紅白出場YOASOBI 今年の韓国での活躍度 「驚異的数字」と「現地での日本語歌詞の"壁"」
459万回再生――。
9月21日にケーブルテレビの音楽番組「Mnet Countdown」に出演した際の番組公式YouTube再生回数。
1分で売り切れ――。
10月5日に12月16日の高麗大学ホールでの韓国初公演(アジアツアーの一環)のチケットが発売されるや、1分で売り切れ。あまりの人気で2回公演に。
12月31日に紅白歌合戦に出演するYOASOBO。今年は韓国での活躍も顕著だった。
紅白の出場基準についてはNHKが公式に「今年の活躍、世論の支持、番組の企画・演出」としているから、その基準のひとつとしてしっかり紹介すべきものだ。
現地メディアもこう評している。
「J-POPの(韓国での)熱風 YOASOBI」(「ハンギョレ新聞」11月20日)
「日本の超売れっ子登場に『愛してる』爆発」(「イーデイリー」12月18日)
「日本人インサイド:日本を超えたグローバルスター ビルボード・オリコンを席巻する日本のバンド"YOASOBI"」(「アジア経済」7月15日)
韓国では「Tik Tokで人気」 いっぽうで「楽曲の良さも認められる」
そもそも韓国でのYOASOBIの人気は、どう始まったのか。取材目的で筆者のSNSで韓国語にて「どういうイメージがある?」と問いかけてみると、こんな返事が返ってきた。
「推しの子」
YOASOBIが主題歌を歌うアニメだ。2020年から集英社「ヤングジャンプ」で連載開始、アニメは2023年4月から6月までTOKYO MXで放映された。これが韓国の衛星放送チャンネル「ANIPLUS」で放映されるや人気を博した。
現地メディア「ニューシス」はこう評している。
「特にYOASOBIは最近、日本の人気アニメーション『最愛の子(「推しの子」の韓国語版タイトル直訳)』のオープニング曲『アイドル』を通じて、世界的に存在感を見せつけている。同曲は、グローバルなSNSであるTikTokで数多くのK-POPアーティストたちが参加したさまざまな『チャレンジ(歌ったり踊ってみたりすること)』でリメイクされ、大きな人気を博している。YOASOBIのミュージックビデオも公開から78日で再生回数2億回を超えた」
この「アイドル」の日本や世界でのヒットぶりを伝えた後に、「J-POP界の新たな歴史を作り上げている」と評価。さらにこう伝えた。
「TikTokでは、LE SSERAFIM、IVEなどのK-POPアーティストたちのダンス動画も多くアップロードされている。一般的にTikTokではダンス動画、チャレンジなどでBGMとなる楽曲が話題になる。その話題性がある程度広がると、安定したヒットナンバーとして定着し、日常動画などのBGMとしてさらに広がる傾向がある。しかし、『アイドル』の韓国での伝播は少し様子が違った。曲の人気が先行して人気に火がついている」
この活躍によりYOASOBIは9月21日の「Mnet」への出演や、12月の初公演など、韓国での活動機会を得た。
この際、韓国のあるユーザーが、現地ネット掲示板にこんな書き込みをしている。
「最近YouTubeでよく見かける曲『アイドル』を歌う、ヨアソビという日本のバンドがM Countdownに出演しました。ちょうどYouTubeのおすすめで見たのですが、ライブも上手で、声のトーンが特徴的で、確かに個性が際立っていました。一方、韓国の音楽番組では以前、イマセが流行っていた時も出演していなかったと記憶しています。日本のアーティストが(テレビ)出演してライブをするのを見て、世の中が随分と変わったなと感じます。昔、広末涼子が好きだった頃は、韓国の放送では日本の歌や日本語の使用が禁止されているような法令があったと思います。そのため、草彅剛も韓国での活動は意図的に韓国の歌で行っていた記憶があります」
日本文化全面解禁のはずだが…
韓国のテレビ局で日本語の歌が流れるということ。
確かに、YOASOBIのアーティスト性とは全く別の次元の話として、「韓国とYOASOBI」を論じる際の一つの視点となりうる。現に韓国ではそうなのだ。
韓国では1998年10月まで「日本文化の影響力が強くなる懸念」から、日本の音楽・映画・アニメ・テレビ放送などの流入制限があった。公の場での放映が禁じられていたのだ。日本の音楽は「闇流通したカセットテープで聴く」という時代が長く続いた。その後、4段階を経て04年1月1日までに「解禁」となっているはずだが…。
上記ネットユーザーが言うように、韓国で日本のアーティストが(テレビ)出演してライブを行うのを見て「世の中が随分と変わったなと感じる」のだ。つまりこれまで日常的なことではなかった。
このユーザーの発言をより正確に補足するならば、こういうことになる。
「韓国では今でも、地上波で日本の歌手が日本語で歌うことに自主規制がかかっている」
冒頭のYOASOBIが出演した「Mcountdown」もケーブルテレビ「Mnet」の人気音楽番組だった。YOASOBI以前には2004年6月9日、東京エスムジカが韓国の同曲「Mnet」の『プライムコンサート』で楽曲「月凪」と「陽炎」を日本語と韓国語で披露したこともある。
クレームが入ることがあるので…
韓国でも若い世代から「地上波で日本語の歌はダメなのか」という疑問が沸いているようだ。フォロワー数41万人のYouTube「取材代行所 ウェン」では「地上波ラジオ・テレビではなぜ流れないのか」という韓国のユーザーからの疑問に対して、複数対象に対して取材を敢行している。
結果はこうだった。
韓国放送通信委員会 地上波放送政策課
「私どもの方では、地上波放送に関しては(日本語の歌を流すことに関して)何も規定がないように思われます。私どもの編成課のほうにお問い合わせいただけますか?」
韓国放送通信委員会 編成課
「日本語の歌だということに関係なく、国内の音楽シーンでの数%にも満たないジャンルに関しては特別な規定はありません」
KBS審議室
「(日本語の歌を)ライブで公演することに関しては許容できますが、録音したものに関してはまだ開放がなされていません。かけたからといって制裁する規定はありませんが」
ここでこの「取材代行所 ウェン」は中締めとして次のようにまとめている。
地上波では日本語の歌詞による曲は不適切と判断する。
ただし日本の音楽であっても、歌詞がなかったり、英語の歌詞であったりすれば問題はない。
この後、より実直な関係者の言葉が紹介される。地上波「MBC」の関係者のカカオトークによる返信だ。
「規則がある訳ではないが、暗黙の了解としてかけない。特に日本語の歌詞が入ると、クレームが入ることがあるので」
これらをまとめ、同チャンネルはこう結論づけた。
「地上波で大衆歌謡を放映する際、『日本の歌手が公演などの韓国で歌う場面』や『韓国の放送に出演した映像のみ』が放映可能という但し書きが付いている。放送通信委員会の議決事項として強制力はないが、地上波放送3社がこれを遵守している」
つまりは、録音や生出演は行わず、「他の場所で歌った」という映像の使用のみ可能ということ。現に、2010年9月10日には、SKE48が「2010ソウルドラマアワード」の授賞式で日本語でパフォーマンスを行い、その様子が韓国の地上波で初めて生放送されたこともある。
解禁した、とはいいながらじつは地上波では「自主規制」しているのだ。ごく簡単に言い換えるのなら「クレームをつけくる人もいるから、やめとく」というところだ。
公演現場では韓国の若者たちが…
繰り返しこういった話は、YOASOBIのアーティスト性とはまったく関係がなく、あくまで韓国側で起きている出来事。いっぽうで今年のYOASOBIの韓国での活躍は、今後の流れを大いに変えうるのではないか。
12月の公演後、記者会見に臨んだ本人たちの発言は、韓国メディアで大きく報じられた。
「K-POPが好き」
「K-POPアイドルが日本に進出してくることは嬉しい」
合わせて、韓国では12月の公演時の「韓国の若者の姿」も大きく報じられた。
「究極のアイドル…YOASOBI来韓公演でファンたち『日本語で大合唱』」(「京郷新聞」12月18日)
「愛してる、かわいい…YOASOBIの韓国公演クライマックスを撮影!」(「イルガンスポーツ12月18日)
のべ8000人の韓国の若者たちが、会場で日本語で大合唱したのだ。規制だ、地上波だ、という事より、たった今起きている実態がより重要という話でもあるか。そんなことを考えさせるだけでも、YOASOBIの2023年の韓国での活躍度はかなりのものだったと言える。