阪神・茨木秀俊投手と、帝京長岡の後輩たちが挑む夏《阪神ファーム》
7月半ばを迎え、夏の甲子園を目指す高校野球の地方大会も本格化してきました。また社会人野球は、きょう14日に東京ドームで都市対抗が開幕。そしてプロ野球の7月といえばオールスターゲームですね。阪神勢の大量選出で物議を醸しましたが、何はともあれ盛り上がることを祈ります。
その前にフレッシュオールスターゲームが富山で行われ、阪神からは門別啓人投手(1年目)、桐敷拓馬投手(2年目)、高寺望夢選手(3年目)、森下翔太選手(1年目)、井坪陽生選手(1年目)の5人が出場予定。ウエスタン・リーグ選抜は21人中14人、イースタン・リーグ選抜は21人中13人がルーキーと、まさにフレッシュそのもの!楽しみですね。
さて私は先週末、久しぶりに阪神ファームの試合を観てきました。新潟県三条市でのファーム交流試合・西武戦です。ことしも雨にたたられた三条で、1試合は無事にできたものの敗戦。でも鳴尾浜に帰った今週は、中日を相手に3連勝!新潟での話の前に、ちょっと振り返ってみましょう。
相性のいい中日に3連勝!
11日は6対2で、先発・富田蓮投手が5回2失点で3勝目、残り4回を投げた門別投手がプロ初セーブです。打っては野口恭佑選手が3安打、高山俊選手、井上広大選手、井坪選手(2打点)もマルチヒットでした。ルーキーが投打で目立っていますね。
12日は5対4の勝利。秋山拓巳投手が先発、2本塁打を浴びたものの8回4失点で6勝目を挙げました。1イニングを抑えた加治屋蓮投手にセーブ。打っては豊田寛選手が4打数4安打の大当たり!栄枝裕貴選手と井坪選手が2安打です。
きのう13日は、2対2で迎えた9回裏に代打・北條史也選手が今季1号ソロを放ち、サヨナラ勝ち!8回1失点と好投したビーズリー投手のあと、9回1イニングを投げ同点に追いつかれた岡留投手ですが、北條選手の1発で2勝目となりました。
13日でちょうど70試合を消化した阪神は34勝35敗1分けでウエスタン・リーグの4位。今季は中日戦が13勝4敗1分けと相性抜群です。オリックスに6勝10敗、ソフトバンクも8勝12敗と4つずつ負け越していて、広島が7勝8敗、イースタンの西武が0勝1敗という内容。それでもチーム打率は.258でリーグトップなんですね。
14年ぶり2度目の中止
では、新潟の2日間を振り返ります。2009年に始まった新潟県三条市での試合は阪神にとって、イースタン公式戦が組まれた2011年を除いて毎年の行事だったのですが、コロナ禍の2020年と2021年は中止。昨年ようやく3年ぶりに開催されました。
すべて元通りとはいかなかったものの、三条パール金属スタジアムの方々や三条市の皆さんと再会できたのが嬉しかったですねえ。有観客で行われた2試合が三条では初めての巨人戦で、阪神の糸井嘉男選手も参加していて大いに盛り上がったのは言うまでもありません。
昨年の様子はこちらでご覧ください。
毎年必ず雨の影響を受ける新潟三条ですが、その割に中止になったのは初年度(2009年)5月31日のソフトバンク戦1試合だけ。とても無理だろうというグラウンド状態から、球場の方々が手を尽くして試合開催にこぎつけるという光景は何度も、いや毎年のように遭遇しています。
しかし、ことしは予報がかなり悪かったので、久しぶりの中止か…しかも初の2試合全滅か…と覚悟はしていました。やはり8日は夜中からの雨で午前10時に中止発表。お昼から薄曇りだったとはいえ、翌日にやれる希望を持っての決断でしょう。
来場されたお客様は、室内練習場でバッティングをする選手を見たり、自由に行き来できる内野スタンドで写真を撮ったり。2013年から恒例になったファン投票『総選挙』も受け付けていて、サイン会やチャリティーオークションも予定通り行われたのは何よりです。
野球教室も復活しました!
昨年は見送られた野球教室も4年ぶりに開催されたのですが、残念ながら場所はグラウンドでなく室内練習場。そして本来は試合後にスタートするものを12時半からに繰り上げたため来られなかったチームもあったようで、参加したのは三条市内の6チームでした。
阪神の選手たちは一塁側と三塁側に分かれ、子どもたちも一塁側と三塁側それぞれ3交代ずつで指導を受けます。外でやるより選手との距離が近くて楽しかったかも?ふと見れば、1人の子に選手6人がついていました。「マンツーマンどころが、マンツーシックスや!」と野村克則コーチ。
6歳の幼稚園生もいて、みんなの後ろに隠れた姿が何とも寂しげに見えます。ところが、バットを振ったら別人!一番小さな体で、めちゃくちゃパワフルで、空振りせずバットに当てていました。それで、打ち終わったらまた人影に隠れて気配を消します。来年また来てくれたらいいなあ。楽しみです。
それぞれのグループで練習が終わると、グラウンドへ出て記念撮影。代表の子が音頭を取って「ありがとうございました!」と挨拶をすると、それを見て中川勇斗選手も同じように「整列!ありがとうございました!」。続けて「ありがとうございました!」と他の選手。子どもたちが驚き、そして嬉しそうに笑っていました。
試合を観られなかったのは残念ですけど、こうやって触れ合えたのは何より。いい思い出になったでしょうね。時間配分や段取りを余裕でこなす高山選手、先輩方のムチャぶりにも慌てずスイング指導を全力でするルーキー・野口選手、それを真剣に聞く(途中からニヤニヤ?)高浜祐仁選手。野球教室あるあるですね。
先発予定のご当地選手
今回はイースタン・リーグの西武とのファーム交流試合で、この三条では初の顔合わせです。その中に分配ドラフトで移籍した陽川尚将選手もいました。試合は4番ファーストでフル出場、7回にはタイムリーを放っています。試合後に会ったら「何しに来たんですか!」と驚き、そのあと「あ、そうか。阪神戦でしたね(笑)」と納得した様子。はい、そうですよ。
なお8日は、新潟医療福祉大学出身の桐敷拓馬投手が、昨年の巨人戦に続いて先発する予定でしたが雨で流れ、スライドはしないとのこと。本人は「残念ですね。投げたかったとは思いますけど、仕方ないかなと」と話していました。
でもまあ1軍で投げるところを見てもらえればね。「そうですね。そっちの方がいいかなと思います」。お客様に47番のユニホームが多かったですよ。「あ、そうなんですか?ありがたいですね」。そのあたりは去年よりも手応えを感じるのでは?「いや~多少はまあ、1軍で勝てたので。そこはよかったです」
その桐敷投手は、きょう14日の広島戦(由宇)で先発し、5回3安打無失点だったとか。ナイスピッチングですね!
そして9日の先発であるルーキー・茨木秀俊投手も、新潟県長岡市にある帝京長岡高校出身。3年間を新潟で過ごした…というか数か月前までいたんですよね。今回は卒業式以来の新潟で、三条パール金属スタジアムは高校3年の春の大会で一度来たことがありますが、その時は投げていないとのこと。
公式戦の先発は6月18日の広島戦(由宇)以来2度目となりますが、気負いはなく「楽しみです!」と笑顔。当日は高校の友だちが来てくれるらしく、そこで「まずは1人1人、打ち取っていくことを心がけてやっていきたい。強気で攻めようと思っているので、そこを見て欲しいです」と語っていました。
2日目は無事に開催
9日もスッキリとはせず、降ったり止んだりの空模様。10時にスタンド開門のアナウンスがあった瞬間、またザッと雨が落ちてくるような不安定さながら、その後は試合に問題なく無事終了。1試合だけでもできてよかったと関係者の皆さんはホッとしておられました。
先発の茨木投手は1回、先頭の滝澤夏央選手に初球を二塁打、ついで四球、犠打、四球で1死満塁とし、暴投で先制点を与えます。2死後にタイムリー、タイムリー二塁打、タイムリー三塁打と3連打で、この回5点を失いました。
2回は連続三振を含む三者凡退に切って取った茨木投手ですが、3回は味方エラーから暴投と四球で無死一、三塁となってタイムリーとニゴロで計2点。3回を投げ5安打2三振3四球、7失点(自責6)で交代しています。
なお打線は、1回に相手エラーのあと高山選手が2ラン!文句なしの一発は応援団が陣取る芝生席へ飛び込み、大歓声です。4回には豊田選手のソロ、7回は中川選手が2ランを放ちました!とはいえヒットが5本、しかも2回以降はホームランの2安打のみで8対5の負け。ちょっと残念でしたね。
和田豊監督は前日、いつ以来の新潟かと聞かれ「去年も来たよ。高校野球で、茨木を見に」と話していました。その1年後、阪神の選手となった茨木投手の投球を振り返って「うーん、まあこれが今の力だと思うから。来年もう一度来た時、成長した姿を見せられるように頑張っていかないといけないな」とコメントしています。
また左腕3人が好投でした。まず川原陸投手は4回からの3イニングをパーフェクト!8回は昨年同様、大きな拍手で迎えられた地元・三条市出身の渡辺雄大投手で、1球ごとに雄叫びを挙げながら1安打無失点。9回の岩田将貴投手も1安打無失点です。
「陸は1人もランナー出さないでね。先発もちょっと見たいな~と思うぐらいのピッチングは見せてくれた。ナベは地元で気持ちも入って、声も出ていたし。岩田は今週けっこう投げて、いい時と悪い時がはっきりしてしまうけど、きょうはよかった」と和田監督。
3本のホームラン
そしてホームランが3本。高山選手は6月25日の中日戦(ナゴヤ)以来の第5号です。和田監督いわく「俊はずっといい状態を維持している。打つことに関しては本当に“いつ呼んでもらっても”という心構えも、状態も整っているんで。ただ兼ね合いがあるから声がかかるまで続けていかないと、という競争。その意味では、しっかりと結果出して準備をしている状態かな」とのこと。
今季1号の豊田選手には「やっと豊田らしいというか。まあヒットはちょこちょこ打っているけど、決して長打が打てない選手ではなくて、ああいう一発を打つ力もあるので。これが前半に1本とかじゃなく、月に1本、週に1本ぐらい出るようになると」と言います。
「豊田ってトータルの選手なんでね、打って守って走って。守りも含めてだけど、まだ本来のあいつのバッティングとは違うからね。もっと広角に打って、率も出る選手。まあ一発出たってことは、これからが期待もできるし、これをいいきっかけにして上がっていってほしいね」
もう1本は中川選手。6月24日の中日戦(ナゴヤ)に続く第2号でした。「ナゴヤでもね、しっかり振り抜いて。あのフルスイングは彼の持ち味やからね。それだけに結果の良しあし、その打席のいい悪いがはっきりしてしまうタイプではあるんだけど、だから凡打のレベルをちょっと上げていかないといけないかな~というね」
「持ち味は持ち味で生かしていく中で、もっともっと打てる選手やと思うし。キャッチャーだからどうしても守備が優先になってくるけど、中川の場合は“打てるキャッチャー”として、そっちも磨いていかないと。まだまだ満足することなく精進してほしいね」
このうち話を聞けたのは高山選手だけですが、ホームラン賞の笹だんごを手に答えてくれました。手応えは?「いいピッチャーなので、真っすぐをしっかり打ててよかったです」。打席にはどういう意識で?「あまり対戦のないピッチャーなので、甘い球をしっかり1球で、とは思っていました」
総選挙での1位、高山選手は2017年以来2度目ですね。「なかなか来られない場所で、天気も悪かったですけど、いいところを見せられてよかったです」
50人超の後輩たちが応援に!
では、ルーキー・茨木投手のコメントをご紹介しましょう。前日に聞いた時、高校の友だちが15人くらい来るとかで、それは結構多めですね~なんて話していたのですが、実はフタを開けてみると、15人どころか50人も!
試合開始直前に白いシャツを着た、くりくり丸刈り頭の団体がスタンドに現れました。一塁側スタンドの端っこにキッチリ整列して座り、黄色いメガホンを手に観戦中。これはもう間違いなく、茨木投手の母校・帝京長岡高校野球部の選手たちでしょう。
茨木投手が降板したあと、そこへ行って声をかけたら一斉に立ち上がり、挨拶してくれます。いやいや、すみません。恐縮です。マネージャーと思しき女子に紹介してもらって、小野寺翔コーチに挨拶をすると、監督も来られていてお話を伺えました。帝京長岡高・芝草宇宙監督です。
思わず、芝草投手が在籍されていた頃の日本ハムが好きだったと告げ、苦笑を誘ってしまいました。それはさておき、芝草監督によると「きょうは練習を午前で終わらせることができるとわかったので、茨木が投げるところをみんなで観にいけたらと。野球部員50人で来ました」とのこと。
茨木投手については「コントロールで少し苦しむかもしれませんが、プロはストライクゾーンも違うし。高校出のピッチャーはみんな、そこでまず苦しみますからね」と言われ、続けて「でも、体もひと回り大きくなったような気がします」という言葉。
新潟大会は既に始まっており、帝京長岡は翌10日が初戦。みんなの活力になればいいですねと言ったら、芝草監督は「茨木さんが打たれてしまったんでねぇ(笑)」と。でも「茨木に伝えてもらえますか。お前がやられた分、うちが明日しっかり頑張るから!と」と頼まれました。
「今回は第1シードなので、みんなやる気になっています。そうそう、茨木の弟がエースなんですよ、2年生で」と芝草監督。そして、なんと「佑太!」と呼んでくださったのです。いや~ほんとに恐縮です。
「プロ野球選手って感じがした」と弟
弟の茨木佑太投手は2学年下。お兄さんとはもちろん一緒にプレーしていました。でもプロ入り後はほとんど会えていないのでは?「プロに入って投げるところを見たのは初めてです。ネットで見たことはありますけど」
どうでしたか?「投げ方も変わって、球も速くなっていてビックリしました」。そうなんですね。少し制球に苦労する立ち上がりだったようですけど、緊張していたんでしょうか?「いや、緊張はしないタイプだと思います」。そうなんですね。
タイプといえば、茨木投手はかなりの人見知りだというのが周知の事実で、2月のうるま(具志川)キャンプで初めて会った時も、挨拶はするけれど話しかける気配を見せたら目を逸らしてしまうという感じでした。
秋山投手が「あの子、メチャクチャ人見知りなんですよ!」と目を丸くしていたのは、もうキャンプ打ち上げ前日のこと。え、今もまだ?秋山投手に対しても?「はい、今もまだ。僕にもです」。ずいぶん時間がかかったようで。弟さんにも聞いてみました。やっぱり人見知りですか?「兄よりは多少マシだと思います(笑)」。なるほど。
ところで、お兄さんの阪神のユニフォーム姿を見ていかがですか?と尋ねたら「高校までの兄とは全然違います。プロ野球選手って感じがしました」という感想。尊敬やあこがれの詰まった表情です。
芝草監督も、茨木佑太投手も、初対面でいきなり話を伺って申し訳なかったのに、丁寧にお答えくださって本当にありがとうございました。
「苦い思い出になった」と兄
試合後の茨木投手は「ちょっと…苦い思い出になりました」と悔しそう。高校の野球部から50人も来て緊張してしまったとか?「いや、それはないです。ただ、いいピッチングをしようと思って」。気合も力も入ったんでしょうね。
修正すべきところは?「先頭に初球を打たれて動揺してしまったので、そこで動揺しないよう精神的な状態を保つことだったり、リラックスして落ち着いて投げられるようにやっていきたいです」
なお帝京長岡・芝草監督の伝言には「頑張ってほしいです」とひとこと。
この翌日、10日に長岡市悠久山野球場で行われた帝京長岡の初戦(新潟大会2回戦)、新発田農業との試合は10対2で7回コールド勝ち。次は、きょう14日に長岡との3回戦が予定されていたのですが雨天中止で、あす15日に順延となりました。
昨年は日本文理との決勝で、延長11回まで戦いサヨナラ負けを喫して、あと一歩届かなかった帝京長岡。最後まで投げた茨木秀俊投手のリベンジを、弟・佑太投手が果たしてくれるかもしれませんね。甲子園で待っていますので、ぜひ来てください!
最後にちょっとこぼれ話
三条に遠藤選手のご両親が秋田から来られていました。ルーキーイヤーの秋季キャンプ(安芸)でお会いして以来で自信はなかったのですが、お母さんの笑顔が遠藤選手と同じだったので、思い切って声をかけさせていただいたら…そうでした!
遠藤選手と本当にそっくりのお兄さんは東京からの参戦。でもお仕事の都合で日曜日の試合を観ずに帰られたのが残念でした。でも遠藤選手が所属していた本庄由利リトルシニアの佐々木弘樹コーチは、しっかりご覧になれたのでよかったですね。
ご両親も、なかなか鳴尾浜やウエスタン・リーグの球場は遠すぎて行けないので、せめて新潟でと言われますが、それでも秋田からは車で4時間ですからねえ。遠藤選手はこの日、1番セカンドでフル出場したもののヒットはなし。でも最後に遊ゴロ併殺の守備を見られました。
とっても明るいお母さんは、東海大相模で遠藤選手の1つ後輩だった西武・山村崇嘉選手とも会えたと大喜び。その様子を最初に見たもので、もしかしたら山村選手のご家族?と思ってたくらいです(笑)。またどこかでお目にかかれるのを楽しみにしています。
高寺選手のご家族も長野県から来られていたみたいで、本人に聞くとキョトンとしていたのですが、試合後に「会いました!」と笑顔。名古屋より東に実家がある選手は、ご家族も生観戦の機会は貴重ですね。
『2023総選挙』の結果
では最後の最後に、2日間行われた恒例『総選挙』の結果を書いておきます。阪神は10位までが下記のようになりました。なかなか接戦ですね。
1 高山選手 39票
2 茨木投手 33票
3 井上選手 32票
4 井坪選手 30票
5 桐敷投手 22票
6 高寺選手 15票
7 渡辺雄投手 14票
8 北條選手 13票
9 遠藤選手 12票
10 和田監督 10票
ちなみに西武の方は滝沢選手が断トツの79票!2位は陽川選手で11票でした。
<掲載写真は筆者撮影>