行動スピードが遅い人の、恐ろしい「葛藤プロセス」とは?
目の前にある「やるべきこと」を軽々と片付けるためには、自分がホテルで働くポーター(荷物の運搬などを主業務とするホテル従業員)だとイメージし、やるべきことを台車の上に置いた「荷物」だと考えればよいのです。これを「台車理論」と呼びます。
荷物を載せた台車を軽々と押すためには、滑らかな路面を選択しなければなりません。砂利道であったり、ぬかるんだ泥道の上を選ぶと、うまく荷物を運べないからです。
「台車理論」では、「思考ノイズ」が常に脳のワーキングメモリに入っていると『路面の摩擦抵抗が大きくなる』と考えます。したがって、常にこのノイズを除去する作業をしなければなりません。放置しておくとノイズとノイズとが化学反応を起こし、さらに大きな「心の摩擦」を引き起こします。ひどい場合は、「なんで私がこんなことで悩まなくちゃいけないわけ? 絶対に変だ。何かがおかしい」などと被害者意識まで醸成されていってしまいます。
このプロセスは以下のように変遷します。
1)やるべきだ(決意)
2)やらなくても許される(甘え)
3)やらないほうがいい(発見)
4)やるべきではない(確信)
5)なぜやらなくてはならないのか?(怒り)
普通であれば、何らかの仕事を目の前にして「今やるべきだ」と決意します。しかしすぐにやらずに先送りをすると、ゼロであったはずの思考ノイズが突如として出現します。
自分の過去の言動は肯定したくなるもの。これを「一貫性の法則」と呼びます。先送りすればするほど、過去の意思決定を一貫して正当化したくなるもの。ノイズがノイズを生む原理は、ここにあるのです。
最初に出てくるノイズは、「今やらなくても許されるだろう」という甘えが原因です。誰かに依頼された仕事なら、依頼者から許されるだろうという甘え。いっぽう自分自身が決意したことだと、簡単に先送りを許してしまいます。依頼者が自分自身であるからです。
「今やらなくても許される」というノイズは、ぬかるんだ泥道に何らかの「種」を撒いたようなものだと考えましょう。さらに「今やらないほうがいい」というノイズに成長すると、その種に「水」を撒いていくことになります。
「今やらないほうがいい」という確信をし続けていると、水を撒き続けることになりますので、種が発芽し、路面に雑草が生えていきます。こうなると、思考ノイズは「今やるべきではない」という確信めいたノイズに成長し、心の摩擦抵抗は一気に増大していきます。路面が雑草だらけになるからです。とても台車を押す気になれません。
ヒドイ場合は、路面に生えた雑草が草木にまで成長し、「今なぜやらなくてはならないのか?」という怒りにまで発展していきます。
月日が経過すると、「今やらなくても許される」「今やらないほうがいい」「今やるべきではない」「今なぜやらなくてはならないのか?」といった表現から「今」が取り除かれ、「やらなくても許される」 → 「やらないほうがいい」 → 「やるべきではない」 → 「なぜやらなくてはならないのか?」とノイズが極大化していきます。
こうなると「今やらない」から、「今」がなくなり、やるべきこと自体を「やらない」という決断に姿かたちを変えます。「いつかはやる」という状態から「いつまで経とうがやらない」という決断ですから、最悪の結末と言えるでしょう。
ホテルのポーターが荷物を載せた台車を目の前にし、「今押すべきではない」から、そもそも「押すべきではない」と決断し、「なぜ私がこの荷物を押さなくてはならないのか?」と怒りはじめたらワケがわかりません。行動スピードを速めるだけで、心の摩擦抵抗は大きくなりません。笑顔で気持ちよく仕事をするポーターになりたいですね。