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試合当日の朝、選手同士でプランを確認。日本代表勝ち越しの背景。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
地元出身の姫野和樹は後半23分から出場。(写真:つのだよしお/アフロ)

 ラグビー日本代表が、6月のツアーを2勝1敗で終えた。

 23日は愛知・豊田スタジアムでジョージア代表を28―0で制した。自軍ボールでのキックオフの際から鋭い防御を繰り出し、前半4分にスタンドオフ田村優のペナルティーゴールで先制。雨のグラウンドで相手の得意なスクラムをほぼ互角に持ち込み、蹴った先の防御などで落球を誘った。

 9―0とリードして迎えた後半9分には、敵陣ゴール前左での相手ボールスクラムを右プロップの具智元が鋭く押し返す。相手の落としたボールを拾った日本代表が中央へ展開し、ロックのヴィンピー・ファンデルヴァルトが両軍通じて初のトライを決めた。直後のゴールキック成功を経て、16―0と点差を広げた。

 ジョージア代表戦後、日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチとリーチ マイケルキャプテンが会見。試合前に選手主体で話し合っていたというエピソードを明かした。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

ジョセフ

「まずは、このチームの6月の健闘を見て、非常に誇らしく思います。昨季からの成長は著しく、日本のトップリーグでやってきた選手が強豪とここまで戦えるように成長したのは嬉しい。去年はトンガ代表、フランス代表、そして今年はイタリア代表、ジョージア代表を相手にこのような試合ができた。

 この天候で、日本の皆さんが好まない試合展開になったと思いますが、立ちはだかる壁を乗り越えた。スクラムで相手を劣勢に追い込むなど、プレッシャーをかけ続けられました。選手たちの努力を誉めたいです。

 まだまだ先は長い。残念だったことは先週、勝ち切れなったこと。3連勝という抜群な結果を得られれば、11月に予定されているニュージーランド代表戦やイングランド代表戦を(より良い形で)迎えられました。

 この場を借りて、コーチングチームの働きぶりも称えたいです。特別な形でトライを取れるようになったのはトニー・ブラウンアタックコーチの功績です。今日は無失点でしたが、それはジョン・プラムツリーディフェンスコーチのおかげです。サイモン・ジョーンズS&Cコーチが選手に落とし込んだものが成果になって、これだけフィットして戦えた。

 選手たちはコーチ陣の提示したものを受け入れ、成長を加速させている。ドクター、フィジオらあまり日の当たらない裏方のおかげでチームが成長していることも、お伝えしたいと思います」

リーチ

「今日は雨の中でした。(肉弾戦が増えそうなため、身体の大きな)ジョージア代表は行きのバスに乗った時からテンションが上がっていたと思います。それに対して選手はきょうの午前中、何をしないといけないかを話しました。天候に合わせたゲームプランを理解する…と。日本はこういう天候は苦手。でも、勝った。ディフェンシブな試合だったけど、凄く自信になったと思います。これから勢いをつけ、11月の大事な2試合へ。課題は、出てくると思います。ただ、いい準備をして頑張っていきたいです」

 チームは9、16日のイタリア代表との2連戦を1勝1敗で終えていた。大分・大分銀行ドームでの初戦は34―17で快勝も、兵庫・ノエビアスタジアム神戸でおこなわれた第2戦目は22―25で惜敗していた。

 

 翌年9月からのワールドカップ日本大会では格上のアイルランド代表、スコットランド代表とぶつかるにあたり、今回のジョージア代表戦は結果、内容の両面で大きな期待がかけられていた。

 緊迫感ある事前練習を経て、リーチが取った策は当日朝の緊急ミーティングだったのだ。選手主導というこのクラブの輪郭が、見え隠れした。ジョセフはこうも補足する。

「リーチは自ら言わないかもしれないですが、『今朝、話した』というのはリーチらが選手主導で、大人の男としてテストマッチで勝つには何をすべきかをお互いに確認し合っていたのです。選手たちで意思統一して、コーチの手元を離れてそういったことをしているのは本当に特別なこと。このチームには、特別なものが生まれつつあります」

――前半、ペナルティーゴールが外れる場面は多かったため試合の流れが心配されました。ハーフタイムに声掛けをしていましたか。

リーチ

「ゴールキックが外れたことでの不安は全くない。プレッシャーをかけ続けることが今日のテーマで、チャンスが点数にならなかったけど、プレッシャーをかけ続けられた。後半も同じで、プレッシャーをかける、と。自分たちで規律を守って、自分たちにプレッシャーをかけず、相手にプレッシャーをかける」

――最大の収穫は。

ジョセフ

「ひとつに絞れないが、率直にディフェンスがよかった。雨が降っていて、ジョージア代表のアドバンテージがあると思われていたでしょうが、だからこそ日本代表は正確に、精度高くプレーしなくてはならないことを覚悟していました。相手からのプレッシャーも乗り越えてくれた。それを嬉しく思っています。しっかりとポジショニングをして強くタックルに入り、相手の落球を誘った。チームに対する気持ちの入った、いままで見られなかったところが多く見られた。ラグビーを始めた子どものころはボールを持ちたいものですが、我々は全体のうち60パーセントの時間、ディフェンスをします。だからこそディフェンスを強化しています」

――日本と同じくスーパーラグビーにチームを派遣しているアルゼンチンは、代表チームが苦戦しています。

ジョセフ

「アルゼンチンはスーパーラグビーと代表のコーチングチームは違って、我々は一緒。その分(我々は)大きなコミットをしなくてはいけないが、サンウルブズは日本代表の兄弟チームのようなもので、日本代表に新たな違う環境をもたらすことができています。コーチングスタッフが一緒ななか、選手が飽きたり怠慢になったりしないような工夫もできたと思います。サンウルブズで学んだことを日本代表に繋げられているのが、いまの日本代表の特徴だと思います」

 この日は相手のエラーも目立っていたとはいえ、日本代表陣営はシャットアウトという結果に満足。皆一様に手ごたえを口にしていた。例えば司令塔の田村は、自身がキックを放った後の味方の動きに感謝していた。

「僕がノーコールで(特に指示を出さずに)蹴っても、山田(章仁)さんとかがしっかりとチェイスに行ってくれていたので」

 このキックにまつわる質問は、記者会見でも出た。

――キックの多い展開だったが、雨が降らなくても蹴っていたのか。

 

 回答を求められたジョセフは、顔つきをやや曇らせてマイクを取った。その答えは、一部で見られるキックを疑問視する意見への反論のようでもあった。

ジョセフ

「キックと仰いますが、私のなかではプレッシャーと考えています。見解の相違があります。こういうグラウンドコンディションのなかでキックを蹴り、相手を背走させ、蹴った先のラックでプレッシャーをかけ、相手のミスを誘う。それを見事成功させると、相手は自信を喪失し、時に言い合いになる…。このようにチームを崩す方法で、むこうにフラストレーションを抱えさせるのです。この雨のなかではハンドリングエラーが増えるので、ディフェンスでもカウンターラック(相手ボールの接点を乗り越えるプレー)などでアタッキングマインドを示すのが大事。そのため、このような試合をしました」

 チームは24日、解散。大半の選手はスーパーラグビーへ挑むサンウルブズに戻る。日本代表は11月にニュージーランド代表、イングランド代表といった世界ランク上位国とぶつかる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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