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日米首脳会談 北朝鮮を核保有国と認めてはならないワケ 水鳥真美のしなやか外交術(2)

木村正人在英国際ジャーナリスト

安倍晋三首相は22日午後(同23日未明)、オバマ大統領とホワイトハウスで首脳会談に臨む。環太平洋連携協定(TPP)交渉参加、沖縄県尖閣諸島をめぐって緊張が増す対中関係、3度目の核実験を強行した北朝鮮問題が会談のポイントだ。外務省で27年間勤務し、日米関係、在日米軍基地問題にも詳しい元外交官の水鳥真美さん=英国在住=にインタビューした。

――米軍普天間基地の移設問題、米軍の垂直離着陸輸送機オスプレイの配備についてはどんな議論になるか

「安倍首相が復帰して初めての日米首脳会談でオスプレイについてどこまで協議されるかわからない。それよりもむしろ民主党の鳩山由紀夫首相が普天間基地移設問題をめぐってさんざん迷走して、米国側の信頼も失い、沖縄県の信頼も失った。普天間の問題は完全に暗礁にのりあげているのが現状だ。そこから脱却することが必要だ。その中で日本側が考えなければいけないのは、米国側の国防費の削減だ。中長期的な趨勢として米国の国防費は落ちていくと言われている。年末の財政の崖の問題は一応、回避できたが、喫緊の話として歳出強制削減措置の問題がある。今年3月1日以降に大幅な歳出削減が行われるだろうと言われている。それに大きく影響されるのが国防費と言われている。海外における米国の部隊の訓練がかなり行えなくなる。米国防総省に勤務している民間人の給料が20%カットされて、週4日しか働かすことができなくなる。かなり危機的な状況なところまで来ている。国防費を削減することを余儀なくされる中で、日米安保、日本における在日米軍基地のあり方について、普天間基地をどこに移設するかを越えて、いったい、基地をどのようにするのかという大きな交渉を考えなければいけない時点に来てしまっている。もちろんオスプレイの問題、事故がいくつかあるので、地元にとってはとても不安な話かもしれないが、米国側から見た場合、個別の配備の話と言うよりは、もっと大きく、どうやれば沖縄の負担を本当に軽減して、米国の国防費の削減を背景にしながら、日本の自衛隊との関係で、自衛隊の基地を米軍が使うようにするのかといったそういう大きな交渉を考えないといけない時点に来ている。今回、安倍首相の使命というのは、日米同盟を言葉だけでなく、具体的な基地対策も含めてどういう形でするのかという話をするための信頼関係をつくる。この政権はきちんとそういう話ができる政権なんですよ、ということをオバマ大統領との間で築くことが安全保障の面では大切だと思う」

――事実上の「核保有国」と言われだした北朝鮮にどう対処して行くのか

「一番大事なのは北朝鮮が核保有国であることが既成事実化するのを阻止することだ。確かに3回の核実験を行って、将来的にはミサイルに搭載できる小型の核弾頭をつくる技術を持ちつつあるという印象を作り上げてきている。北朝鮮は核保有国だから核保有国として扱うべし、その先は人によって考え方がいくつかあって、核保有国だからけしからんから封じ込めるべきだという意見もあるし、核保有国だから制裁してもしょうがないから核保有国であるという前提からどういうふうに北朝鮮と付き合うか考えるべきだという過激な意見も出てきている。日本にとって、北朝鮮は核保有国だということを少なくとも米国が国際社会との関係の中で認めることはないということを確保するのが一番大事だ。核を持つことは許さないので、どういう対応をするのか、なかなか手詰まりの中で、国連安全保障理事会で議論される決議の内容、強制力のある制裁をつくることで日本、米国、韓国が協力して、おそらく中国、ロシアの抵抗はあるが、それを作っていく。中国を対北朝鮮制裁にどのような形で取り込んでいくかということを確保することが重要だ。この問題については喫緊に対応することが必要なので、安倍首相もオバマ大統領としっかり話すでしょうし、オバマ大統領もしっかりそれに答えると思う。国連安全保障理事会の制裁決議だけではなく、その先に日本、米国、韓国が緊密に連携しながらどのような対応するのかをやっていくことになる」

――事実上、核を持っているのに核保有国であるかないかにこだわる意味はあるのか

「ある国が核保有国だと言葉の上で認めて、核保有国と扱うことになると、結局、インドやパキスタンの例を見てもわかるように、核保有国であるから支援はしないということを取り除いていくことになる。インドは今では米国などと原子力協力を進めている。言葉の上で国際社会が事実を越えて北朝鮮が核保有国だというステータスを認めてしまうと、これから先、北朝鮮とのさまざまな関係が変わってくる。これは日本としては絶対に容認してはならない」

――イランの核・ミサイル開発問題がきわどい段階に差し掛かっているが

「オバマ大統領もイランに対しては強い立場で臨むことを鮮明にしている。日本をはじめ考え方を共有する国に対して制裁への同調を求めることは十分ある。日本として考えるべきことは、北朝鮮にしろ、イランにしろ、ある国に対しては厳しい態度をとり、別の国に対しては石油輸入の考慮など、より柔軟な対応をする使い分けはよくあることだが、そういう事があまりにも明確に出てしまうと北朝鮮に対する日本のメッセージが非常に弱くなってしまう。中東で起こっているイランの話が直接日本に関係ないということではなく、北朝鮮の核を単に持つだけでなく核拡散の意図、イランと北朝鮮の関係も十分ある可能性がある中、核拡散の観点からも、日本は自国の領土絡みの問題を抱える地域以外の問題にも正面から取り組まなければならない」

――他に大きな論点になりそうなものは

「私は安倍政権が進めている経済政策について、経済再生第一で進めるという姿勢に対して、米国は非常に買っていると思う。それに対する米国の支援というものがおそらく表明されると思う。安倍首相も米国のためにそれをやっているわけではないが、アベノミクスをはじめ経済第一で取り組んでいることについて日米両国の間で理解が得られることは重要。繰り返しになるが民主党政権の間にかなり浸食されてしまった日米の信頼関係をしっかり取り戻す。その信頼関係の上に立って個別の問題、安全保障、TPP参加、北朝鮮、中国への対応などの話がある。何よりも信頼関係を確保する。安倍政権はプラグマティックな、現実的な政権であるという印象を与えることが大事だと思う。第一回目の安倍政権は価値外交をやった。間違ったことではなかったが、現在は価値という事は当然のこととして現実的な外交を進めていると強調することが一つ。二つ目は、政権誕生直前、直後に一部報道で出ていたナショナリスティックな右傾化している政権であって歴史を見直そうとしている、そういう政権ではないことを印象づけることが大切だと思う」

――今回、安倍首相は中国より米国に先に行くが

「安倍首相はオバマ大統領と昼食を共にして会談するわけだが、一回目の訪問としては順当な対応だと思う。できたばかりの政権の首脳を国賓扱いするというのはあり得ない。同盟国の総理を初めて迎える中で至極まっとうな対応だ。前回は小泉政権の間にあまりにも靖国神社の参拝を巡って、日中関係、日韓関係が疲弊してしまって、政権が代わり、日中、日韓関係を重視している姿勢を安倍首相が示すために意図的に中国、韓国に行くことをまず選んだ。順番から言うと、総理が就任後、米国に行くことが多いわけだが、決まり事ではないし、今回も外遊ということで言えば東南アジアに続いて2回目だ。先方の日程があったのかもしれないが、安倍首相が1回目の外遊先に東南アジアを選んだのは象徴的だったのかもしれない。アジアの中において、日中関係が厳しくなる中、日本が東南アジアの国とどういう関係を構築して行くのか、残念ながらアルジェリアの人質事件のため途中で切り上げざるを得ず、インドネシアで予定していた外交演説もできなかったが、安倍政権の意思があった。昔言われていたように米国詣でがマスト(絶対)かというとそうではなくなってきたと思う」

これから月1回程度のペースで、水鳥さんの厚意に甘えてその時々の国際問題についてお伺いしていこうと思う。

水鳥真美さん
水鳥真美さん

水鳥真美(みずとり・まみ)

1983年、外務省入省。在米日本大使館勤務、北米局日米地位協定室長、総合外交政策局国連政策課長、安全保障政策課長、在英日本大使館公使・広報文化センター所長、大臣官房会計課長を歴任。現在、英セインズベリー日本藝術研究所統括役所長。イースト・アングリア大学特別顧問(日本学)、大和日英基金理事。難民を助ける会理事。雑誌「金融財政」コラム「VOX FEMENINA」を執筆中。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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