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必ず、もう一度、食べたくなる「温泉ごはん」 ひとり客も歓迎【名宿 珠玉の鍋3選】

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
温泉ファンなら一度は訪れたい「鶴の湯」の胃がぽかぽか「山芋の鍋」(撮影筆者)

ひとっ風呂の後は、おいしいものが待っている!!

私は、北海道から沖縄、さらには海外まで、名湯湧く地を訪れて味わった絶品料理&名物の数々や、そこで出会った多くの人々との交流を綴っている。

なかでも思い出すと涎が出てくる……、

珠玉の鍋3選をご紹介しよう。

「じゅぅ~じゅぅ~」豪快!漁師料理

男鹿半島の「結いの宿 別邸つばき」

「じゅぅ~じゅぅ~」スープが勢いよく弾ける。

少し樽の中が鎮まったら、日本海の春を告げるメバルと牡丹海老、長ネギを入れる。それから、また焼けた石をひとつ、もうひとつ。

「ぴちゃ、ぴちゃ」。汁が樽の中で躍るように跳ねると、一気に沸騰する。

仲居さんがもうひとつ焼けた石を取り出し、今度は汁の中のネギに押し付けた。「じゅ~っ」という音と共にネギが焼けるいい香りがしてきた。ものの2~3分で男鹿半島名物の石焼料理ができあがり。

通常の2倍は入りそうな大きな椀いっぱいに盛り付けられると、もわっと湯気がたちのぼり、磯の香りがした。もう、たまらない。

かつて漁師たちは、漁に出る前に焚き火をして暖を取った。彼らは漁から戻ると、樽に海水を汲み、焚き火の下にあった焼けた石と獲ってきたばかりの魚を入れて食べた。この漁師料理がルーツだから、汁が飛び跳ねるのも、ご愛敬。

この郷土料理に出会ったのは、秋田県男鹿半島にある 「男鹿温泉 結いの宿 別邸つばき」でのことだった。

味噌仕立てのスープの中に焼けた大きな石を入れる(撮影筆者)
味噌仕立てのスープの中に焼けた大きな石を入れる(撮影筆者)

漁師料理がルーツゆえに、具材は美味しそうな鮮魚(撮影筆者)
漁師料理がルーツゆえに、具材は美味しそうな鮮魚(撮影筆者)

温泉ファンなら一度は訪れたい「鶴の湯」の

胃がぽかぽか「山芋の鍋」

温泉ファンなら、一度は訪ねたい、秋田県乳頭温泉郷「鶴の湯」。

その名物は山芋の鍋は、この辺りで栽培されている、こぶし大のゴツゴツした丸いつくね芋をすり潰し、団子状にしたものを鍋に入れる、秋田県仙北地方の郷土料理。

山芋といっても大和芋に近く、強い粘りでつなぎは使用せずともまとまり、滋養効果が高いと言われている。この他にゴボウ、大根、人参などの根菜と豚肉、しらたきと盛りだくさんの具が入る。囲炉裏に鍋を吊るし、木蓋をあけると湯気が立ち上り、ぶわんと香ばしい匂いがするのは、自家製味噌を使っているから。味噌ゆえのコクなのか、味噌以外に酒粕でも入っているのだろうか、舌の両脇がきゅんとする旨味。一見、シンプルな鍋だが、味噌とだんごの味わいは唯一無二。

初めて「鶴の湯」で味わった時、鍋のスープを1滴も残さずに、もちろん具も完食した記憶が蘇ってきた。はちきれんばかりのお腹になったが、消化は早かった。

秋田県乳頭温泉郷「鶴の湯」(撮影筆者)
秋田県乳頭温泉郷「鶴の湯」(撮影筆者)

甘く爽やかな「わさび鍋」

静岡県湯ヶ島温泉「白壁」

静岡県伊豆半島、天城地方のわさびは日本一の生産量を誇る。

全国の生産量の半分が伊豆半島で採れたわさびであり、その約7割が天城産。天城のわさびは最高品種「真妻(まづま)」として高い評価を受けている。

わさびと言えば鼻につんとくる匂いを思い出すが――、鍋にすると途端に味変!

鶏を出汁に根菜をたくさん入れ、ぐつぐつ煮立ってから火を止めて、仕上げに女将がわさびをすりおろす。鍋の湯気にのってわさびの辛みが目に染みるかと思いきや、多少ツンとするもののさほど気にならない。むしろ口に含むと辛みは感じず、甘く爽やかであることに驚く。

鍋の仕上げにはチーズを入れてコクのある洋風リゾットに。わさびは洋食の素材と相性がいいようだ。他にも、すりおろしたわさびを地酒に入れてくれた。

実は私がわさび鍋試食第一号。

その後、わさび料理は定着し、いまでは湯ヶ島温泉名物へと成長した。

私はいつも「白壁」でいただいている。

鼻につんとくる匂いの印象のわさびも、鍋にすると味変!(撮影筆者)
鼻につんとくる匂いの印象のわさびも、鍋にすると味変!(撮影筆者)

天城のわさびは最高品種「真妻(まづま)」(撮影筆者)
天城のわさびは最高品種「真妻(まづま)」(撮影筆者)

※この記事は2023年4月に発売された『温泉ごはん 旅はおいしい!』(河出文庫)から抜粋し転載しています。

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界33か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便(毎月第4水曜)に出演中。国や地方自治体の観光政策会議に多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)温泉にまつわる「食」エッセイ『温泉ごはん 旅はおいしい!』の続刊『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)が2024年9月に発売

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