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小さなラグジュアリーSUV、DS3CROSSBACKが日本上陸。【動画あり】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
写真は全て筆者撮影

 フランスの新興自動車ブランドであるDS AUTOMOBILEは、かつてのシトロエンの名車であるDSの世界観に端を発する、フランス伝統のラグジュアリーを表現した高級車ブランドだ。そもそもはシトロエンの中で、DSというモデル名を与えられてバリエーション展開がなされていたが、数年前に独立したブランドとしてのスタートを切った。

 そんなDS AUTOMOBILEの最新モデルがDS3CROSSBACKだ。このモデルは今、世界的に人気となっているSUVカテゴリーの中で、さらに市場を広げつつあることで注目のBセグメントに属するコンパクトSUVに属すモデル。果たしてなぜラグジュアリーブランドがBセグメントのコンパクトSUVを展開するのだろうか? と思えるが、実はBセグのコンパクトSUVの中で“プレミアム”に位置付けられるモデルは現状では数少なく、アウディQ2やミニ・クロスオーバーなどが属す程度だ。そしてBセグのコンパクトSUV市場が今後さらに拡大する予測があり、拡大すれば当然様々な嗜好性が求められる…と考えると、なるほど納得の市場投入とわかる。

 実際に写真を見ても分かるがDS3CROSSBACKは、小さなラグジュアリーSUVという表現が似合う1台である。アウディQ2がドイツ的な高品質感を打ち出し、ミニ・クロスオーバーがポップな世界観を打ち出すのに対して、DS3CROSSBACKは先述したようなフランス伝統のラグジュアリーを身にまとって違いをアピールする。そしてアウディQ2やミニ・クロスオーバー(ミニはBMWの所有ブランド)は、ドイツならではの先進テクノロジーが満載だが、これに対してDS3CROSSBACKは意外なことに真っ向から勝負している1台でもある。

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 というのもDS3CROSSBACKは、PSAグループが今後の小型車用として用いるCMP(common module platform)と呼ぶ新世代プラットフォームを用いた第一弾モデルで、このCMPは今後DSを筆頭にプジョー、シトロエン、オペル、ヴォグゾールなどのグループ内ブランドで共用される。そしてBセグ、Cセグをカバーする役目を与えられたプラットフォームだ。そして各社の最新プラットフォームのトレンドともいえる、内燃機関と電動駆動の両方に対応した構造を持つ。事実DS3CROSSBACKでも今年中に登場予定のピュアEVであるE-TENSEが用意される。加えて先日のジュネーブショーでは同じプラットフォームを用いたプジョー208が、こちらも内燃機関モデルとEVを両方揃えてデビューしており、今後他ブランドでも同プラットフォーム採用モデルが続々登場していくことになるだろう。

 そうしたプラットフォームをもとに与えた装備も先進性を備えたものが数多く挙げられるが、それは後に回すとしてまず見た目について話しておこう。写真を見て分かる通り、DS3CROSSBACKはデザインが個性の塊だ。聞けばDS AUTOMOBILEはブランドそのものがフランスならではの伝統のラグジュアリーをテーマにデザインを展開しているそうだ。実際に昨年日本に上陸したDS7CROSSBACKも相当に個性の塊といえる内外装デザインを与えた1台だった。

 そうして今回も、このDS3CROSSBACKで圧倒的な存在感を持つエクステリアを作り上げた。まず顔つきからして好き嫌いがハッキリ分かれるほどの強烈な印象を与えている。またサイドから見ると、確かにSUVらしく最低地上高は高いものの、全高は低く抑えられており、いわゆる5ドアハッチバック車の車高を高くしたような”狙ったアンバランス”が生まれている。そしてこのクラスにしては大きな18インチサイズのタイヤを組み合わせて力強い印象を作り上げた。3サイズは全長4118mm×全幅1791mm×全高1534mm(欧州値)とSUVながら日本の立体駐車場にも入る使い勝手の良さそうなサイズ感となるのも特徴だ。

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 インテリアはさらに個性の塊かつ、このクラスとしては極めて贅沢な作りが特徴。ここでもやはりフランスのラグジュアリーが貫かれる。印象的なのはDSブランドのキーモチーフともいえる菱形がそこかしこに散りばめられる。またレザーシートやインテリアの縁に添えたステッチも、パールドットステッチという、糸の上に真珠が載っているかのような贅沢な仕立てだ。またレザーシートはまるで時計の金属バンドのように見えるデザインといった具合で、アートやクラフトマンシップを感じさせるものを随所に散りばめている。

 と、こんな具合にしてDS3CROSSBACKは、内外装で既に相当なインパクトがある。だからひと目でこれが好き! という人とデコラティブで無理! という人にハッキリと別れるだろう。そしてここがDSを評価する上で重要な部分。つまりこのDS3CROSSBACKには、一瞬で好き嫌いを分けるだけの個性が備わるわけだ。最近は鼻先のバッチがないとどの国の、どのブランドのクルマから見分けがつかない、と揶揄されるデザインが蔓延する中で、DS3CROSSBACKが実現したデザインや存在感はユニークだ。それだけにこのクルマは、見た目だけで相当に価値があると思えた。もはや自分たちの道を突き進み、気に入らない人は相手にしないという潔さや独善? は、新興ブランドを成功させるにはとても大切な要素ではないだろうか?

 では走りに関してはどうか? という部分でも驚きは続く。というのも先に記した通りで、このモデルは新世代プラットフォームであるCMPの第一弾だけに、その実力は相当と感じるポテンシャルの高さに裏打ちされた走りがあったわけだ。そんな走りの詳細は動画を参考にしてもらうとして、端的に静粛性が高く、ハンドリングと乗り心地が高いレベルで両立され、ハンドリングはプジョーともシトロエンとも違う大人っぽい感覚の乗り味走り味がある。

 一方でパワーユニットは1.2Lの3気筒ターボで、最高出力は130ps、最大トルクは230Nmとスペック的にはプレミアム? と思えるが、これも詳細は動画を参考にしていただきたい。が、端的に言えば普段乗りで不満を感じるシーンはほぼないといえる動力性能は実現されている。また先進性に関してもキッチリと勝負した感がある。特にADAS系は充実しており、このクラスにしてレーンポジションアシストを備えており、ハンドルを自動制御して自車位置をレーン内に自然にキープする。また車線が見えづらいところでも、片方の車線を見つけたらそれを基準にアシストを開始するきめ細やかな制御も備わる。加えてヘッドライトはDS LEDビジョンと名付けられ、オートでハイビームをコントロールする機能も備えているため、夜間でも常にクリアな視界が得られる。そしてこれらの装備はクラスを考えるとかなりリッチな内容だといえる。

 総じてみると、かなり隙のないプロダクトという印象を受けるし、何よりこのCMPプラットフォームの実力の高さを感じる。気になる点はスタイリッシュなモデルだけにラゲッジ容量に関してはライバル比で少ないところ。またこれをいったら元も子もないが、そのデザインの超個性と独自の確立された世界観は、決して誰からも好かれるプロダクトではない。つまり世間体や横並びに安心を求める日本人的マインドが強い人には合わないかもしれない。だが裏を返せばそれゆえに圧倒的な存在感と、選んだ人にとっての満足感は間違いなく高いはず。ライバルのアウディQ2は、同じプレミアムでもより広い層にアピールする商品だし、ミニ・クロスオーバーにしてもDS3CROSSBACKほど好き嫌いが分かれる存在ではない。果たしてそうした中にあって、DS3CORSSBACKがどのように響くのかは気になるところだ。

 現在DS3CROSSBACKは日本に上陸し、各地のDS Storeでロードショーと呼ばれる先行展示を行っており、筆者もその場でひと足先に試乗した様子とトークショー形式でお伝えしている。果たして今後の販売の推移、さらにDS AUTOMOBILEというブランドがどう動いていくのかを、引き続きウォッチしていこうと思う。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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