なぜレアルは“BMV”を重宝するのか?エムバペ、ヴィニシウス、ベリンガム…セカンド・ユニットの逆襲。
スター選手が並ぶ陣容は、崩れそうもない。
レアル・マドリーは今夏、キリアン・エムバペを獲得した。パリ・サンジェルマンとの契約が満了を迎えたフランス代表のアタッカーを、フリートランスファーで確保。昨季、ビッグイヤーを獲ったスカッドに、新たな血が加えられた。
■スターたちの共演
エムバペの加入で、大衆が期待するのは、当然、ワールドクラスの選手たちの“共演”である。
ジュード・ベリンガム、エムバペ、ヴィニシウス・ジュニオール。この3選手には、頭文字から、「BMV」という呼称がつけられている。まるで車の車種のような呼び名だが、それくらい、ブランド感があり、なおかつ高いパフォーマンスが期待されている。
UEFAスーパーカップのアタランタ戦で、初めて揃い踏みした「BMV」は、エムバペの移籍後初ゴールを含め、2−0と快勝した。しかし、続くリーガエスパニョーラ開幕節マジョルカ戦では、格下相手にドローを演じる結果となり、マドリディスタは不安を募らせた。
「我々は、もっと良い守備をしなければいけない。特に、バランスのところだ。ピッチ上で、もっとバランスよく動く必要がある」
「試合には、うまく入れた。先制して、リードを奪った。2点目を奪ってもおかしくなかったが、後半、バランスを失った。バランスが悪いという理由で、負けても不思議はなかった。良いゲームをしたとは言い難い。我々は攻撃的なチームだ。だから守備のバランスが重要なんだ」
「ディフェンス面について話す時、大事なのはチームに対するコミットメントだ。集中力を高め、全体をコンパクトにしなければいけない。それはフィジカルの問題ではない。メンタルの問題だ」
これはマジョルカ戦後のカルロ・アンチェロッティ監督の言葉だ。
マジョルカ戦で、マドリーは自陣ゴールから39.8メートルの地点で最もディフェンスのアクションが多かった。リーガで優勝を果たした昨季の平均(46.1メートル)と比べて、6メートル程、低い。
それはマドリーが押し込まれる場面が少なくなかったことを意味する。最後のところで跳ね返せているなら、悪くないという見方もできるだろう。または、エムバペ、ヴィニシウス、ロドリゴ・ゴエスとスピードのある選手がいるなか、ロングカウンターを狙うための策だったのなら、理解できる。
だが、そのような戦術ではなかったのだとしたら、これは単なる問題だ。
■守備の問題点
気になるデータがもう一つある。マジョルカ戦で、マドリーがボールをロストしてから2秒以内にプレスを掛けたのは、57回だった。こちらも昨季の平均(94回)と比べ、低い数字だ。
プレスが掛からないから、最終ラインが下がる。ズルズルと下がれば、押し込まれるのは自明の理である。
昨季、エムバペの1試合平均のプレス回数は7.7回だった。ヴィニシウス(14.4回)、ロドリゴ(14.4回)、ベリンガム(18.3回)と比較して、圧倒的に少ない。
エムバペは、マドリーに移籍してきて、3トップの中央に置かれている。左WGにはヴィニシウスがおり、やりにくそうにプレーしていると言われているが、実際の問題はそこではない。プレスを掛けない、守備をしないエムバペを置くには、CFの位置しかないのだ。
■セカンド・ユニットの躍動
バランスが重要だ。アンチェロッティ監督は、そのように語った。だが最もバランスを取れるベリンガムが、先日、トレーニング中に負傷。1ヶ月の離脱が見込まれている。
一方、マドリーはセカンド・ユニットが勢いづいている。第2節バジャドリー戦では、途中出場のエンドリッキ、ブラヒム・ディアスが躍動した。ベリンガムの代役に選ばれたアルダ・ギュレルを含め、彼らが2ゴールに絡む活躍を見せた。
ギュレルは昨季、負傷でシーズンの大半を棒に振ったが、終盤戦で6ゴール。EUR O2024にもトルコ代表として出場して、自信を深めている。
この夏に加入したエンドリッキは、本拠地サンティアゴ・ベルナベウのデビューマッチで、ゴールを決めて見せた。「持っている男」であり、そういう意味では「CLの男」と呼ばれたロドリゴと似たところがあるかも知れない。
ブラヒムは、この夏、モロッコ代表としてのパリ五輪出場を見送った。2024−25シーズン、マドリーで集中するためだった。昨季はジョーカーとしての役割を担うことが多かったが、出場時間2637分で15得点13アシストと結果を残した。
エンドリッキ、ギュレル、ブラヒムは「EGB」と呼ばれている。
「BMV」と「EGB」の争い、というわけではない。「BGB」「MEV」等々、彼らが掛け算を行い、チームの力は醸成されていく。
マドリーに課題はある。アンチェロッティ監督が指摘するように、守備のところは改善の余地があるだろう。
だがセカンド・ユニットが躍動したように、やはり選手層は厚い。彼らを生かしながら新たな戦術を浸透させていくのが、当分、アンチェロッティの使命になる。