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妊娠中の体重管理が大きなストレスに 体重増加の目安や基本的な考え方とは

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:イメージマート)

妊娠中は徐々に体重が増えていくもの。

しかし、周囲から「もっとしっかり食べたほうがいいんじゃない?」と言われたり、主治医から「体重が増えすぎなので注意するように」と言われたり、どうしたら良いのかわからないという妊婦さんは多いのではないでしょうか。

今回は、産婦人科医の目線から、妊娠中の体重増加の目安や基本的な考え方をお伝えします。

なぜ体重管理が大切なの?

妊娠中は、適切な体重コントロールが大切だと言われています。

これは、これまでの研究結果から、妊娠したとき及び妊娠中の体重増加が、お母さんと赤ちゃんの健康へ様々な影響を与えることがわかってきたためです。

健康への影響とは、単に「体調の良し悪し」だけではなく、妊娠中や出産時の合併症リスクと関連しますので、できるだけトラブルをなくし、順調に出産を迎えて元気に赤ちゃんと過ごすために、体重の管理はとても重要なのです。

体重による具体的な妊娠・出産への影響は?

(1) 妊娠したときの体重や体格

妊娠したときの体重や体格が与える影響として、主に以下の合併症リスクが高まることがわかっています。

・やせている女性 → 切迫早産、早産、低出生体重児(2500g未満)

・太っている女性 → 妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開、死産、巨大児(4000g以上)、神経管閉鎖障害(生まれつきの神経系疾患の一つ)

やせているか太っているかの評価には、一般的にBMIという指標を使います。

BMIは、国際的に最も信頼されている体格指数です。

BMI=[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]

(2) 妊娠中の体重増加

妊娠中の体重増加が与える影響として、主に以下の合併症リスクが懸念されます。

増加が著しい → 妊娠高血圧症候群、巨大児、帝王切開

増加が不十分 → 妊婦さん自身の体力低下、胎児の発育不全

妊娠中のちょうど良い体重増加の目安は?

妊娠中の体重増加には、子宮内の赤ちゃんが大きくなることの影響だけではなく、体内の水分や皮下脂肪、子宮内の羊水や胎盤も影響します。

これらの重さは「妊娠中に増加してしかるべき重さ」(必須体重増加量)と言えます。おおよそ7〜8kg程度と考えられていますが、実際には妊娠したときの体格を考慮して、体重増加の目安を計算する必要があります。

妊娠期間を通しての体重増加量の推奨目安は下記の通りになります。2021年に厚生労働省から新しく出された指針に基づいており(文献1)、2020年までよりもやや緩やかな基準となりました。

・妊娠時に「やせ」体型:12〜15kg

・妊娠時に「普通」体型:10〜13kg

・妊娠時に「やや肥満」体型:7〜10kg

・妊娠時に「肥満」体型:個別検討(上限5kgが目安)

*BMIの基準:やせ(<18.5)、普通(18.5〜24.9)、やや肥満(25.0〜29.9)、肥満(>30.0)

まとめると、妊娠時の体格ごとに以下のように考えていきましょう。

・やせ気味の女性:妊娠中にできるだけしっかり体重を増やしつつ、過度な体重増加(15kg以上など)は避けましょう。

・標準的な体格の女性:過度な体重増加(13kg以上など)は避けましょう。

・太り気味の女性:妊娠時にすでにリスクが高い状態であることを意識しつつ、妊娠中の体重が増えすぎないよう気をつけましょう。

毎回の妊婦健診、意識しておくことは?

それでは、上記のような体重増加を適切にコントロールするために、毎回の妊婦健診でどのように意識していけば良いのでしょうか?

ポイントをいくつか紹介します。

(1) 毎回の変化に一喜一憂しすぎない

妊娠中はつわりや便秘などの体調変化が日常茶飯事で、食事の摂取量や運動量もなかなか安定しないことも少なくありません。

また、あまりに著しいものでなければ、1-2週間の体重変化の幅が胎児やお母さんの健康悪化に直結することはありません。

数百グラムの増減に一喜一憂せず、少し長い目で見て、1ヶ月後の目標を達成できるよう緩やかに調整していく、くらいの心持ちで良いでしょう。ストレスが溜まりすぎてしまうことは、妊娠中に良くないですからね。

*もちろん、何らかの事情で厳しく制限しなければならない状況の妊婦さんは主治医との相談を最優先してくださいね。

(2) 健診の前日や当日も絶食する必要はありません

健診日には毎回体重を測りますし、尿検査への影響も気になって、前日または当日の朝から食事をほとんどせずに受診する妊婦さんが時々いらっしゃいます。

気になる気持ちはとてもわかりますが、これは体調悪化を招きますし、低血糖により外出先で倒れてしまったら非常に危険です。

前日の夜は通常通りの食事をしましょう

(ただし、いつも以上に炭水化物を大量に食べたり、寝る直前にジュースをたくさん飲んだりは避けましょう)

当日の朝も軽食程度はしっかりとっておきましょう

(妊婦健診の待ち時間が予想以上に長くなってしまう場合もあります)

*糖尿病の検査をする際など、特殊な状況の場合は医療機関からの指示を優先してください。

(3) 気になる点は主治医に気兼ねなく聞いてみましょう

健診時の体重や尿検査、血液検査などは、その結果が問題ないのか、心配なサインがあるのかなど、気になって当然です。

しかし、あまり長時間をかけられない健診時には、一つ一つの検査項目を全て説明されることは稀でしょう。全て正常範囲であれば、医師は「問題ないですね」の一言で済ませてしまうことはよくあります。

ただ、どうしても気になる点や、日常生活の中で食事や運動にかかわる体重変化や尿検査の結果などについては、なるべく疑問を解消していくことをお勧めします。

最近ではオンラインで産婦人科医や助産師に相談できるサービスも普及しつつあり、今後は活用が広がっていくものと予想されます。

今回の解説は以上となります。

妊娠生活を健康的に送り、妊婦さん自身も赤ちゃんも元気に出産を迎えられるよう、体重(と運動、食事)に目を向けていけると良いですね。

ただ、気にしすぎによるストレスには要注意です。本記事の内容を参考に、主治医と相談していきましょう。

参考文献:

1. 厚生労働省. 妊産婦のための食生活指針. (2021年3月改定)

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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