東京五輪「竹島地図問題」 韓国メディアもあまり報じない「日本側のふたつのこと」
東京五輪、無観客開催へ。このニュースの韓国での反応を調べるべく韓国最大のポータルサイト「NAVER」を探った。関連記事で一番上にある見出しには「日本”東京緊急事態”…史上初”無観客”オリンピック」(MBCニュース)とある。
さらにコメント欄には読者から一番反応の多いものが記されている。その内容は…
「日本は、五輪じゃなくて独島を地図に載せることが目的なんだから…」
しつこい、と思ってタブを閉じた。
5月21日から韓国側で再燃しはじめた「東京五輪地図の竹島騒動」。
東京五輪公式サイトにある日本地図聖火リレーコースを示すものに示された竹島について「消すか、消さないか」の話だ。2019年7月に一度、韓国政府が在韓日本大使館に抗議。その際に日本側が応じることはなかったが、2021年に東京オリンピック組織委員会側はサイトデザインを改変。この際、聖火リレーコース地図の竹島は消されたように見えるが、韓国側は「薄く残っている」と主張している。
こういった話を「韓国がやたらとうるさい」と報じる向きはある。いっぽうで、東京オリンピック組織委員会や日本政府側のスタンスについて触れられていない点がある。日本でも韓国でも、だ。
韓国では「挑発」の言葉とともにこの件が報じられる
「領土問題の主張+ボイコット」
2つの話題が重なり、日本でも大きく報じられることとなった本件。韓国大統領官邸公式サイトの「国民請願」に国民からの要望事項として、以下のスレッドが立ったことも日本ではセンセーショナルに報じられた。
「東京オリンピック組織委員会 独島の日本領土表記強行時には オリンピック不参加を宣言すべきです」
しかしこれに対する「同意」は8万1500の水準に留まった。1ヶ月で20万に達すれば大統領官邸の返答が行われるところだだったが、遠く及ばず。ちなみに7月7日現在で最大の票を集めていたのは、「徴用工関連訴訟で反民族、反国家的判決を下した判事を弾劾せよ」で、これが35万票を超えている。
さらに6月8日に韓国政府外務省報道官が「不参加は検討しない」としたことで、ボイコットの話は実質上、収斂した。日本のワイドショーは「大物政治家がボイコットを主張」と報じたが、これはいずれも来年の大統領選への出馬準備を行う人物によるものだ。知名度は確かに高いが、実質的な権限を持つ人物ではない。韓国スポーツ紙の元デスクは「IOCとの関係もあるのだから、ボイコットは簡単なことではなかったはず」と話す。
いっぽうで冒頭の話のように「領土問題の主張(抗議)」は収まらない。日々韓国のニュースをチェックするなかで目立つのは関連記事が「挑発」という言葉を使っている点だ。「独島挑発 日本の歴史歪曲 沈黙で一貫するIOC」(JTBC)という風に。
え、何言ってるんですか? そちらが難癖つけてきてるのに。
「東京ドーム5個分」の岩礁が地図に…
そもそも、韓国側が問題視した2019年時点の地図はどういったものなのか。
ここにあまり報じられない東京オリンピック組織委員会と日本政府のスタンスの1つめがある。2019年7月に相手が指摘してきた時点での地図には竹島が“かなり大きめに描かれている”のは確かなのだ。
竹島の面積は外務省ページによると、竹島の総面積は「約0.2平方キロメートル」。女島(東島)、男島(西島)と呼ばれる2つの小島、その周辺の総計37の岩礁からなる。
0.2平方キロメートルとは、いわゆる「東京ドーム5個分」に相当するそうだ。
いっぽう、日本の国土全体の面積は約378,000キロ平方メートル。
37万8000対0.2。
これをウェブサイトやスマホで見られる縮尺に収めようとしたとき、“0.2”は「点」として見えるものだろうか。ネットユーザーの利用頻度の高い「Google map」では、スマホやPCの画面に日本列島全体を収めようとした場合、竹島は点にもならない。ちなみに竹島の国際名は「リアンクール暗礁(Liancourt Rocks)」。国連海洋法条約は「島」ではない。とても小さいものなのだ。
ただし該当の地図はあくまで「略図」。必ずしも海運で使うような正確な縮尺である必要もない。制作者側が「そういう縮尺のものなんです」「デザインの都合上」と言ってしまえば、そういうことになる。細かいことをツッコミようがない点も確かだ。
現にこの地図上の縮尺はランダムなようで、以下の島々も、地図上では竹島と非常に近いサイズで表記されている。全般的に日本海側の島が大きく描かれているようで、目視する限りこれらの島が、0.2キロ平方メートルの竹島と同じサイズで描かれているように見える。
沖ノ島(福岡県) 0.97キロ平方メートル
飛島(山形県) 2.7キロ平方メートル
渡島小島(北海道) 1.54キロ平方メートル
組織委員会も政府も「開き直り」
韓国側の「地図に竹島が記されている」点に ついての日本の大会運営側の見解はこうだ。
「日本で一般的に使われている客観的な地図を用いている」(東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の布村幸彦副事務総長。2019年8月22日の報道による。組織委が22日までに実施した各国の選手団長を集めた会議にて)
はたして地図は客観的だろうか? 太平洋側沿岸に影をつけて、立体的にするデザインであるようには見えるが…。
また当時の菅義偉官房長官は2019年7月24日の定例会見にて「韓国外務省から在韓日本大使館に対して、竹島と日本海の表記について遺憾とする主張があった」とし、こう説明している。
「韓国側の主張は竹島の領有権などに関するわが国の立場に照らし、断じて受け入れられないという厳重な立場を伝達した」
両者ともに「この地図は竹島が入っていると分かって記している」と言っていると理解できる。「デザインの都合上、竹島が表記された」とも言っていないからだ。
五輪の場ではお控えを…組織委員会は過去の騒動を知らなかったのか?
領土に関する主張は当然のごとく重要なもので、筆者とてこの話になれば日本の立場に立つ。
ただし、オリンピックの場ではお控えを。
別の場所でやってください。何せ、通常の縮尺では「点」になるとは考えにくい島を表記しているのだ。そもそも「五輪憲章によると~」と記したいが、これはどうも、東京五輪あたりからあまり遵守されていないようなので割愛。
また組織委員会は「地図が火種になりうる」ということをまさか知らなかったのだろうか。
2018年の平昌五輪では、日韓両国で「地図問題」を巡っての論争が起きた。2017年9月、なんと公式サイト上の地図で日本とサハリンがまるまる抜けた地図が7ヶ月間掲載されていた。「ドリーム・プログラム」(11〜15歳の少年少女が冬季スポーツを体験する企画)の英語版ページでのものだ。
問題が発覚し、日本政府が抗議すると平昌オリンピック組織委員会側は「当初、地図上に日本はあった。ことし2月のホームページ改編過程で単純なミスにより抜け落ちてしまっていたことが確認された」と説明。同時に「ミスであってもお詫びし、地図を差し替える」とした。
また2018年2月の本大会時には、応援用に配られた「朝鮮半島旗」に竹島が描かれていたとして、日本政府が外交ルートを通じて韓国側に抗議。時の菅義偉官房長官も会見で「極めて遺憾」と口にした。韓国側はこれに応じ、地図から竹島は消された。
組織委員会側のもう一つの姿勢、「歓迎」
地図はその後、2021年5月のサイトデザイン改正で「竹島が消されたもの」に差し替えられた。しかし、これについて「薄く残っている」と主張しているのが今回の韓国側の主張だ。しかし、はっきり言ってほとんど見えない。
地図に竹島を書く日本側がそもそもセコく、消えていないと抗議する韓国もセコい。
ただし、韓国では報じられていない東京五輪組織委員会のまた別の側面もある。
同サイトには日本語以外に6つの外国語ページが設定されており、そのうち韓国語は上から4番目の扱いになっている。英語、フランス語、中国語に次ぐ位置で、スペイン語、アラビア語よりも上。
この言語の利用者は約7500万人で世界14位。現実的に北朝鮮に住む人たちがサイトを自由に閲覧することは難しいだろうから、この国の人口約2600万人を除外すると約4900万人に。すると22位前後に位置することになる。
いずれにせよスペイン語、アラビア語の他、ヒンディー語、ベンガル語、ポルトガル語、ロシア語、フランス語、ドイツ語、パンジャーブ語、ジャワ語などよりも優先的に扱っていることになる。
今回、海外からの観戦客受け入れは行われないことになったが、組織委員会はそもそも韓国を重要なお客さんと考えているということ。韓国のどのメディアも報じていないが。筆者自身、東京五輪主催者グループの肩を持つようなことはあまりしたくないが、これは歴然たるファクト。韓国側に「どうか矛先を収めて下さいませ」ということではない。領土問題と釣り合いの取れる話でもない。ただ、文句一辺倒の韓国では「竹島」の一点ばかりを見て、この点は知られていない。
今は五輪開催の問題に集中を
韓国側にとっての竹島とは、「1905年に日本に最初に奪われた領土」という認識。歴史的経緯から、日本側とはこの問題に対する考え方が違う。だからと言って日本側も主張で譲るな、とは思うが…愛するオリンピックの場ではお控えを。重ねて。問題を増やさないで下さい。
「日本側も十分にセコい」。いっぽうで「組織委員会は韓国からの観客を手厚く迎える準備をしていた」。ここで言いたいのはあまり報じられてこなかったこの2つの面だ。
領土問題がこの短い期間で解決するわけもないから、今はしっかりと国内のことに目を向けよう。無観客となった五輪開催の問題について集中すべきだ。そうこうしている間に7月8日の「BSフジLIVEプライムニュース」で自由民主党新型コロナ感染症対策本部部長代理で衆議院議員の武見敬三氏の恐ろしい発言を聞いた。「東京五輪とは運命。2021年に開催され、このウイルス感染が広がる時期に開催されるのは運命なんです」。なんであなた方の思う運命、それも健康や人命に関わるものに国民を巻き込めるんですか。恐ろしい。そういう問題のほうが、今の日本には重要なことだ。
それと近頃雑誌での対談が話題となった国会議員のAさん。今回、2019時点の地図の細部を突いた話は決して「反日的な意見」ではございません。「美しい国」かどうか、この評価は他者が決めるという面もありますゆえ。