第13エンド「カーリング日本選手権最終日、SC軽井沢クラブが5連覇達成で平昌五輪代表内定」
SC軽井沢のセカンド・山口剛史のシャウトが軽井沢アイスパークに響く。「第34回全農日本カーリング選手権大会」の王者が決まった。
決勝の相手、4REAL(札幌)には予選で負け、プレーオフでは勝ち、1勝1敗の互角で決勝を迎えた。2戦ともミスをしたらそこを利用されて、失点の遠因となってしまうような緊張感の漂う好ゲームで、決勝の序盤も同様にゲームが進行していった。
大きな動きを見せたのは第3エンドだ。1点リードで後攻を持っていたSC軽井沢のリード・両角公佑の2投目がハウス奥に入ってしまうと、スキップの両角友佑のプランは微妙に変更を余儀なくされる。サードの清水徹郎の1投目でフリーズを要求すると、ターゲットの石に当てるも開いてしまい、4REALのサード・松村雄太がすかさずタップロールで1、2を奪う。清水は2投目でダブルテイクアウトを狙うも、出た石はひとつだけ。強いN0.1を持ったまま4REALのスキップ・阿部晋也はハウス内に効果的に石を散らし、あるいは2投目でNo1にフリーズする形でNo.1-4まで持つ好形を作った。両角友はラストショットでダブルを決めるも、2点スティールで逆転を許してしまう。
両角公、清水のショットはそれぞれ最低限の働きを持ったショットではあったが、1投で複数の役割を果たさないと後手に回ってしまうという、このカードのレベルを示す攻防だった。
これで2-3と札幌リードで第4エンドを迎えるが、このエンド間に微妙な勝利への岐路があった。
メンバー全員が、決勝の舞台を10度以上、経験しているSC軽井沢は、「スティールされたけど、まあ、普通の出来事」(清水)、「まだ1ダウン」(両角公)とそれぞれ振り返ったように、ほとんど危機感がなかった。それよりも次のエンドが大事とばかりに淡々とショットを決め続け2点を獲得し、あっさりと逆転に成功。
4REALの阿部は試合後の会見で「スティールの後、簡単に2点あげてしまったのが痛かった。自分が決められなかったし、その後も『まだ1ダウン』と思えば良かったけど、決勝の雰囲気の中で取り戻すのが難しかった」そう語った。
「まだ1ダウン」、そう思えるかどうかが勝負を分けた。
1シートだけに集まる観客の目、テレビの生中継、どうしても脳裏をかすめる五輪への道etc…。慣れない要素が見えないプレッシャーとなって、挑戦者をゆっくりと確実に蝕んでいった。対照的に「この大舞台でいつも通り、うちらしいカーリングができた」(両角友)と言えるのが、4連覇を果たし、1強と呼ばれ長く男子カーリング界を牽引してきた王者の強さであり、プライドだろう。4REALも谷田康真、林佑樹のフロントエンドから丁寧にチャンスメイクを試みる。ショット率に大差はないが、山口や清水が要所でダブルを決めチャンスの芽を摘んでいった。その後は盤石な試合運びで2度目のリードは許さなかった。
最終日の「勝手にホットハンド」は、当然、大会MVPに輝いた両角友だろう。決勝の大舞台でしっかりとアイスを読み切り、チャンスで複数得点をしっかり獲った。マカロンを差し上げたいところだが、副賞でメインスポンサーの全農さんから信州ポークとかビーフとかきのことかをたんまりもらっていたので、特に何もあげない。むしろ牛豚茸くれ。
そのぶん、といえば何だが、最終日ということで「勝手にクールハンド」も選出したい。アイスメーカーの藤巻正さんだ。
アイスパークの全身であるスカップ時代、もっというと今はなき軽井沢スケートセンターで「ハックもサイドボードもないから持ち込んで、まずはザンボ(整氷車)で削ってフラットにしてから特設リンクを作っていた」という筋金入りのアイスマンだ。
「世界のアイスはよく曲がり滑るアイスが基本です。そういうアイス用の作戦があって、オフェンシブな戦術をとれる。国内の選手にも練習の時から経験してもらって世界で戦えるカーラーが出てくれたら嬉しいよね」
今大会もゲーム中からストーンの曲がりや滑りに目を配りながら、シート下のコンクリートのさらに下、マイナス10度前後の液化させた二酸化炭素の通ったパイプの温度を微調整(液化させて二酸化炭素を気化させ冷却するらしい世界でもまだ常呂と軽井沢しか採用していない技術らしいのだが、高卒の僕には概要しか理解できなかった)するために、製氷管理室に頻繁に足を運んだ。コンピューターによる自動管理も可能らしいのだが「それだとどうしても室温が変わってからの対応なので、ラグが出てしまう。例えばお客さんが入ってくると10分もすれば室温は変わるので、先読みして調整しなければ。アイスが重くなってからでは遅いから」とのことで、あえてマニュアルで操作していたそうだ。
大会終了後、藤巻さんに声をかけた。いい大会になりましたね。
「うん、それなりのアイスはできました。攻め合うゲームも多かったし」
藤巻さんはそう言って、誰もいなくなったアイスをしばしの間、見つめたのち、軽くうなずいた。近年ではもっともハイレベルな、素晴らしい日本選手権が幕を閉じた。