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リコールされた男児用水着や足入れ付き浮き輪が、今も販売されている!-夏の子どもの安全のために

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
この写真は記事とは関係ありません。(写真:アフロ)

 本日(2021年7月16日)、気象庁より「関東甲信と東北が梅雨明けしたとみられる」との発表があった。今年も暑い夏がやってくる。水遊びが大好きな子ども達が待ちに待った季節だ。昨年に引き続き、コロナ禍により開設が見送られる海水浴場もあるが、子ども達は川や池、湖、プールなどで水遊びを楽しむだろう。

男児用水着の問題について発表があった

 水遊びに欠かせないのが水着である。昨日(2021年7月15日)、国民生活センターから男児用水着のインナー生地に関する報告があった。「男児用水着のインナーのメッシュ生地に、陰茎部の皮膚が挟まり取れなくなって病院に搬送された」という事例が寄せられているという発表であったが、同様の傷害は過去にも起きており、当該水着のリコール、国民生活センターによる情報提供、消費者庁による注意喚起等が行われてきた。2010年には「水着のインナー素材にはメッシュ形状素材を用いないこと」という業界の自主基準が設けられている。日本小児科学会のInjury Alert(傷害速報)欄でも、2016年に複数の事例について詳細に報告している。

 上記のような経緯から、現在、メッシュ素材を使った水着は流通していないと考えていたが、まだ同様の傷害が発生していることがわかった。それらの事故の詳細が今回報告され、水着のインナーのメッシュサイズ(穴の大きさ)が事故の原因であることが再度示されたのである。国民生活センターは、消費者に向けて「インナーにメッシュ生地を使用した水着を子どもに着用させないようにしましょう」というメッセージを出し、同時に事業者に対してはインナーにメッシュ生地が使われている水着の製造・販売をやめるよう要望している。

足入れ付き浮き輪でも同じ問題がある

 過去に何例か傷害が発生し、当該製品の製造・販売の中止が求められたにもかかわらず、現在も市場に流通しているという点で共通している製品があることを思い出した。それが足入れ付き浮き輪だ。

 2006年11月、9か月児が自宅の浴槽で足入れ付き浮き輪を使用していて溺れ、7日間入院した。この事例については、公益社団法人 日本技術士会登録 子どもの安全研究グループにお願いして検証していただき、製品の問題点はFollow upとして報告した。2007年には、日本玩具協会と日本空気入ビニール製品工業組合から「今後、製造・販売する考えはない」という回答があり、2009年春の時点では問題は解決されたと認識されていた。

 しかし以後も同じ事故が発生し、日本小児科学会のInjury Alert(傷害速報)No.18の表題は「解決したはずの浴槽用浮き輪による溺水」であり、そのコメント欄には「販売は中止されたが、すでに購入されたものは使用され、インターネット上では類似品の販売やオークション取引がある」と書かれている。

 Injury Alert(傷害速報)欄では、7か月児(2009年3月)、8か月児(2009年3月)、10か月児(2009年10月)、8か月児(2013年1月)、9か月児(2014年12月)、9か月児(2018年9月)の溺水例が類似例として報告されている。

ネット検索をしてみると

 ネット検索をしてみると、「ベビー浮き輪」「ベビーボート」等の名称で、大手ショッピングサイトをはじめ、フリマアプリでも盛んに販売されていることがわかった。SNSでも検索してみたところ、Instagramではこの足入れ付き浮き輪に関する投稿はごくわずかだったが、Twitterでは多数ヒットした。もっともその多くは販売やPR目的の投稿だったが、過去の溺水例などまるでなかったような調子で、この浮き輪の楽しさ、便利さを謳っている。

 2019年にも、この足入れ付き浮き輪に関する記事を書いたが、足入れ付き浮き輪が危険なのは、子どもが浮き輪に座ることで重心が高くなり転倒しやすいことと、一度ひっくり返ると元に戻りにくいことにある。水中から戻らない状態が5分以上続けば溺死となる可能性が高い。

 今回のネット検索で、この浮き輪は依然として製造・販売されていることがわかった。この夏も海やプールで使用されるのではないか。まさに今回の男児用水着の問題と同じ構造となっており、このまま販売が続くと再び事故が起こる可能性が高い。

 一方、同じ足入れ付き浮き輪でも、保護者と一緒に使うことのできる製品があることがわかった。ラグマニアブログというブログの中に、「【子供の命を守って下さい】プールでの足入れ浮き輪が危ない理由のすべて」という記事がある。この記事では、足入れ付き浮き輪がなぜ危険なのか、や、転覆する原因等についての詳しい説明があり、最後に「安全な足入れ浮き輪」として、保護者も一緒に使えるタイプの製品が紹介されている。実際に見たことはないが、このような製品であれば、転覆の可能性はきわめて低く、万が一転覆した場合もすぐに救助することができるのではないだろうか。

安全な製品とは、保護者の時間と労力を奪わない製品だ

 コロナ禍の影響もあり、特に子育て中の保護者はインターネットを利用して買い物をすることが多い。子育て期のごく短い期間しか使用しない物はフリマアプリ等で購入するという声も聞く。ネット上では想像を絶する数の製品が販売されており、その中には日本の安全基準を満たしていない海外製品や、最新の基準に適合していない中古品など、危険性がある製品もある。この膨大な数の製品の中から、安全性の高い製品を見つけ出すのは容易ではない。

 2021年2月、「デジタルプラットフォーム取引透明化法」が施行され、デジタルプラットフォーム運営事業者の役割も示されたが、危険なインナーのついた水着や足入れ付き浮き輪などの販売について、どのように対応するのが適切か、国としてあらためて検討する必要がある。また、保護者や保育者はじめ子どもにかかわる人は、子ども用品で事故が起こった場合は、消費者ホットライン「188」に連絡する、地域の消費生活センターに報告する、といった行動をとってほしい。その際、商品の入手方法、入手時期、製品の型式などの製品の詳しい情報を伝えることが不可欠だ。

 子どもの成長は早く、必要な製品や情報は刻々と変わる。安全な製品を見つけるために、その都度時間と労力を割くのは大変だ。実店舗であってもネットであっても、市場に出回る製品が安全基準を満たし、重大な傷害を負う可能性が低ければ、保護者は買い物の時間や労力を大幅に減らすことができ、安全な子育てが可能となる。本来はそのような社会であるべきだ。そのためには事業者に対する多少の規制、縛りも必要なのではないか。

今回の男児用水着について、国民生活センターから事業者に対するメッセージは「製造、販売されないことを要望します」、「注意喚起の協力を依頼します」といった比較的「ゆるい」ものであった。それで効果があれば問題はないが、改善されないようであれば、もう一歩進んだ対策が必要と考える。

 まずは、消費者には「メッシュ生地を使用した水着や足入れ付き浮き輪を買わないこと」をお願いしたい。事業者は、売れるから製造し販売するのである。売れなければ製造も販売もしないことになるだろう。

 安全な製品を購入して、この夏を、親子で楽しく過ごしていただきたい。

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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