新型コロナの死亡率を約2倍にする「たばこ病」 コロナ禍こそ禁煙を
知っていますか、COPD
5月31日は「世界禁煙デー」です。たばこで肺が壊れてしまう疾患、いわゆる「たばこ病」の中でももっとも頻度が高いものは「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」です。シー・オー・ピー・ディーと読みます。
昔は「肺気腫」と呼んでいましたが、「COPD」という病名に統一されました。しかし、アルファベットに変わってからというもの、患者さんにむしろこの病名が浸透しなくなってしまいました。
厚生労働省は2012年に「COPDの認知度80%」を目標に啓蒙活動を始めました。しかし、2020年12月に実施した調査で、「あなたはCOPD(シー・オー・ピー・ディー)という病気を知っていますか?」という質問に対して「どんな病気かよく知っている」「名前は聞いたことがある」と答えた人は、28.0%という低い現状でした(1)。
COPDは「慢性」と名前がついているように、急激に起こるものではなく何年もかけてゆっくりと発症する病気です。ご存知のようにたばこをたくさん吸うことによって発症します(2,3)。たばこを吸えば吸うほど肺が壊れていき、タールなどが沈着して真っ黒になってしまいます。
喫煙者の寿命
日本の寿命調査に参加した6万人以上の男女を調べると、喫煙者の平均寿命は男性で8年、女性で10年短かったとされています(4)。アメリカでも同じような結果が出ていて、喫煙者の方がだいたい10年くらい寿命が短いようです(5)。人生80年で計算すると、たばこのせいで人生の8分の1も潰されるわけです。よくよく考えると、ものすごい害悪です。
COPDは新型コロナの重症化リスク因子
新型コロナの重症化リスク因子(表)の1つに挙げられている「慢性呼吸器疾患」の代表的なものがCOPDです。
さて、新型コロナの死亡率は、COPDがある患者さんでは約2倍高いと報告されています(6-11)。健康な人にとっては軽い肺炎で済んでも、COPDの患者さんでは重症肺炎になってしまいます。また、たばこをやめられず、喫煙し続けた状態だとさらに重症化しやすいことがわかっています(11)。
実際、新型コロナにかかってしまったCOPD患者さんの多くは、酸素を必要とする状態になってしまい、「たいした肺炎ではないな」と思っていても、あれよあれよという間に重症化してしまうことがよくありました。
喫煙本数が多い人ほどなりやすい
どのくらいたばこを吸うとCOPDになりやすいかという指標に、ブリンクマン指数が知られています。この指数、この後のチェックリストにも出てきますが、(1日あたりの喫煙本数)×(喫煙年数)で表されます。たとえば、1日1箱(20本)のたばこを10年間吸っている人は、ブリンクマン指数 20 × 10 = 200 です。
一般的にブリンクマン指数が400を超えると肺がんなど病気のリスクがグンと上昇することが知られています。現在喫煙している人は、一度ブリンクマン指数を計算してみてください。400を超えていて、なおかつ息切れ症状がある場合は要注意です。
COPDの症状
COPDの症状のほとんどが、息切れです(12)。 また慢性気管支炎型というCOPDの場合、痰や咳を訴える患者さんも多いです。息切れが出現するほどのCOPDは、軽症とは言えません。内科的な治療が必要になるでしょう。
息切れを自覚せず、健康診断などで胸部レントゲン写真やCT写真に異常を指摘されて発見されるCOPD患者さんもいます。肺が風船のように膨らんでしまうので、呼吸器科医が画像を見ればおそらくすぐに診断できます。
たばこを長年吸っている人で、「なんだか呼吸器系の症状が気になる」という人は、COPDのチェックのために病院を受診すべきです。
やってみよう、COPDチェック
さて、あなたがCOPDのリスクが高いかどうか、チェックしてみましょう(13)。以下の5つの質問に答えて、点数を合計してみてください。なお、COPDは40歳以上にならないと発症しないとされているため、若い人は暫定的に40~49歳のところを選んでよいと思います。
喫煙歴がない人でCOPDを発症することはまれなので、喫煙歴が少しでもある前提になりますが、合計点数が4点以上の場合、COPDを発症している可能性があると考えられます。その場合は医療機関を受診し、呼吸機能検査を受けることがすすめられます。
COPDは治る?
COPDが治るか・治らないかと問われると、残念ながら「治らない」というのが正しい答えです。一度たばこの煙によって壊れてしまった肺はもとには戻らず、風船のようになってしまった肺はそのままです。しかし、先ほど私は「内科的な治療」と書きました。そう、「治らないけど治療法は存在する」のです。
治療法はあるけど根治できないというのは、医学的にとても大事なポイントです。たとえ禁煙したとしても、老化とともにゆるやかに肺の老化は進行していきます。そのため、40歳や50歳で禁煙したとしても、70歳のCOPD患者さんが周囲の同年代の人と同じ生活ができるとは限りません。
医師と患者さんの間では「治療法がある」という言葉には少しギャップがあります。患者さんは「治療法がある」という言葉を聞くと、「病気が治る」と思います。しかし、医師にとって「治療法がある」というのは、根治治療(完全に治す治療)から対症療法(症状をやわらげる治療)まで幅広い意味を持ちます。
COPDの内科的治療は、根治治療ではありません。壊れてしまった肺は元通りには戻りませんが、気管支を広げる吸入薬などの内科的治療によって、悪化を防いだり症状を改善させたりすることができます。
なにより、「COPDになるかもしれない」というリスクをこわがる前に、たばこをやめることが重要です。禁煙できた年齢が若いほど、COPDの発症リスクは減ります。
(参考)
(1) COPD認知度把握調査結果(URL:http://www.gold-jac.jp/copd_facts_in_japan/copd_degree_of_recognition.html)
(2) Kuempel ED, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2009 Aug 1;180(3):257-64.
(3) Lamprecht B, et al. Chest. 2011 Apr;139(4):752-63.
(4) Sakata R, et al. BMJ. 2012;345:e7093.
(5) Jha P, et al. N Engl J Med. 2013;368(4): 341-50.
(6) Antunez MG, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2021 Jan 5;15:3433-3445.
(7) Turan O, et al. Expert Rev Respir Med. 2021 May 13;1-8.
(8) Gerayeli F, et al. EClinicalMedicine. 2021 Mar;33:100789.
(9) Wu F, et al. J Thorac Dis. 2020 May;12(5):1811-1823.
(10) Rabbani G, et al. Expert Rev Respir Med . 2021 May;15(5):705-716.
(11) Pranata R, et al. Int J Tuberc Lung Dis. 2020 Aug 1;24(8):838-843.
(12) Rennard S, et al. Eur Respir J. 2002 Oct;20(4):799-805.
(13) Samukawa T, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2017 May 15;12:1469-1481