30%近い株価上昇は米S&P500超え! 日本に投資が集まるワケを米有力紙が分析
1990年代初期から失われた長い年月が続き、経済成長が低迷を続けてきた日本。そんな日本の日経平均株価がバブル後最高値を更新し続けている。年初来30%近い上昇は、米国のS&P500の上昇率をはるかに超えている。再び日本に投資が集まっているのはなぜなのか? 米有力紙ニューヨーク・タイムズがその背景を分析している。
同紙は「2014年、安倍元首相は、日本企業の旧弊な経営のやり方を大きく変えると述べた。それは無理難題だった。日本は、1980年代のバブル後、長年にわたり経済低迷を続け、日本企業の経営幹部は長い間現状維持にしがみついてきた。従業員の昇給や株主への還元はわずかだった。その結果、ほとんど成長のない経済だった」と日本企業が現状維持に甘んじてきたために経済成長が見られなかった状況を説明しつつ、「今、日本企業の経営の仕方が大きくシフトする兆候や経済に活力を吹き込むのを助ける変化がある」と、日本に投資が集まっている背景には、変化が見られなかった日本企業にようやく変化の兆しが見られるようになった状況があると指摘している。
では、日本企業はどのように変化しつつあると、同紙はみているのか?
1. ジェンダーの多様性の重視
日本企業がジェンダーの多様性を重視し始めている例として、オアシス・キャピタル・ファウンダーのセス・フィッシャー氏の「取締役にジェンダーの多様性を求めるために、キヤノンの株主が会長と最高経営責任者を叱責し、取締役会から彼を追放しそうになった」との発言を紹介している。これは、3月に、キヤノンの株主総会で取締役再任案への賛成が50.59%の低水準となり、その原因として女性取締役が不在だったことが問題視されたことに由来する発言だ。
今年の株主総会では女性取締役を登用する声が高まっていることも報じられている。
2. 日本企業による自社株買いがこの16年では最大に
2022年の日本企業による自社株買いが、この16年では最大の約70ビリオンドル(約9兆円)に達したとし、シチズン時計が発行済み株式総数の約4分の1を上限に自社株買いを実施すると発表した例を挙げている。また、2024年3月に終わる2023年度の日本企業による株主配当が、100ビリオンドルと記録を更新すると予想されていることも指摘されている。
3. 従業員の賃上げ
大企業が、今年、平均3.9%とこの数十年では最大の賃上げに同意したこと、ユニクロの経営者が最大40%昇給すると約束したことが指摘されている。
4. 東京証券取引所が株価意識を要請
「企業の考え方に変化を与えているもう一つのリーダーは東京証券取引所だ」とし、3月、東京証券取引所が、企業に対し、株価を意識するように要請、株を一株当たりの純資産以下でトレードするプランを提示したと指摘、その簡単な方法は、配当をより株主に還元して、自社株買いをすることだとしているという。東京証券取引所がそのプランをいつから始めるかは不明だが、今年自社株買いをすると発表したトヨタやホンダのような大企業は(このプランに)チェンジする必要があると思われる、としている。
他にも、日本への投資が高まっている背景として、驚くほど安定している今年の日本経済、円安、世界の多くの経済大国の金利が上昇しているにもかかわらず非常に低金利であることに加え、投資家ウォーレン・バフェット氏による日本株の推奨も挙げている。バフェット氏が、伊藤忠、丸紅、三菱、三井、住友という日本の5大商社株を買い増し、4月には、日経に対して「日本企業にもっと投資する」と発言したために、海外投資家の資金が流入している状況があるからだ。
また、米中の緊張が続くなか、投資家が中国を敬遠する動きがあることも指摘されている。
前述のフィッシャー氏は同紙で「(日本)企業は企業価値を上げる行動を取るなか、所得を増加させることで日本経済全体を助けている。投資家はやっと日本には大きく変わるチャンスがあることに気づいた」と日本経済の見通しを楽観視している。海外投資家は、これまで変わらなかった日本企業には、変わることによりまだ伸びしろがあると感じているということだろうか。しかし、日本企業は本当に変わることができるのか?
同紙ではまた、「課題は、経済の一部で最近起きている所得の増加を維持し、拡大することだ」という識者の声も紹介されている。
アベノミクスでは、潤ったのは投資家や大企業だけでトリクル・ダウンは起きなかったことが批判されたが、今回はトリクル・ダウンが期待できるのか? 結局、“持てる者”だけが潤い、経済格差の拡大に拍車をかけることになるのではないか?
世界は今後の日本経済の動きに注目している。
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