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生産性が低いマネジャーは「音痴」ではなく「論痴」である

横山信弘経営コラムニスト
いつまで経っても議論が進まない……(写真:アフロ)

■ 音痴と論痴

「この人、音程ズレているよね」

一緒に歌番組を観ていると、たまに妻がつぶやきます。

「真ん中の人は上手だけど、隣の人がたまにズレる」

私は音程がズレているか、まったくわかりませんのでスルーしていますが、妻はかまわず、そんなことを言うのです。「絶対音感」を持つ妻は、複数に重なった音でさえ聞きわけることができます。

「君の名は」のエンディングテーマを弾いてよと娘が言えば、譜面がなくても、「こんな感じかな」と即興で再現することができます。

音感というのは、音に対する感覚のことを指すようです。音の高さや長さ、音の色彩とかを認識できるスキルが高い、ということです。

音痴の私には、わからない世界です。

最近、私が気になっているのは、この「音感」ではなく「論感(ろんかん)」。妻が私と話をしていると、だいたい途中で話があさっての方向へ向かいます。

「あのさ、話の論点がズレているよね?」

そう言っても、妻は何のことだかさっぱりわからないようです。

「相談したいことはAだったはずなのに、いま話題がBになってる」

そう指摘しても、「そう? そうかな?」とよく理解できない様子。

「音程」のズレはすぐにわかっても、「論点」のズレはまったくわからないようです。「論感」がないのか。私と真逆です。妻は「音痴」ではなく「論痴(ろんち)」なのだろうか。

■「絶対音感」と「絶対論感」

私は「絶対音感」ではなく「絶対論感(ろんかん)」を持っているようなのです。

アメリカへ旅行にいった叔父さんが、

「アメリカでホンダの車が売れていると聞いたが、旅行中、一台も見なかった。本当は売れてないんだな」

と言ったとき、周りの大人は「へえ」と感心していても、「うまく説明できないが、何かがおかしい」と小学生の私は思ったものです。中学生のときも、高校生のときも、先生の話、大人の話、テレビのコメンテーターの話を聞きながら、

「つじつまが合わない」「理屈に合っていない」「結論ありきで話してる」

「一貫性がない」「関係がない話を、まるで関係があるように言っている」

「そうかもしれないが、そうじゃないことのほうが多いはずだ」

……と、感じることが多かった。当然のことながら、このような感覚は多くの人から共感されません。人の話を5分ぐらい聞いてから、

「今の話は3つに分解できるけど、1つめの話と2つめの話はともかく、3つめの話は関係がない。違う階層の話をしているから、頭が整理できないよね」

などと指摘すれば、友だちがいなくなってしまいます。「理屈っぽい」「頭でっかち」と言われるのがイヤで、いつも心の中で、「それは違うと思う」「さっきと言ってることが変わってる」などとつぶやいていました。

今はコンサルタントとなり、ロジカルシンキングを勉強してからは、このような「感覚」を言語化できるようになり、まるで霧が晴れたような気分になっています。

このように、うまく表現できないけれども、それは論理的におかしい。なんだかわからないけれど、理屈に合っていない……ということを瞬間的にわかるスキルを「絶対論感」と私は名付けています。

■ 生産性が低いマネジャーほど「論痴」である

私は現在、企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントをしています。経営目標を絶対達成させることがミッションです。そのせいで、とくに「総論賛成各論反対」の文化が根付く組織とは、けっこうやり合います。

「今期の部長方針は新規開拓となっていました。4ヵ月経っても、いまだ1社も新規のお客様を開拓できていません」

「ここ3年以内に入社した若手社員が、なかなか定着しない。それで頭を悩ませているんです」

「私は部長方針の話をしているのです。そもそもの論点がズレていると思うのですが」

「若手社員が定着しないことだって、わが社にとって重要な問題ですよ」

「部長、いま気になっていることを話すのではなく、この会議のテーマに沿って話してもらわないと、生産性が悪くなります」

このようなシーンでは私の「絶対論感」が役立ちます。考えなくても、一瞬で「整理されていない」「理屈に合っていない」とわかるからです。しかしクライアント企業のマネジャーが「論痴」では困ります。

最低限の「論感」がある人なら、私が指摘したあと、少しは考えてくれるからです。

「あ、そうですね。たしかに、いま議論しているのは、部長方針の新規開拓でした」

と言いあらためてくれるでしょう。そう言ってくだされば、私も

「若手社員が定着しないことも問題ですが、それはこの議論が終わってからしませんか」

と柔軟に対応できます。ところが「論感」がゼロで、「論痴」のマネジャーだと、

「何がズレてるんですか。ズレてませんよ」

と反論してきます。

「部長、先ほどからこの会議で議論しているテーマは新規開拓の件です」

「若手社員が育たないから新規開拓もうまくいかないんだよ」

「若手社員には新規開拓が難しいだろうからと、入社10年以上のベテラン社員に任せると、部長ご自身が昨年、方針を打ち出してます」

「若手社員だって、新規開拓は必要だ」

「何をおっしゃってるんですか。ということは、昨年、部長が打ち出した方針は撤回するんですか」

「撤回するだなんて言ってない。新規開拓が必要だし、若手にこそ新規開拓をさせないと育たない、と私は言ってるんだ。何がおかしい!」

「……」

いわゆる「話にならない」とはこのことです。権力がある人だと、周りが指摘しないですから、どんどん「論感」が鈍くなっていきます。私のような外部のコンサルタントが理詰めで迫ると、感情のコントロールができなくなり、爆発してしまいます。

「業界のことを知らないコンサルタントは、これだからダメだ。何もわかっちゃいない。誰がこんなコンサルタントを雇ったんだ!」

■ 働き方改革時代に「論痴マネジャー」は要らない

さて、働き方改革時代となり、現代に求められるマネジャーは、どんな人でしょうか。当然のことながら、生産性の高い仕事をする(させる)マネジャーでなければなりません。

イメージで書くと、

(A)→(B)→(C)→(D)

このように、短いプロセスでゴールに導くスキルを持っているマネジャーです。しかし、生産性の悪いマネジャーこそ、手戻りが多い。頭が整理できない(頭を整理させることができない)ためです。したがって、

(A)→(A’)→(A’’)→(B)→(A)→(B)→(B’)……

このようなイメージに、なります。

しばらく経ってから「そもそも何の話だったっけ?」とマネジャーが言ったり、「あ、そういうことだったんですね。それならそうと言ってくださいよ」と部下に言われたりして、同じような作業プロジェクトを繰り返すか、行ったり来たりを繰り返します。

ひどいのは、

(A)→(A’)→(A’’)→(★)→(★’)→(●)→(●’)……

このように、本来やるべき事柄ABCDとは関係のない★や●といった作業プロジェクトが途中からはじまるなどして、いつまで経ってもゴールが見えなくなるケースです。

最終的に「D」までたどり着けばいいのですが、論痴マネジャーのもとではゴールに到達するどころか、プロジェクトそのものがフェードアウトしまうことも多々あります。

■「論感」の鍛え方

単に効率が悪いのならマシです。論痴マネジャーがまずいのは、それまでの工程すべてを無駄にしてしまうこと。これでは、組織メンバーのやる気さえ失わせてしまいます。

論痴の人の「直感」ほど、アテにならないものはありません。論痴マネジャーが何も考えず、会議中にその場の思い付きで話すことは本当にタチが悪く、生産性の悪い日本企業の縮図を見ているかのようです。

「絶対論感」までは必要ありません。常に論理的でなくてもいいですが、「これは因果関係ない」「全体と部分がつながっていない気がする」といったことを、瞬時にわかる感覚ぐらいは持ちましょう。

「論感」がない人は、感覚では論理的に判断できないことを自覚することです。そして、いったん立ち止まることが大事です。1~2分、時間をとって考えるクセをつけます。そして、できれば論理思考を鍛えるフレームワークを常に持ち歩き、何かあるたびにノートやホワイトボードなどに書きながら、思考の整理をするクセをつけるのです。

私は音痴ですので、間違っても作曲など引き受けません。同じように論痴の人は、間違ってもマネジメントなど引き受けないことです。引き受けてしまったら、相応の努力をすることが大事です。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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