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休業支援、あと1週間で「打ち切り」! 菅政権は、即座に申請期限の延期を

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

申請受付2ヶ月経過でも、申請件数は予定の半分以下!

 今年4〜6月の休業補償の申請が、あと1週間で打ち切られてしまう。「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」(以下、休業支援金)のことである。

 新型コロナウイルスの影響によって労働者を休業させたにもかかわらず、労働者に休業手当を支払わないままの中小企業は非常に多い。こうした中小企業の労働者に対して、国が直接、給与の8割を補償するのが、この休業支援金である。

 報道によれば、休業支援金の支給件数として、予算の段階で64万件の支給件数が想定されていたという。しかし、第二次補正予算の目玉として設立されたこの新しい休業補償制度は、予定の支給件数に遠く及びそうもない。

 具体的な数字を見てみよう。7月10日に休業支援金の申請は開始されているが、現在厚労省が数字を公開している9月15日までの約2ヶ月で、申請件数は30万2037件。いまだに想定の1/2にすら届いていない状態だ。

 支給件数に至ってはさらにひどい。7月17日の週には支給が始まっているが、それから2ヶ月が経過した9月17日までの支給件数は、15万5480件。予定の1/4以下しか支給されていない状態だ。申請から支給に時間がかかると言っても、少なすぎるだろう。

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コロナ休業のピーク期間の申請は、2ヶ月前に始まっているが…

 「これからまだ申請件数は増えるのでは?」「今後の休業で新たに申請する人がいるのでは?」と思う人もいるかもしれない。ある程度はそうだろう。しかし、楽観視はできないのが実情だ。

 この制度は対象の休業期間ごとに、申請期間の締切日が決められている。具体的には、下記のとおりだ。

休業した期間/受付開始日/締め切り(郵送の場合は必着)

2020年4〜6月/2020年7月1日/2020年9月30日

2020年7月/2020年8月1日/2020年10月31日

2020年8月/2020年9月1日/2020年11月30日

2020年9月/2020年10月1日/2020年12月31日

 9月時点で2020年4月から8月までの休業期間の申請は開始しており、単純に6ヶ月の期間を5ヶ月で割っても、申請予定件数は8割ほどには達していて良さそうなものだ。

 それに4〜6月は、緊急事態宣言の期間が含まれ、営業自粛要請の内容がもっとも厳格だった時期であり、特に休業の件数が多い期間であると言って良いだろう。この期間が、全期間の申請件数のかなりの部分を占めると考えて良いはずだ。

 しかし、その4〜6月の休業の申請は2ヶ月以上前の7月10日にとっくに始まっている。それにもかかわらず、いまだに全体で申請件数が半数以下にとどまっているのは、この期間に休業した労働者が、いまだに「申請できていない」ということを示していると考えられる。

 これは、単に休業支援金の制度の周知が足りていないということではない。筆者が代表を務めるNPO法人POSSEに寄せられる労働相談を聞く限りでは、制度を知っているにもかかわらず、申請すらできていない労働者が多いことがうかがえる。

 では、休業支援金を使えるはずの労働者が、制度を申請すらできていないのは一体なぜなのだろうか?

会社が協力しない「事業主の指示」による休業

 休業支援金の申請・支給の条件の問題点はいくつかあるが、致命的なのは、支給について「事業主の指示」で休業したという証明が必要であることだ。実はこの休業支援金の制度的な欠陥について、筆者は繰り返し警鐘を鳴らす記事を書いてきた。

参考:支給は「予定の14%」 「休業支援」が申請できない「無茶苦茶すぎる」理由とは?

参考:休業支援を「妨害」する企業が続出? 現場から見えてくる「制度の不備」

 労働者は休業支援金の申請にあたり、「支給要件確認書」の事業主記入欄の「申請を行う労働者を事業主が命じて労働者記入欄1の期間に休業させましたか」という項目において、企業から「はい」のチェックをもらわなければならない。ところが、会社がこれに協力しないというケースが続出している。

 そもそも、雇用調整助成金の利用や休業手当の支払いを拒むために、「シフトが未定だったから会社都合の休業ではない」「テナントとして入っている商業施設が休館になったから、不可抗力の休業だった」「日雇い労働者だから休業ではない」などと、「会社都合」の休業であったことを労働者に対して否定してきた企業は多い。

 「会社都合」の休業だと、労働基準法26条により、休業手当の支払い義務が生じるからだ。こうした経営者がそれまでの「会社都合」の休業ではないという主張にもかかわらず、ここにきて「事業主の指示」の休業を認めるだろうか。

 確かに、厚労省はこの2つの概念は同じものではないと説明している。しかし、それまで休業手当を払ってこなかったような会社からすれば、違法行為を認めたことになってしまうのではないかという「リスク」に敏感になっても仕方がないだろう。このため、会社の協力が得られず、申請をあきらめる労働者が続発している。

 会社の協力が得られないままとりあえず申請した場合、厚労省が会社に対して審査を行うことになる。しかし、こうした場合に支給が認められるかどうかは非常に疑わしい。休業支援金の申請件数だけでなく、支給件数が伸びていないことについても、この問題が影響していると考えられる。

新たな見解? 会社が認めなくても厚労省の権限で支給できる?

 こうした問題に対して、この間、厚労省が注目すべき見解を明らかにてしている。休業支援金について、今月17日に個人加盟の労働組合・首都圏青年ユニオンが厚生労働省に改善を求める要請を行った。そこで厚労省の担当者は、会社が休業を認めなくても、実態から判断して、厚労省が「事業主の指示」による休業だったと認めることもあるという趣旨の回答をしたとのことだ。

 つまり、企業からの協力が得られなくても、その実態と厚労省の判断次第では休業支援金をもらうことができる可能性があるということである。そうだとすれば、この申請と支給のハードルを打開する対策になりうるだろう。

 しかし、会社が認めなくても、「事業主の指示」による休業であったと厚労省が判断するための基準は、一切明かされていない。あくまでも個別ケースごとに判断するというのが厚労省の見解であるという。

 統一した基準がないのであれば、担当した厚労省の職員次第で支給の基準が揺らいでしまい、他の職員なら認定されるはずの休業補償が、同様のケースで認定されない事態が起きてしまいかねない。厚労省の判断基準を明確にすることが必要だ。

菅政権は一刻も早く、休業支援金制度の緊急の改善を

 

 以上を踏まえて、休業支援金制度の改善が急務である。このままでは、せっかくの休業支援金は、使いたくても使えない「失策」になってしまう。そこで、筆者は休業支援金について、次のように提案したい。

(1)まずは4〜6月分の申請期間を延長すべき

 前述のように、休業支援金の対象のほとんどを占めるであろう、4〜6月の休業の申請期間は、9月30日までだ。あとたった1週間しかない。まずはこの期限を延長ことを緊急の課題とすべきだろう。

 会社に協力を断られたために、あるいは協力を得られないことを見越して、休業支援金の申請をあきらめている労働者は多い。申請期間を大幅に延長した上で、支給のための実質的な要件や運用を修正し、申請していない労働者たちが改めて申請できるようにすることが必要だ。

(2)会社が「事業主の指示」による休業を認めなくても、厚労省の判断で支給が可能な場合を明確にし、公表すること

 会社が、会社の指示による休業であると判断しなくても、厚労省の判断で、事業主の指示による休業であると認めることができるのであれば、その基準を明確にすべきだろう。そのうえでそれを公表し、申請をあきらめている労働者が申請できるようにすべきだ。

 もちろん、その基準は、できるかぎり広く解釈できるようなものであることが労働者にとっては望ましいのは言うまでもない。

 

 さらに、従来の休業支援金の制度の枠にとらわれずに、休業補償を払うための政策を新設もありえるだろう。

 「第一波」のコロナの休業補償について、国は、労働者についてはもう済んだものと考えている人もいるかもしれない。しかし、4〜6月の頃の休業で収入が減少した分が補償されないため、貯金を切り崩したり、借金をしたりして、なんとか補っている中小企業の労働者は多い。彼らにとって、休業支援金の改善は死活問題だ。

 また、会社が労働者に休業手当を払うときに使うことのできる雇用調整助成金の特例措置も、12月末をもって縮小される予定であると報道されている。しかし、雇用調整助成金による会社からの休業補償でなんとか生き延びている労働者も多い。こちらも、更なる延長が必要である。

 こうした政策の改善をするためにも、現場で実際に困っている労働者の多くの声が力になる。筆者のもとにそうした声は多数寄せられているが、もっと実態を告発し、権利行使を行って、企業と国に休業補償を迫っていくことが、政策や企業の姿勢を変えるために必要だ。休業補償がなく、生活に困っている労働者は、ぜひ専門家に相談してみてほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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