山線経由の「特急ニセコ号」 昨年よりも「おもてなしイベント」に力を入れ、9月の週末中心に運行の違和感
JR北海道は2024年9月7日より週末を中心に9月中の計16日間、札幌―函館間を函館本線の山線経由で臨時特急ニセコ号を運転することを発表した。特急ニセコ号は秋の定番臨時列車として例年秋に運転されており昨年から使用車両がキハ261系はまなす編成に一新された。
特急ニセコ号の停車駅や車内では沿線の観光協会や高校生によるおもてなしイベントが目玉となっているが、今年からは函館行の列車では八雲駅と大沼公園駅に新たに停車するようになるほか、停車駅や車内でのおもてなしメニューが増え「ニセコトレインマルシェ」として車内で販売される食のメニューも増やされるなど、かなりの力の入れようだ。さらに特急ニセコ号の主要停車駅間ではえきねっと割引も設定された。
使用車両がキハ261系はまなす編成に一新された昨年の特急ニセコ号には筆者も乗車しており、その時の様子は、2023年9月24日付記事(特急ニセコ号乗車で見えた「並行在来線」再活用の重要性 安易な鉄道廃止は地域の努力を無駄にする)と2023年11月20日付記事(秋の定番臨時列車、「特急ニセコ」乗車で見えた函館本線の旅の魅力)で詳しく紹介している。
特急ニセコ号は走る函館本線の函館―長万部―小樽間は、北海道新幹線の札幌延伸に伴いJR北海道からの経営分離が確定しており、整備新幹線の開業による並行在来線の扱いは第三セクター鉄道に移管されることが通常のケースである。
しかし、北海道庁が主導する並行在来線協議会では、2022年3月にまず山線と呼ばれる長万部―小樽間について、強引にバス転換の方針を決定。このうち余市―小樽間については輸送密度が2000人を超えており通常では廃止の対象とはならない路線であることから、こうした北海道庁の対応については異論が噴出している。
さらに、北海道庁は長万部―小樽間の廃止を決めて1年以上が経過した2023年5月に入ってから「北海道中央バスなどの沿線にバス路線網を展開するバス会社に鉄道代替バスの引き受けについて相談しようとした」ところバスドライバー不足を理由に引き受けを断られ、1年以上に渡って協議が中断するという異常事態に陥っている。
函館―長万部間についても2023年12月下旬に開催された並行在来線対策協議会では、北海道庁は同区間の旅客輸送についてバス転換を沿線自治体に対して提案。このうち函館ー新函館北斗間については、新幹線アクセス路線として4000人ほどの輸送密度があるほか、さらに函館市の大泉市長が新幹線乗り入れ構想を表明している区間でもある。
この沿線にバス路線網を展開する函館バスもドライバー不足の問題からバス路線の減便などが進んでおり、さらに労使問題も抱えている中で、北海道庁の何が何でもバス転換にこだわる姿勢は、山線での教訓も見られず常軌を逸しているとしか言いようがない。
特急ニセコ号のおもてなしイベントが地域を巻き込んで年々進化するのであれば、ここで培ったノウハウを、北海道新幹線開業後に活かすことを考えることが理にかなっているのではないだろうか。並行在来線を新幹線の2次交通として活かすことができれば、これまで地域で培った鉄道を活用して地域を盛り上げるノウハウは、新幹線から沿線地域に観光客を呼び込むための大きな武器となり得る。しかし、安易に並行在来線を廃止してしまえば、こうして地域で培ったノウハウを無に帰すとともに、新幹線との相乗効果を見込んだ地域活性化の機会を奪うことになりかねない。
こうした北海道庁の政策方針が、在来線を活用して沿線を盛り上げるという地域の活動内容と乖離していることに違和感を覚えざるを得ないのは筆者だけであろうか。
(了)