, "Communicable disease associated with milk and dairy products in England and Wales: 1983-1984." Journal of Infection, Vol.12(3), 265-272, 1986

※3:Akio Hatanaka, et al., "Corynebacterium ulcerans Diphtheria in Japan." Emerging Infectious Diseases, Vol.9(6), 752-753, 2003

※3:Aruni De Zoysa, et al., "Characterization of Toxigenic Corynebacterium ulcerans Strains Isolated from Humans and Domestic Cats in the United Kingdom." Journal of Clinical Microbiology, Vol.43, No.9, 4377-4381, 2005

※3:Chihiro Katsukawa, et al., "Prevalence of Corynebacterium ulcerans in dogs in Osaka, Japan." Journal of Medical Microbiology, Vol.61, 266-273, 2012

※4:Karen S. Wagner, et al., ”Diphtheria in the Postepidemic Period, Europe, 2000-2009." Emerging Infectious Diseases, Vol.18(2), 217-225, 2012

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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