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【どうする部活地域移行】地域スポーツクラブで「子どもも大人も幸せで楽しい」活動を・新町スポーツクラブ

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
部活地域移行は、スポーツを通じた居場所を地域につくること

指導者が大きい声で怒鳴らない、中学生がリラックスして楽しむ野球指導をはじめて見た。

群馬県高崎市での部活地域移行のフィールドワークで私が最初に驚いたのはそのことでした。

この記事では部活地域移行のゴールが、「学校から部活をなくす」ということではなく、「子どもも大人も幸せで楽しい」スポーツを通じた居場所を地域に作っていくことにもある、ということを群馬県高崎市にある新町スポーツクラブの取り組みから学んでいくことを目的としています。

そもそも部活地域移行ってという方は、こちらの記事をご覧ください。

※部活改革研究の第一人者・長沼豊先生(学習院大学元教授)による解説, 「中学校の部活動の新しい形」,NHK,2022年9月5日

※末冨芳,【解説】部活地域移行!部活はなくなるの?スポーツ庁提言のポイントとゴールはこれだ,Yahoo!個人,2022年6月6日

1.地域スポーツクラブはスポーツを通じた居場所

―遅れてきてもオッケー、パワハラ指導なし、保護者付き添いもなし

―初心者も経験者も、運動が苦手な子も得意な子も「リラックスして楽しめる」活動

(1)遅れてきてもオッケー、パワハラ指導なし、保護者付き添いもなし

指導者が大きい声で怒鳴らない、中学生がリラックスして楽しむ野球指導は、部活地域移行の一環として高崎市立新町中学校と、新町スポーツクラブが連携して実施しています。

2021年11月から開始されています。

新町スポーツクラブが主催する「部活動支援事業」としての『野球教室』なのです。

中学校の運動場や地域のグラウンドを利用して開催されています。

面白いところは、野球部の部員だけでなく、野球をしてみたいという小4~中学生までが参加できるところです。

部活を引退した中3も来ることもあります。

野球といえばパワハラ指導のトラブル相談や、目撃経験しかない私にとっては、とにかく驚きの連続です。

土曜の14時~17時開始なのですが、集合時間に遅れて来る子もいます。

それでオッケーなのです、遅れてきても誰も気にせずに合流しています。

そして部活の顧問は来ていませんし、送迎するケースはありますが、練習中の保護者の付き添いもありません。

小中学生と地域の指導者が、土曜に野球を楽しむ場なのです。

中学生も指導者、コーチもリラックスした様子です。

ときには笑顔で、ときには集中して3時間の野球教室が実施されていました。

この日は、夏休み明けということもあり、指導者1名とボランティア4名(うち1名は末冨ゼミの院生)で、20名弱の参加者と、バッティングの練習をしていました。

(2)初心者も経験者も、運動が苦手な子も得意な子も「リラックスして楽しめる」活動

翌日の日曜日10時~12時には、中学校に隣接する小学校で新町SVCスポーツ少年団が主導している「遊んで、動いて、楽しい体力つくりプロジェクト・校庭と体育館で遊ぼうよ!」の活動にも参加しました。

こちらは部活地域移行ではなく、学校の校庭開放事業と、新町スポーツクラブの核となったスポーツ少年団の地域連携で、子どもたちの休日の運動の場を提供しています。

「参加できる時に気楽に遊びにきてください。事前の連絡も不要です。」

日曜日の午前中、ひまだなぁ、行くところないかなぁ、子どもがそんなことを言っていれば「小学校に行って体でも動かしてみたら?」、そんな場が地域にあるのです。

そして、この活動を継続希望したい場合はSVCスポーツ少年団へ登録することになっています。

この日は小学生~大学生世代までの15名程度の参加者と、指導者3名が参加して、グラウンドでケガをしないよう準備体操をした後、運動会が近いので、みんなで短距離走の練習をした後に、「何がしたい?」と子どもたちに聞いて体育館でバドミントンをしたり、晴れてきたので外で水鉄砲を楽しんでいました。

子どもたちが好きなことをしている間も、スポーツ少年団リーダーの高校生以上のお兄さんお姉さん世代や、指導者が自然に見守っています。

もちろん集合時間はゆるく、子どもたちそれぞれのペースで集まってきます。

運動が得意な子も苦手な子も、仲良くスポーツを楽しんだり、おしゃべりしたりしています。

高校生以上世代のお兄さんお姉さんたちは、子どもたちと体操をしたり、短距離走で本気をの走りを見せたり、バドミントンで子どもたちと楽しんでいます。

新町スポーツクラブの代表の小出利一さんは、このスポーツ少年団代表指導者として、子どもたちに短距離走のスタートをコーチした後に、子どもたち、お兄さんたちとともに本気の走りを見せて、盛り上がっていました。

私も参加者と一緒に(久しぶりの)体操をして、ああ、体を動かすのって気持ちいいなと、運動のよさを満喫しました。

みんなリラックスして楽しそうだなぁ、土曜の「野球教室」も日曜の「体力つくりプロジェクト」も参加してみての率直な感想です。

体力つくりプロジェクトの様子
体力つくりプロジェクトの様子

(3)地域スポーツクラブはスポーツを通じた居場所

スポーツ庁・運動部活動の地域移行に関する検討会議の委員をつとめたために、「部活地域移行の目的や、課題を教えてください」、大人たちから眉間にシワを寄せて聞かれることが多くなっています。

そんな難しく考えずに、地域と連携しながら、スポーツを通じた居場所を増やせばいいってことですよ。

子どもも大人もリラックスして笑顔で楽しむことを大切にしてください。

新町スポーツクラブと、地域の小中学校とのコラボ活動に参加させていただいた私は、子どもの幸せ(ウェルビーイング)を大切にする研究者としてこのように申し上げたいと思います。

2.難しく考えず、できることから少しずつ、休日部活の地域移行

―スポーツを楽しむ×部活のいいところ=部活地域移行

―ポイントは学校と地域・保護者との信頼関係

―地域移行で陸上の専門的指導や水泳部の通年化も試行

そんなこと言っても、部活地域移行ってどうやればいいんですか、いま日本全国の関係者がそのことに悩んでいると思います。

教員の働き方改革も急務です。

安心してください、教育経営の研究者としても、部活地域移行に取り組んでおられる新町中学校の校長先生と、新町スポーツクラブの小出さんに、どのように休日の部活地域移行を試行しているのか、ちゃんと聞いています。

(1)スポーツを楽しむ×部活のいいところ=部活地域移行

校長先生によると「いっしょに模索している関係」が、学校とスポーツクラブとの関係です。

校長先生が大切にしておられるのは、生徒がスポーツを楽しむことと、部活のいいところを活かして、部活地域移行を実現していくこと、とのこと。

生徒がスポーツを楽しむ、というについて。

「どの生徒もスポーツを楽しみたいときに楽しめる」環境が、学校と地域で協力しながら実現していけばよいなという、校長先生のビジョンがあります。

やりたいスポーツをやりたい人が集まってする、生徒が複数のスポーツも楽しめる、教員以外の地域の大人とも信頼関係が作れる。

校長先生が重視される活動を、子どもたちと大人でそんな環境を作れるなら、私もスポーツを続けられるかも、お話を聞いていて、運動嫌いの私も感じました。

初心者やスポーツが苦手な生徒も気軽に楽しめるスポーツ活動は、今の学校の部活ではなかなか難しいものです。

また、気になるスポーツはあるけれどスポーツ少年団や部活で毎日の長時間練習は無理だという生徒もいます。

土曜日の「野球教室」の取り組みは、初心者だったり、野球に興味があるので短時間でも楽しみたいという子どもたちも参加できるものです。

部活のいいところ、というのは、縦割りで異学年の活動だったり、生徒自身の自己実現としての活動という面だそうです。

勝つことも楽しいと思える要素ですが、それが目的になると、勝利至上主義になりやすい面もあります。

生徒がスポーツが好きになり、高校生や大学生、社会人になっても続けられる地域になる、そんな5年後・10年後を描きながら、学校も地域とともに「試行期間」として、野球以外にも新町スポーツクラブと連携しながら様々な活動に取り組んでおられます。

(2)ポイントは学校と地域・保護者との信頼関係

もちろん部活地域移行は、どの地域でも、初期段階です。

このようなときに大事なのは、学校が、失敗しても大丈夫、一回立ち止まったり、より良い方法を考えて試してみよう、と関係者同士お互いにコミュニケーションして行動できる「高信頼性組織」となっていることです。

新町中学校の部活地域移行を支える組織として大切な存在だと考えられるのが、学校運営協議会(コミュニティ・スクール)という組織です。

学校運営協議会(コミュニティ・スクール)とは、学校が児童生徒にとってより良い場となるように、教職員・地域住民と保護者が話し合って方針を決めていく「学校の応援団」です。

私もわが子の学校を含めて、いくつかの学校の学校運営協議会委員をつとめてきました。

たとえば学校から急に「部活地域移行をします」と言われると、生徒も保護者も「部活がなくなるの?」と不安になりませんか?

そんなときに、地域スポーツクラブの小出さんも委員として参加している学校運営協議会で、「このような形で土曜の野球部の活動を『野球教室』にしたいのですが、試してみてよいですか」と発信があると、皆で話し合って、心配なことを確認したり、応援したりできます。

費用負担や事故の時などどうなるのでしょうか、と保護者も質問することも可能で、生徒も保護者も安心して活動できるための対話や合意形成が、学校運営協議会を通じて進みます。

ちろん、学校だよりやPTA等への説明や、保護者に周知する努力も行っていきます。

このようなプロセスを経て、部活地域移行が進められると、保護者も地域住民も、理解して取り組みに参加したり、見守ったりできます。

将来的には、地域スポーツクラブや地域の人々と連携して、生徒が取り組んでみたい活動を学校運営に提案して実現していく「生徒の意見表明と参画の権利」を通じて、新たなスポーツ活動や文化活動が誕生するかもしれませんね。

このように、学校と保護者・地域との信頼関係や対話、合意形成をどのように作り上げていくかが、「子どもも大人も幸せで楽しい」部活地域移行を支えるために、大切なものと言えます。

学校運営協議会は高崎市が市立小中学校に導入中です。

新町中学校では、今年度から導入したそうです。

部活地域移行と重なるタイミングとなり、学校運営協議会が部活地域移行を応援するアプローチは、部活地域移行のモデルとなっていくのではないかと、教育行政・教育経営の専門家としてもとらえています。

(3)地域移行で陸上の専門的指導や水泳部の通年化も試行

新町中学校では、スポーツクラブとの連携で、野球部以外の部活地域移行も進んでいます。

日本スポーツ協会が作成した新町スポーツクラブの動画にも、バレーボールチームやバスケットボールチームの活動が紹介されています。

増田明美さんのナレーションもおすすめです

【学校部活動との連携】NPO法人 新町スポーツクラブ(群馬県)

陸上部や水泳部でも部活地域移行に挑戦しているそうです。

陸上部では、専門性の高い指導者(外部指導員)が、やはり土曜日に中学生の指導を開始し、部活地域移行を試行しています。

水泳部については、地域のスイミングクラブのコーチを高崎市の部活指導員として雇用し、水泳部の活動をサポートし、通年化しています。

民間のプールを利用する経費についても、学校の水泳部の部費から補助する仕組みです。

現在は民間企業の地域貢献事業として使用させてもらっています。今後については、検討課題となっています。

大会申し込みや土日の引率もスイミングクラブ(部活指導員)が分担しています。

(4)それで、部活地域移行で活動にいくらかかるの?

保護者や教員が気になっておられるのは、家計の費用負担だと思います。

ここまで述べてきたような、地域移行された新町スポーツクラブの活動については、以下のような経費負担となっています。

・年会費:個人2000円(家族・きょうだい入会の場合年3000円)

・スポーツ保険:年800円(小中学生の場合)

・活動に応じた月会費:SVCスポーツ少年団、野球教室・バレーボール1000円、バスケ月500円(小学校での「体力つくりプロジェクト」は無料)

・その他スポーツウェア・シューズや用具は自己負担(用具は貸し出されるも多い)

スポーツの種類にもよりますが、月平均1500円程度の会費等負担にウェア・シューズ等を家計が支払う、という現状になっています。

低所得世帯への補助については、スポーツ庁も来年度(2023年度)以降の補助制度の創設のために、いま政府に予算要求をしています。

大阪市や福岡市では民間の習い事にも使える放課後活動の支援制度が既にありますが、自治体独自での補助制度も充実していくことが期待されます。

家計の負担はあまりなくても、教員の人生を犠牲にするいまの部活動から、家計も少しだけ負担しつつ、地域でも支える持続可能な活動に移行していくことも、「子どもも大人(もちろん教員も)幸せで楽しい」スポーツ活動のために大切なことではないでしょうか。

3.そもそも地域スポーツクラブってなに?

―赤ちゃんから大人までのスポーツクラブ、ヒップホップダンスから野球・サッカーまで

―1964年東京オリンピックレガシーのスポーツ少年団が核になっているケースもある

―暴力根絶を含む「スポーツ団体ガバナンスコード」の自己説明・公表にも取り組む

(1)赤ちゃんから大人までのスポーツクラブ、ヒップホップダンスから野球・サッカーまで

そもそも地域スポーツクラブって何だろう?

正式名称は「総合型地域スポーツクラブ」です。

スポーツ庁HPには以下のような説明がされています。

総合型地域スポーツクラブ

総合型地域スポーツクラブは、人々が、身近な地域でスポ-ツに親しむことのできる新しいタイプのスポーツクラブで、子供から高齢者まで(多世代)、様々なスポーツを愛好する人々が(多種目)、初心者からトップレベルまで、それぞれの志向・レベルに合わせて参加できる(多志向)、という特徴を持ち、地域住民により自主的・主体的に運営されるスポーツクラブです。

我が国における総合型地域スポーツクラブは、平成7年度から育成が開始され、平成29年7月には、創設準備中を含め3,580クラブが育成され、それぞれの地域において、スポーツの振興やスポーツを通じた地域づくりなどに向けた多様な活動を展開し、地域スポーツの担い手としての役割や地域コミュニティの核としての役割を果たしています。

多世代・多種目・多志向、が地域スポーツクラブの特徴です。

新町スポーツクラブでも、以下のような活動の特徴があります。

多世代:新町スポーツクラブでも、赤ちゃんから、小中高校生や若者、大人までのスポーツ活動が多世代展開されています。

多種目:ヒップホップダンスから野球・サッカーまで、多種目の活動を楽しむことができます。

多志向:初心者やスポーツが苦手な人でも、あるいは専門性の高い指導者と競技力の向上を目指したい人も、ニーズにあった活動を展開できます。

(2) 1964年東京オリンピックレガシーのスポーツ少年団が核になっているケースもある

総合型地域スポーツクラブの設立には様々なパターンがあるそうですが、新町スポーツクラブの場合には、スポーツ少年団がその設立の基盤となっています。

スポーツ少年団は、1964年東京オリンピックのレガシーの1つです。

新町スポーツクラブの小出さんも、1964年東京オリンピックを契機として新町地区に設立されたスポーツ少年団で活動していた一人だそう。

私は初耳だったのですが、スポーツ少年団は、実は年齢の上限がないのです。

日本にスポーツ文化を根付かせ、広げるためにリーダー育成事業や指導者育成事業を通じて、多世代の活動に発展するように、事業を展開してきた蓄積があるのです(日本スポーツ少年団50年史)。

こうした中で、スポーツ少年団からリーダー・指導者が育っていき、その大人たちが、単種目ではなく多種目を楽しめるような活動をということで、当時の文部省と日本体育協会が、1995年度(平成7年度)から1997年度(平成9年度)に呼びかけ、総合型地域スポーツクラブが各地に設立されてきたという経緯があります。

後で述べますが、日本スポーツ少年団リーダー育成事業や指導者育成事業では、ドイツとの交流が重視されており、そのことが、新町スポーツクラブでの「子どもも大人も楽しく幸せ」なスポーツ活動の基盤ともなっています。

(3)暴力根絶を含む「スポーツ団体ガバナンスコード」の自己点検・公表にも取り組む

地域スポーツクラブの特徴として、日本スポーツ協会が実現を急ぐ、暴力根絶を含む「スポーツガバナンスコード」の自己説明・公表にも取り組んでいる点が挙げられます。

現時点では各スポーツクラブが自己点検・評価に取り組んでいる段階ですが、将来的には日本スポーツ協会での認証制度に移行することも期待されます。

今読者のみなさんやお子さんが、もしも地域でのスポーツ活動に参加している場合、そのスポーツクラブが「スポーツ団体ガバナンスコード」の自己点検・公表を行っていれば、暴力暴言やパワハラ根絶に団体として取り組んでいるという判断基準のひとつにもなるものと言えます。

4.パワハラ指導者だった小出さんが「こどもまんなか」になるまで

―スポーツが好きであることが一番大事

―40年にわたるドイツとの交流

1964年東京オリンピックのレガシーであるスポーツ少年団を経て、地域スポーツクラブのリーダーとしてご活躍の小出さんですが、実はパワハラ指導者だったそう。

そんな小出さんが、「子どもも大人も幸せで楽しい」活動を実現できる指導者に進化するまでに何があったのでしょう?

(1)スポーツが好きであることが一番大事

小出さんの指導者としての進化やスポーツ観の変化を支えたのは、スポーツ少年団の指導者育成のために行われてきたドイツとの交流でした。

この交流はいまも続いており、ドイツの成熟したスポーツ文化や、子どもも大人も楽しむことやスポーツを好きになることを大切にする指導方法など、日本の多くの指導者が学び成長する機会となってきたそうです。

たとえばドイツの地域スポーツクラブでは、小学生が自主的にフットサルをしていても1時間の間、指導者が何もいわず、見守っているそうです。

あるいは多世代・男女混合でスポーツを楽しむのは、当たり前のことだそうです。

多世代・男女混合のハンドボール大会も開催されている

今年の夏、新町スポーツクラブ独自国際交流事業として3年ぶりにドイツに渡航した若者が「こういう大会があればスポーツは好きになるかも」と、つぶやくくらい、老若男女がスポーツを楽しむ文化があるのです。

(2)40年にわたるドイツの交流

小出さんも1980年から、ドイツとの交流事業で、日本とはあまりに違うドイツのスポーツ文化に触れていましたが、急には変われず、時とともに変化してきたそうです。

そのきっかけは、地域スポーツクラブ(スポーツ少年団)の子どもたちが成長する中で、命の大切さを感じる出来事もあったそうです。

またスポーツ少年団から地域スポーツクラブに移行する中で、運動スキルの差が大きな学年に出会ったことも、パワハラ指導者から進化するきっかけになったそうです。

運動スキルが高い子とそうでない子がいる場合、指導者が指導して勝てばよい、では運動スキルが低い子どもは、スポーツが嫌いになってしまいます。

そうではなく、運動スキルが低い子もスポーツを好きになってほしい、そのような思いをスポーツ指導に反映させるとき、ドイツの指導者のように「見守る」という行為の大切さに気が付いたそうです。

指導者が「見守る」ことで、子どもたちは自分たちで動いたり考え工夫できるようになり、自分自身の成功をつかみ取ることができます。

日本では勝利至上主義が強く、指導者が命令して勝って結果がでると、指導者の自分の指導の仕方が良いという勘違いも生まれ、パワハラ指導に陥りがちにもなってしまうそうです。

もっとも小出さんも「見守る」ことに、最初はストレスを感じておられたそうですが、運動が苦手な子どもたちでも「スポーツを好きになる」ことを大切に、頑張ってこられたそうです。

その積み重ねが、この記事の最初に紹介した、大人も子どももリラックスして楽しいスポーツの居場所に結実しているのだなと、感じました。

新町スポーツクラブの小出さん(写真は承諾を得て掲載しています。)
新町スポーツクラブの小出さん(写真は承諾を得て掲載しています。)

おわりに:「子どもも大人も幸せで楽しい」スポーツ・部活を日本のあたりまえに

―やらない言い訳より、できることから少しずつ

―あなたは相手チームのプレーにも拍手できる大人ですか?

(1) やらない言い訳より、できることから少しずつ

この記事の目的は、部活地域移行のゴールが、「学校から部活をなくす」ということではなく、「子どもも大人も幸せで楽しい」スポーツを通じた居場所を地域に作っていくことにもある、ということを読者のみなさんに理解いただくということでした。

中学校が部活地域移行について、やらない言い訳を頑張っている学校もある、という残念な話を聞きます。

しかし、できることから少しずつ挑戦してみてはどうでしょうか?

高崎市の中学校の校長先生も「いっしょに模索している関係」が、地域スポーツクラブとの関係だとおっしゃっておられました。

日本の学校の校長先生の一定数は、とても真面目なので失敗は許されない、と思いがちです。

しかし、地域や児童生徒、保護者のみなさんと、一緒に考え、挑戦する姿勢を、校長先生や学校の教員が見せることは、子どもたち自身にとって大きな学びともなるはずです。

スポーツ庁も、部活地域移行については、100億円以上の大型予算を政府に要求して、学校と地域の取り組みを応援しています。

部活指導員の学校への派遣は都市部では実現しやすいでしょう。

しかし、そうでない地域でも、地域のスポーツクラブや指導者とともに、週1回2-3時間からでも、「スポーツ教室」などの形で小中学生と楽しめる活動はあるのではないでしょうか。

公民館活動や社会教育・生涯学習活動などで、大人向けの活動を展開できる指導者がいるならば、まずは学校の教員と一緒に子どもたちと活動してみて、指導のコツをつかむことができるでしょう。

たとえば、地域や保護者の協力を得て、まず1回、ダンス教室やスポーツ教室を中学校の体育館でまず開催してみる、など、小さなお試し活動をしてみる、などであれば、ハードルが低いのではないでしょうか?

(2)あなたは相手チームのプレーにも拍手できる大人ですか?

私は部活地域移行の目的を、「学校から部活をなくす」ということではない、と申し上げました。

大人も子どももスポーツが好きで、気軽に楽しむ、そのような日本の持続可能なスポーツ文化、豊かなスポーツ文化を育むことが、もっとも大きなゴールなのです。

スポーツ庁の検討会議で、室伏長官や一流のアスリートでもある競技団体代表の発言や思いに触れてきた私はそのように考えています。

そんなゴールを見据えたとき、いまの日本のスポーツ文化はどうでしょうか?

ドイツのスポーツシーンでは、相手チーム・選手のプレーにも拍手して、応援するのが当たり前。

さて、日本の大人のみなさんは、わが身を振り返ってどう思われるでしょうか?

日本のスポーツシーンでは、コーチや保護者が、相手チームや選手に野次を飛ばしたり、ミスを喜ぶような声かけもまだ多いのではないでしょうか?

また自分たちのチーム・選手が失敗したときも、叩いたり罵声を浴びせる指導者や大人も、まだまだ日本のスポーツシーンにはいるはずです。

中体連大会や全国大会で勝つことを目標にするような、勝利至上主義の部活動がこのように、指導者や大人たちの行動に悪影響を与えてしまってきたのではという懸念は、部活地域移行改革を推進している関係者には共有されています。

「子どもも大人も幸せで楽しい」スポーツ活動をあたりまえにするためには、大人の側が、スポーツへの価値観を問い直すことが大切なのではないでしょうか?

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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