金正恩氏からプーチン氏へのプレゼントは「犬」 ソウルの有識脱北者はどう見た?
5月29日の「汚物風船」から、南北境界線での「壁」建設、そして6月20日の露朝首脳会談、さらには汚物風船再開およびミサイル発射。北朝鮮周辺の動きが日本でも話題だ。そんな折に「おやっ」と思うニュースがあった。
「プーチン大統領訪朝時のプレゼント」
6月20日のロシア・プーチン大統領の訪朝時のことだ。プーチン大統領は金正恩総書記へロシア国産の高級車を贈った。
いっぽう金正恩氏からプーチン氏への贈り物は…北朝鮮内の勲章と「犬」だったのだ。
これが北朝鮮国内ではどう見られているのか。ソウルに暮らす脱北者の有識者に話を聞いた。
「プーチン大統領同志に我が国の国犬である豊山犬一対を贈られた」
まずは現地メディア「労働新聞」での報道ぶりの紹介を。6月20日、この時の様子を「敬愛する金正恩同志がプーチン同志と錦繍山迎賓館庭園区域で時間を共に過ごし、親交を厚くされた」という見出しで報じている。
敬愛する金正恩同志は、歴史的な『朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦の間の包括的な戦略的パートナーシップに関する条約』調印式に続いて、ロシア連邦大統領ウラジーミル・ウラジミロビッチ・プーチン同志と錦繍山迎賓館庭園区域で時間を共に過ごし、親交を厚くされた。
プーチン大統領同志が金正恩同志に贈った乗用車を、二人の首脳がお互いに交代で運転し、迎賓館の美しい区域の構内道路を走られた。
金正恩同志は、贈られた乗用車の性能を高く評価し、素晴らしい車を贈られたことに対して改めて大統領同志に謝意を表された。
バラ園と庭園につながる散歩道で、朝露最高首脳は親密で誠実な友愛の情があふれる談話を交わされた。
最高首脳は、ボストーチヌイ宇宙基地から平壌へと続いた意義深い会見と会談を通じて、新時代の朝露関係発展の強力な礎を築いた感慨と喜びを分かち合われ、両国間の戦略的パートナー関係、同盟関係をさらに緊密にしながら共同の核心利益を守るための一連の重要計画について討議された。
金正恩同志とプーチン同志は、今回の平壌会見を契機に共同の理想と目標実現のための重要問題で満足な見解の一致を達成したことについて評価し、素晴らしい歴史と伝統を基盤とする朝露善隣友好関係を両国人民の志向と念願に応える新しい高い段階へと引き続き活力あるものとして推進していく意志を表明された。
金正恩同志は、錦繍山迎賓館の庭園でプーチン大統領同志に我が国の国犬である豊山犬一対を贈られた。
プーチン大統領同志はこれに謝意を表した。
本社政治報道班
(太字強調部分は筆者による)
高級車のお礼に犬。一見、バランスが悪いようにも思える。ややもすれば、北朝鮮国民としては恥ずかしいのではないか?
そこのところをソウルに暮らす脱北者で、シンクタンク「SAND南北コリア研究所」の理事キム・ミョンソン氏に話を聞いた。キム氏は脱北後に02年に韓国入り。その後「朝鮮日報」の記者を経て現職にある。
「北朝鮮で豊山(プンサン)犬は『国犬』(国家の象徴的な犬)なんですよ」
そういうことでもなさそうなのだ。
「両江道豊山郡が原産地であり、勇猛さと知恵、忠誠の象徴とされています。これまでも韓国や外国の首脳陣に贈る最高の贈り物として、北朝鮮内では認識されています」
むしろ北朝鮮では「めっちゃくちゃいい贈り物」なのだという…。
「2000年6月の金大中大統領の平壌訪問時に金正日が豊山犬2匹を贈り、2018年の文在寅大統領訪朝時にも金正恩が豊山犬2匹を贈呈しました。中国がパンダ外交を行うように、北朝鮮も豊山犬外交を行っています」
犬はずっと育てていけば「友愛の証」として相手に残っていくという面もある。とはいえ、一方で贈る相手を選ぶものでもあるが。今回のプーチン大統領は愛犬家としても知られるため、喜ばれると判断したか。過去には韓国の大統領も金正恩氏から贈られた犬を長く飼っていたことがある。
前出の2018年9月18日から20日までの間、平壌で開かれた第3回南北首脳会談でのことだ。この際、平壌の牡丹館で行われた歓迎晩餐会に先立ち、金委員長夫妻が文前大統領夫妻に豊山犬2匹の写真を見せながら「贈ります」と約束。
本当に7日後の27日に板門店で二匹が引き渡された。メスの「コミ」(2017年3月12日)とオスの「ソンガン」(2017年11月28日生まれ)だ。
文在寅大統領もご満悦だったようで、その後英国公共放送BBCとのインタビューで2匹を紹介したのだそう。文前大統領は2021年の退任後も慶尚南道梁山の私邸でこの2匹を「大統領記録物」として飼育していたが、2022年12月9日に政府に返還。その後、光州の動物園で暮らしているのだという。