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支給は「予定の14%」 「休業支援」が申請できない「無茶苦茶すぎる」理由とは?

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真は書類を突き返されているイメージです。(写真:アフロ)

1ヶ月で支給件数は予定の1割!? 伸び悩む休業支援金

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う雇用調整助成金の特例措置を9月末から12月末まで延長する方針が、政府内で決定された。

 一方で、第二次補正予算の目玉であった「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」の利用が伸び悩んでいる。この休業支援金は、新型コロナウイルスの影響によって休業になったにもかかわらず、企業が雇用調整助成金の特例措置も使わず、休業手当を支払われない労働者に対して、国が直接、給与の8割を補償する制度である。

 報道によれば、休業支援金の支給件数として、予算の段階で64万件の支給件数が想定されていたという。ところが、その予想は大幅に外れてしまい、休業補償を受けられない人々が大量にあぶれている状態だ。

 具体的な数字を見てみよう。7月10日に休業支援金の申請が開始され、同月17日の週には支給が始まっているが、それから約1ヶ月半が経過した9月3日までの支給件数は、9万2405件。予定の14%しか支給されていない。申請件数も、7月10日の申請開始から9月1日までで、20万1713件。想定の1/3以下にとどまっている。

 もちろん、申請件数はこれからもある程度は増加していくだろう。この制度が補償の対象としているのは今年4月から9月までの6ヶ月の間の休業で、8月分の申請は今月に始まったばかりだ。

 しかし、緊急事態宣言や営業自粛などの影響で特に休業の件数が多いと考えられる4月から6月までの休業の申請は、9月末で締め切られてしまう。

 それなのに、支給開始1ヶ月半で予定の1割程度の支給件数となれば、制度に問題があると考えざるを得ないだろう。

 休業支援金を使えるはずの労働者のほとんどが、制度を使えていないのはなぜなのか。本記事では、改めて休業支援金の限界を整理していきたい。

「事業主の指示」による休業を認めない会社が続出

 休業支援金は、会社が休業補償に応じてくれない場合に、個人で国に休業補償を請求できる制度という触れ込みであった。

 実際、筆者が代表を務めるNPO法人POSSEに寄せられた労働相談でも、勤務先の企業が雇用調整助成金を利用せず、休業手当を支払わないにもかかわらず、「会社と対立したくないから」という理由で休業手当の要求をあきらめ、「円満」な休業補償としての休業支援金に期待する労働者の相談が多かった。

 しかし、結局は会社の「協力」どころか、会社と「争う」つもりがなければ、申請できないという事態が多発している。これが、労働者が申請をあきらめたり、支給が難航したりしている理由であると考えられる。本記事では、その障壁となっている2つの争点を紹介しよう。

休業を「証明」したがらない企業側

 第一の争点は、休業支援金の支給要件として、「事業主の指示」で休業したという証明が必要であることだ。

 労働者は「支給要件確認書」の事業主記入欄の「申請を行う労働者を事業主が命じて労働者記入欄1の期間に休業させましたか」という項目において、企業から「はい」のチェックをもらわなければならない。会社がこれに協力しないというケースが続出している。

 (なお、この論点については、筆者はすでに下記の記事で指摘している)。

 参考:休業支援を「妨害」する企業が続出? 現場から見えてくる「制度の不備」

 そもそも、雇用調整助成金の利用や休業手当の支払いを拒むために、「シフトが未定だったから会社都合の休業ではない」「テナントとして入っている商業施設が休館になったから、不可抗力の休業だった」などと「事業主の指示」による休業であったことをこれまで労働者に対して否定してきた企業は多い。

 彼らがそれまでの主張を撤回して「事業主の指示」を認めるだろうか。会社都合の休業となれば、休業手当を払う義務を定めた労働基準法26条違反になる可能性もある。このため、会社が協力してくれず、申請をあきらめる労働者が続発しているというわけだ。

 筆者が上記の記事を書いた8月5日、厚労省は休業支援金についての「Q&A」における休業と「事業主の指示」の関係についてのページを更新し、この書類で「事業主の指示」による休業だと認めても、直ちに労働基準法違反にはならないという趣旨の説明をしている。

 しかし、書類をもって違法行為の確認資料とはしないとしても、やはり、休業手当の支払いそのものが違法行為に該当する場合もあることが明記されているため、書類へのサインそのものを事業主が拒もうとしつづける可能性は高いだろう。

 もちろん、経営者が事業主の指示を否定した場合でも、休業支援金は申請できる。ただし、その場合には労働局が会社に報告を求めることになるが、会社から回答がない場合は支給のための審査ができないという。労働局が強制的に休業理由を変更して認定できるわけでもない。

 実際、会社が労働者の申請に協力せず、労働局からの連絡まで無視して、休業支援金の審査が進まないという相談も多い。このように、休業の理由の証明について、会社側は「自分たちの都合」から協力を拒んでいる実態があるのだ。

労災保険未加入の企業が、休業支援金の申請を妨害?

 次に、休業支援金の申請・支給の障壁として相談が寄せられるのは、労働保険番号の未加入の問題である。

 労働者を一人でも雇っている会社は、労働者がパートやアルバイトであっても、労災保険に加入させ、国に保険料を払う義務がある。この労災保険への加入時に、事業所ごとに労働保険番号が割り当てられる。この番号が休業支援金の申請においては、労働者が休業を申請した事業所が実際に存在していることを厚労省が手続き上確認するために必要となる。

 ところが、ここで問題が起きている。労災保険の保険料の負担を回避するために、新型コロナ以前から労災保険の加入義務を果たしていない企業が少なくないのだ。労災保険にこれから加入させれば休業支援金を申請できるが、遡及して保険料負担をすることになるため、加入を拒む経営者が多い。

 このような事業所では、自分たちの保険料(本来払うべきだった)の負担をおいたくないために、労働者側の権利が侵害されてもお構いなしの状態が続いているということになる。それどころか、もっと悪意に満ちた「妨害行為」も見られる。

 労災保険に事業主が加入していない場合、制度上は、事業主が労災保険の加入の手続きを拒んでも、労働者が休業支援金を申請すれば、厚労省が指導等を行うか、職権によって強制的に企業を労災保険に加入させることができる。ただし、会社はやはり遡及して過去の会社負担分の保険料を払うことになり、追徴金が課せられる場合もある。

 つまり、いずれにしても、これまで労災保険に加入しておらず、休業支援金の申請への協力を求められた企業は、支払っていなかった過去の経費を改めて支払うことになってしまうということだ。このため、中小企業の経営者の中には、労働者の休業支援金の申請そのものを妨害することで、労災保険の未加入の問題化を防ぐという行為に及ぶ者まで現れている

 例えば、休業支援金の申請への協力を求めた労働者を、会社が雇い止めしたという相談事例が寄せられている。会社と「円満」な形で休業支援金を受給することは、労務管理が整っていないような中小零細企業相手であれば、なおさら難しいのである。

会社に対する権利行使は避けられない 雇用調整助成金を通じた休業手当

 これらの企業側の問題行動に対しては、行政で対応できることに限界がある。すでに見たように、行政側は「書類の審査」を行うことしか想定していないからだ。

 企業側の不当な権利侵害行為に対しては、労働者自身が、企業に対して休業補償の手続きを要求し、権利を行使するために争う「覚悟」を決めなければならない。それが、偽らざる日本の労働政策の「現状」である。

 (なお、労働現場についての違法行為をめぐる社会学的考察については拙著『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』を参照して欲しい)。

 休業補償の制度が現行のものである限り、補償のために労働者が会社との「対立」を回避できないケースは膨大に発生し続けるだろう。そもそも、休業手当をいまだに払われていない時点で、その企業から「円満」に制度の協力を得られる期待はとぼしい。

 そして、企業と争うのであれば、8割までしか払われない国の休業支援金より、雇用調整助成金によって全額補償をさせることもできる休業手当を会社に求める方が、労働者にとって有利だ。

(厚生労働省も、休業支援金よりも雇用調整助成金の優先的な利用を呼びかけている)。

参考:「申請できない」はウソ! 整備進み、雇用調整助成金の活用が「急増中」

 冒頭で言及したように、雇用調整助成金の特例措置の期間は年末まで延期される見通しだ。新型コロナウイルスの被害は長期化する可能性が高い。このさらなる延長も必要も求められる。制度が適用される全期間について、全額の休業補償を求めて請求することは、労働者にとって重要な選択肢だ。ぜひ、会社に権利を行使するために、専門家に相談してみてほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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