特急ニセコ号乗車で見えた「並行在来線」再活用の重要性 安易な鉄道廃止は地域の努力を無駄にする
2023年9月2日から24日までの週末を中心に札幌―函館間(山線経由)で特急ニセコ号が運転された。今年からは使用車両は、キハ261系はまなず編成に一新された。筆者も9月23日に実際に札幌―函館間で特急ニセコ号に乗車したが、乗車率は高く、途中の余市、ニセコ、長万部駅で開催されたおもてなしイベントは大盛況で、ホームで販売されていた余市駅のアップルパイや長万部駅のかにめしは飛ぶように売れていたようだ。
地元観光協会や沿線高校総出のおもてなしイベント
特急ニセコ号では、地元の観光協会や沿線の高校生が総出で乗客に対するおもてなしイベントが行われたことも大きな特徴だ。ホームでの特産品販売や車内販売では沿線の観光協会関係者が携わっていたほか、特定日には沿線の北海道小樽未来創造高等学校や北海道ニセコ高等学校の生徒が列車に乗車し、特産品販売や沿線の観光ガイドを行った。
本州方面との交流人口増加のためには在来線活用が不可欠
特急ニセコ号に乗車するためにこの日に合わせて本州から北海道を訪れた乗客も一定数おり、沿線の交流人口の増加の一役を担ったことは間違いない。交流人口については、本州方面との移動が不便な北海道の特徴としては、流動が道内のみで完結する傾向が強い。こうしたことから本州方面との交流人口の増加を図るためには、集客の目玉となるコンテンツの育成が不可欠で、在来線の活用は本州方面からの観光客を集客するための目玉コンテンツと十分になりうる。
特急ニセコ号が経由する函館本線(山線)の小樽―長万部間は、北海道新幹線「並行在来線」として廃止される方針が決定されているが、北海道庁が主導する協議会の場で、赤字額を過剰に見積もったずさんな試算結果に基づき廃線ありきの議論が行われ、沿線自治体の首長は鉄道維持のためには各自治体の財政規模をはるかに上回る費用負担が必要になるとされしぶしぶ廃線に合意させられたことは、これまで何度も指摘してきたとおりだ。
さらに、協議を主導した道庁は、事前にバス会社との協議を行っていなかったことから、地元バス会社は鉄道代替バスの引き受けに難色を示し、バス転換の見通しは立っていない。また、現場サイドからは「ドライバーも整備士もいないのに鉄道代替バスの引き受けが出来るわけがない」という声も上がっている。
これまでの事例から、鉄道が廃止されバスに転換された場合には、バス路線の利用者は鉄道時代の半分から3分の1に落ち込むことが通例で、昨今のバスドライバー不足などからバスは鉄道の代替交通として機能しないことは明白となっている。
安易な鉄道廃止は地域のこれまでの努力を無駄にする
札幌―函館間を山線経由で運行する特急ニセコ号は、これまでもノースレインボーエクスプレスやニセコエクスプレス、一般仕様のキハ183系特急形気動車など様々な車両を使用して運行が続けられてきており、秋恒例の観光列車として一定の定着を見せるまでになっている。
こうした観光列車を定着させるためには地域関係者との連携による継続的な取り組みが不可欠だ。せっかくこうした地域を巻き込んだ取り組みが定着してきている中で、安易な在来線の廃線は、これまで地域関係者が相応の労力と手間をかけて育成してきた観光コンテンツの破壊行為に外ならず、これまでの地域の努力を無駄にする結果となる。
道庁は、鉄道路線の「攻めの廃線」について、財政難を理由に挙げ財源がないとの説明を行っているが、北海道のインフラ整備に充てられる国土交通省北海道局の北海道開発予算は、2023年度は約5700億円の予算規模があり、このうち道路整備に充てられるのは例年約2000億円程度。道路整備に関しては、潤沢な財源を基に人家のない人里離れた山奥で巨額の予算が投じられ採算という概念なく粛々と整備が進む道道も多い。こうしたことから、道庁の「攻めの廃線」に対する姿勢は、単純に予算の執行体制が硬直化しているだけで、余計な仕事の手間を増やしたくないという理由で、これまでの仕事の進め方を変える気が全くない道庁側の内向きの理由であるということが推測される。
新幹線開業による経済効果を沿線地域に波及させることを考えれば、2次交通として鉄道在来線を活用することが効果的であることは、これまでの九州新幹線や北陸新幹線の事例から明らかとなっている。特急ニセコ号の事例からも、函館本線(山線)は取り組み次第では現状でも十分に活性化が可能であることは明らかで、今後、新幹線の開業に向けて山線の観光路線化さらに磨きをかけていけば、新幹線の長万部駅や倶知安駅を拠点として山線を大きな観光集客ツールとすることができる。
さらに、2024年のトラックドライバー労働規制強化が迫る中、有珠山の噴火により北海道対本州の貨物列車の幹線ルートである室蘭本線が不通となった場合に、迂回ルートとしての実績のある山線を廃止にした場合に、貨物列車の代替輸送を本当にトラックとフェリーだけで担えるのかという懸念も高まりつつある。
財政難を理由に、本当に必要な経費まで削ってしまえば、地域の経済活動が停滞し更なる税収減につながりかねない。行政機関が本来果たすべき役割は、必要なインフラには適切な投資を行い地域の経済活動を活性化させ税収増につなげることであり、それが官民ともにwin-winとなる方法であるが、道庁にはそうした地域経済を見る俯瞰的な視点が欠落していることは大問題と言わざるを得ない。
(了)