藤井風のスタジアムライブが、動画撮影OKで無料生配信も実施の「神対応」だった背景
またしても藤井風さんが新しいライブの形の歴史を作ったようです。
藤井風さんはこの土日の2日間に日産スタジアムにて、14万人を動員するライブを開催していたのですが、なんと土曜日のライブではYouTubeでの無料生配信の神対応を実施。同時接続のピークは28万2千人を記録したとのことです。
しかも、このライブ動画は月曜日の16時までアーカイブも無料で公開という神対応も行っており、すでに再生数は300万回を超えています。
(※その後ライブ動画の公開期間は反響を受けて期限未定で延長されました。)
さらに、今回のライブでは参加者全員にスマホでの動画撮影を許可するという神対応も行っており、実際に多くの参加者がスマホを手に撮影しながらライブを楽しんでいる様子を見ることができます。
今回の藤井風さんのライブは、今後の日本のアーティストのライブの形に間違いなく一石を投じるものになるはずです。
その背景について紹介したいと思います。
3年前の無観客ライブからの伏線回収
藤井風さんの日産スタジアムのライブといえば、約3年前の2021年に行われた無観客ライブを覚えている方も多いのではないでしょうか。
コロナ禍の影響をうけて無観客での実施となったものの、巨大な日産スタジアムの天然芝の上で一人グランドピアノと向き合って藤井風さんが歌ったライブは、約18万人が同時視聴し、テレビでも取り上げられるなど非常に大きな話題となりました。
参考:藤井風の無観客日産スタジアムに密着した『NHK MUSIC SPECIAL』放送へ
今回のライブ冒頭で、その時の伏線を回収するかのように7万人の観客の中央でグランドピアノでの演奏からスタートする姿に、当時の光景が重なったファンは多かったことでしょう。
藤井風さんとスタッフの間では、日産スタジアムでライブを開催すると決めたときからYouTubeの生中継をしたいという話があったようですから、やはり3年前に無料生配信を実施した日産スタジアムのライブだからこそ、今回もYouTubeでの無料生配信に踏み切ったというのが、一つの背景として間違いなくありそうです。
一部ファンの間では不満の声も
ただ、今回の無料生配信が直前でサプライズ公開されたことに対しては、有料のライブチケットを購入した一部のファンからは不満の声も漏れていたようで、そうした一部のファンのネガティブな声をメディアが記事化して拡散しようとする動きもあったようです。
参考:「運営に不信感しかない」藤井風、ライブ無料中継も「発表が遅すぎる」モヤモヤ抱える “現地組” 続出
ただ、それらの記事についたコメントを見ていただければ一目瞭然ですが、ファンの視点からすると、実際に会場でライブを生で体験するのと、YouTubeの配信で視聴するのは全く異なる体験であるのは間違いありません。
もちろん、14万人ものファンがチケットを購入していることを考えれば、今回のような直前の無料生配信の実施宣言に対して、一部のファンから不満の声が漏れてくるのは仕方がないことと言えます。
ただ、今回の藤井風さんのライブは完全にプラチナチケット化しており、熱心なファンの方ですら入手困難な状態になっていたようですから、無料生配信が事前に宣言されていても、ファンの方々は喜んで有料のチケットを購入していたはずです。
今回の藤井風さんのYouTubeでの無料生配信の決断は、チケットを入手したくてもできなかった人や、ライブに来たくてもこれない事情がある人向けの神対応ということも言えますし、一方で会場に足を運んでくれた人には間違いなく満足してもらえるという藤井風さんの自信の表れでもあったと言えるでしょう。
実際にライブ参加者の盛り上がっている様子を見れば、会場に足を運んだファンの方々の中に、会場に来ずに家での無料生配信視聴で済ませば良かったと思っている人がほとんどいないであろうことは容易に想像できます。
それぐらい、ライブを「生で体験」する行為と、PCやテレビの画面を通じてライブを「視聴」する行為に大きな違いがあるのは、世界的に証明されているのです。
藤井風さんの神対応は海外では普通?
日本では今でもライブで参加者の撮影禁止を明示することが普通ですので、今回の藤井風さんの参加者に対するスマホでの撮影許可は神対応と言えます。
ただ、実は海外では参加者がライブをスマホ等で撮影し、SNS等にシェアすることができるのはもはや普通の状態です。
日本の常識からすると、参加者が自由にライブの様子をSNSにアップしてしまったら、ライブに来てくれる人が減るじゃないか、と思う方が少なくないと思いますが、海外では逆にその方が参加者によるSNSの動画でライブに興味を持って参加する人が増える可能性が高いと言われています。
実際に海外の音楽ライブ市場はコロナ禍の影響を除いて、伸び続けているのが何よりの証明でしょう。
この伸びはもちろんファンのSNSによるシェアだけの影響ではありませんが、少なくとも海外ではファンによるSNSのシェアがライブに来る人を減らしてはいないのは明白です。
日本の音楽ライブ市場が、少子化の影響もあり、コロナ禍以降横ばいに近い状態で予測されているのとは大きく状況が異なるわけです。
実際に、今年YOASOBIや新しい学校のリーダーズが出演して日本でも話題となった、世界最大規模の音楽フェスの「コーチェラ」では、3日間チケットが500ドル以上もしますが、参加者による動画撮影は商用目的でなければ自由に可能と規約に明記されていますし、公式のYouTubeでほとんどのライブを世界中から無料で視聴できるようにしていたのが象徴的です。
ファンの撮影した動画も、公式の無料生配信も、あくまで「コーチェラ」というフェスの魅力を世界に広げるための手段であって、フェスのチケットの魅力を下げるものではないという考え方なのです。
米国ツアーを経て日本での撮影許可
藤井風さんは、今年の5月から6月にかけて初の北米ツアーを成功させていますので、その際の参加者が撮影した動画が多数SNS上にアップされています。
こうした参加者によるライブの撮影やSNSへの公開の行為は、日本以外の国ではもはや普通の光景になっているのです。
藤井風さんもそうしたアメリカの状況を肌で感じた結果、今回の日本のライブでも参加者の撮影許可を決断したということなのでしょう。
今回のYouTubeの生配信については、参加者のSNS動画ではなく公式の生中継を最初に見てほしいという趣旨もあったようですから、参加者の撮影解禁に合わせてYouTubeの生配信も決定したということなのだと思われます。
ある意味では、藤井風さんの今回の日本のライブでの神対応は、ライブでの参加者による撮影の常識をグローバルスタンダードに揃えたということでもあります。
藤井風さんは今回のライブ後に2回目のアジアツアーも発表しており、当然アジアの国々では参加者によるスマホ撮影が当然のように実施されるであろうことを考えると、日本のファンだけ藤井風さんのライブを撮影できないという「不公平」を是正する判断をしたという方が正しいかもしれません。
他の日本のアーティストも藤井風さんの後に続くか
今後注目されるのは、他の日本のアーティストが藤井風さんの後に続き、日本のライブでの参加者による撮影を許可するようになるかどうかという点でしょう。
現在のところ、日本のアーティストのライブはほとんどの場合で撮影禁止が基本で、アンコール等の一部の曲に限って撮影OKにするのが一般的のようです。
そうした状況が普通だからこそ、今回の藤井風さんのスマホ撮影許可やYouTubeの無料生配信実施に対しても、一部の方が不満をSNSに投稿する状態になってしまったとも言えるでしょう。
その結果、NewJeansのような海外では撮影OKのアーティストが日本で公演する際も、日本の興行主側の判断で撮影禁止となり、一部の海外ファンが結果的に「盗撮」をする結果になるような状態も続いてしまっているのです。
一方で、日本でもXGのような海外で活躍するアーティストは、既に日本のライブでの撮影OKも明確にしており、徐々にこうした姿勢を参考にするアーティストも増えてきているようです。
参考:XGのワールドツアーが投げかける、日本だけ逆転するライブ撮影禁止のギャップ
今回藤井風さんが、アメリカツアーの後に日本でのライブの撮影許可を判断されたように、海外で活躍するアーティストほど、日本と海外でのファンの間の「不公平」に早く気がつくことになるはずです。
ライブの序盤のMCで、藤井風さんが「みんなもライブに来とるつもりじゃろうけど、わしもみんなのライブに今日来てます。This is not my Show. This is your Show. So let me hear your voice.(これは私のショーではなく、みんなのショーです。だからみんなの声を聴かせてください。)」と話されたのが非常に印象的です。
藤井風さんに自分の声を聴かせることができ、その空気や一体感を感じることができるのは、リアルに会場に参加した人だけの特権と言えます。
スマホによる動画撮影や、YouTubeの無料生配信は、決してそうしたリアルの価値を毀損することはなく、むしろリアルの価値を明確にする手段と言えるかもしれません。
今回藤井風さんが投じた一石が、日本の音楽業界にさらに広がることを期待したいと思います。