中学武道に銃剣道「追加」ではなく「明記」 朝日新聞、ミスリード指摘に紙面で回答
【ファクトチェック】朝日新聞は新小中学校の新学習指導要領に関し「中学武道、銃剣道も選択可」などと報じた記事について、4月7日付朝刊の「Re: お答えします」コーナーで、学習指導要領の改訂に関する補足説明を行い、社会部次長名で「今後ともわかりやすい記事を心がけます」と表明した。明確な訂正はしなかったが、「誤解を与える報道内容になっている」との日本報道検証機構の指摘に応答する形で、「追加」ではなく「明記」との表現に事実上修正した。
問題となったのは、朝日新聞が3月31日付朝刊の「聖徳太子復活、数千の意見/中学武道、銃剣道も選択可」と見出しをつけた記事。本文では「『学校や地域の実態に応じて種目が選択できるよう』として、中学の武道に新たに『銃剣道』を加え、武道9種目を示した」と報じていた。
デジタル版にも「中学武道に銃剣道を追加」との見出しで掲載され、Yahoo!ニュースにも配信されたほか(現在、トピックスは削除)、朝日と提携関係にあるハフィントンポストも銃剣道が新たに追加されたとの誤解を前提にした反響記事を出していた。(*1)
新指導要領で銃剣道が例示として「明記」されたこと自体は事実だが、従来から銃剣道も武道の種目として選択可能だった。8年前に改訂された現行の指導要領では、必修化された武道の種目として柔道、剣道、相撲のほか「なぎなたなどのその他武道」と記載され、指導要領解説編の記載から「その他武道」に弓道、空手道、合気道、少林寺拳法、銃剣道も含まれると解釈されていた。今回の改訂では、武道9種目すべてが列挙されたにすぎず、銃剣道などが新たに選択できるよう改訂されたわけではない。
「武道」の種目に関する学習指導要領の記述の変遷
【現行学習指導要領(2008年3月公示)】
【学習指導要領改訂案(2017年2月14日公表)】
【新学習指導要領(2017年3月31日公示)】
しかし、朝日新聞はこうした経緯を説明せずに「銃剣道も選択可」あるいは「銃剣道を追加」との見出しで報じていた。翌日、「中学武道に追加の「銃剣道」とは?」と題した解説記事を掲載したが、誤解を払拭するような説明はなく、文末で「銃剣道を授業で実施している公立中学は全国で1校」と触れただけだった。
朝日新聞は「Re: お答えします」で、今回の記事の趣旨について「旧日本軍の戦闘訓練に使われていた銃剣術の流れをくむ『銃剣道』が、新中学校学習指導要領に新たに明記された点に着目して報じたものです」と説明した。その上で、文科省が当初公表した改訂案(2月14日公表)で明記されていたのは銃剣道を除く武道8種目だったが、銃剣道の明記を求める全日本銃剣道連盟の要望や自民党内の呼びかけがあったと指摘。パブリックコメントを経て正式に決まった新指導要領で銃剣道も明記されるに至った経緯を説明した。
一方、読売新聞も3月31日付で「中学武道 銃剣道を追加」との見出しで記事化していた。ただ、文中では「必修の武道の例として『銃剣道』を加えた。すでに指導要領の解説書には記載があり、『銃剣道も加えるべきだ』との意見が数百件あった。現在、授業に取り入れている学校は全国で神奈川県内の中学校1校」と説明していたため、例示として明記されたことが分かり、誤解を与える報道ではないと判断した。
(*1) ほかにも誤解に基づく記事がいくつか確認される。
・日本の中学で「銃剣道」を教える? 軍国主義の復活だ!=中国メディア(サーチナ 2017/4/5)
・銃剣道を指導要領に追加した文科省の大失態(JPRESS 2017/4/7)
(*2) 今回の報道を受け、AbemaTIMESに 鈴木健・全日本銃剣道連盟副会長のインタビュー記事が掲載されている。
(*3) 学習指導要領の記述の変遷表を追記しました。(2017/4/8 18:00)
(*4) NHKによれば、平成27(2015)年度の中学武道の種目採用数は、以下のとおり。(2017/4/9 17:30追記)
- 空手…230校、なぎなた…77校、合気道…43校、少林寺…27校、銃剣道…1校。