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「黒子のバスケ」脅迫犯のXデーと『創』12月号

篠田博之月刊『創』編集長

「黒子のバスケ」脅迫犯から書店やコンビニに届いた脅迫状に書いてあった11月3日の期限は過ぎ、「最初のXデー」とされた11月4日の上智大学園祭も無事に終了した。当日、上智大学は厳重な警備体制が敷かれ、警察だけでなくガードマンや同大職員が警備にあたった。来場者全員が監視カメラで撮影されるなど、緊張はみなぎったが、とりあえず犯人の要求に屈して中止にすることなく学園祭は開催された。

犯人はこの11月4日学園祭最終日を「最初のXデー」と書いており、今後も「黒子のバスケ」関連各所への脅迫を続けることを示唆している。11月4日にはテレビも一斉に報じるなど社会問題化したこの事件だが、今後これにどう対応していくかが問われる状況となった。

というのも、書店やコンビニなどの「黒子のバスケ」関連商品の撤去は全国に拡大し、この社会がこういう事態に予想外に脆弱であることがあらわになったからだ。首都圏でもTSUTAYAに続いて有隣堂などの書店チェーンが撤去に至るなどしたが、新聞社などの取材で、自粛の連鎖は地方にもかなり広がっていたことが明らかになっている。

例えば富山県内の状況について、読売オンラインは11月5日にこう伝えた。

《脅迫文が届いていたのは、文苑堂書店(高岡市)、清明堂書店(富山市)、書店「ブックスなかだ」を展開する中田図書販売(同)と、サブカルチャーの専門店アニメイト富山(同)。県警は富山中央、高岡両署に対し、店への巡回強化を指示している。文苑堂書店には(中略)3日までに同マンガの関連商品の取り扱いを中止しないと、4日以降、客に危害を加える旨が印字されていた。同社は3日までに県内全12店舗に対し、単行本などを全て撤去するよう通達。また、取引先から要請のあった明文堂プランナー(同)も全10店舗で関連商品を撤去した。》

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20131105-OYT1T00229.htm

また北海道新聞などによると、北海道でも書店チェーンが商品撤去を行っていた。

《道内で複合商業施設コーチャンフォーなど9店を運営する「リラィアブル」(釧路)は31日、人気漫画「黒子(くろこ)のバスケ」の単行本などの関連商品を11月3日に一時撤去することを明らかにした。》

http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/501470.html

出版物撤去の動きは全国各地で報告されている。脅迫状がこれだけの影響をもたらしたことは、出版表現の自由の問題に直結するだけに極めて深刻な事態といえる。今後、この事件に限らず、自分の気に入らない出版物を撤去せよという脅迫がなされた場合、書店などがどう対応するか問われたといえる。

ただ、1年に及ぶ「黒子のバスケ」脅迫騒動については、新たな動きも出ていることに注意したい。11月7日発売の月刊『創』12月号で「黒子のバスケ」脅迫事件についての特集を組んでいるが、その中のフリーライター昼間たかしさんのレポート「黒子のバスケ脅迫にイベント主催者の対応は…」で、東京ビッグサイトがこの春、新たな対応を打ち出したことが報告されている。

《東京ビッグサイトが、突然方針を転換したのには様々な理由がある。この時点ではまだ決定されていなかったが、既にこの施設が2020年の東京オリンピックで使用されることは周知されていた。国家的事業に供される施設が、数通の脅迫状に屈服せざるを得ない状況は、とてつもなくマイナスであった。さらに、もし脅迫状が届くたびに屈服を続ければ、ほかの様々なイベントも同様の手口で中止に追い込まれる可能性が十分にあった》

東京オリンピックを控え、テロ対策が呼号されている現状で、「黒子のバスケ」脅迫騒動でイベントが次々中止になる事態は、このまま放置できないという意思が東京都や警察サイドに働き始めているようなのだ。この騒動を機に、監視カメラなどによる治安強化がさらに進むのは、市民にとって迷惑というほかはないが、一連の脅迫騒動が深刻な問題を引き起こしつつあるのは確かだろう。

ちなみに『創』12月号では、かなりのページをさいて「黒子のバスケ脅迫事件」を特集した。表紙も黒子のバスケ事件関連の画像である。今回、どういう事情で脅迫犯から『創』に大量の文書が届いたのかも含め、ぜひ特集をご覧いただきたい。首都圏以外の書店には置いていない店もあるが、下記URLの創出版ホームページからネットで注文が可能だ。

画像

http://www.tsukuru.co.jp/

『創』は既に2013年3月号でも黒子のバスケ脅迫事件について取り上げていた。この過去の記事については、ヤフー雑誌に公開した。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131107-00010000-tsukuru-soci

さらに、この事件については、マンガの表現の自由の問題とも関わっており、12月15日(日)夜、阿佐ヶ谷ロフトを使ってこの問題についてトークライブを行おうかと計画中だ。詳細が決まり次第、阿佐ヶ谷ロフトのホームページで告知していく。

http://www.loft-prj.co.jp/lofta/

『創』にこの間、何度も手紙を送っている「黒子のバスケ」脅迫犯本人も含め、多くの人に参加してほしいと思う。

『創』では、今後も継続してこの事件を追っていく予定だ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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