杭州開催のG20、とばっちりを受けた中国人観光客が向かう“意外なところ”
9月4日、中国・杭州で主要20カ国・地域(G20)首脳会議が始まった。中国でG20が開催されるのは初めてとあって、杭州周辺ではおよそ1カ月前から物々しい警備が続いている。オバマ大統領など世界各国の首脳・要人をホスト国として迎えるからであり、大量の警官が動員されるだけでなく、町を警備するボランティアも数十メートルごとに配置されるなど厳戒態勢が敷かれている。
そんな国際イベントの最中、大変な“とばっちり”を受けているのが200万人に及ぶ杭州市民たちだ。G20が開催されるしばらく前から、杭州周辺の工場は操業停止、官庁や企業、学校、飲食店の一部などは9月1~7日まで強制的に休暇させられ、銀行のATMなども一部稼働しないなど、町は「まるで死んだような状態」(杭州市民の友人)だ。
政府は交通渋滞による排気ガスをなくし、美しい青空を実現し、各国首脳の移動を安全でスムーズにすることなどを目的に、一般市民に対して「期間中はできるだけ市外に出ること」を奨励しており、そのために、近隣の省にある有名観光地に旅行に行く杭州市民は特別に「無料にする」という出血大サービスの特典まで用意した。
もちろん、外部から杭州にやってくる観光客も大幅に規制。杭州一有名な湖、西湖は6日まで一般開放を全面的に中止し、周辺にも立ち入り禁止とした。杭州は風光明美な観光地として中国全土で有名だが、そこまで観光客や市民を犠牲にしてまでも、ホスト国としての体面を保たなければならないのが中国だ。
半ばヤケクソの海外旅行
そんなG20開催のあおりを食った杭州市民たちの一部は、仕方がないので国内・海外旅行に出かけている。家でじっと我慢している人ももちろんいるだろうが、会社が休みになったし、市内の厳しいパトロールに飽き飽きし、「どうせだから海外旅行に出てやる!」といって、半ばヤケクソになっている市民もいる。しかし、ビザの取得や休暇日程の都合で、どうしても近場になりやすい。海外に行く人の多くは日本や韓国、タイなどに出かけているそうだ。そのうちの一人が私の中国人の友人だ。
友人は30代後半のプチ富裕層。年収は700~800万円くらいだ。おしゃれなカフェを経営する仲間たちと同世代の友人6人で日本を目指し、京都、大阪、東京の3カ所を1週間巡る旅に出た。中国のSNS、微信(WeChat)のタイムラインには、息苦しい杭州を飛び出して、ストレスを発散するような楽しい旅の記録が次々と載せられていた。
彼らが最初に向かったのは、京都のすてきなカフェや神社仏閣。こだわりの珈琲豆などを取り寄せているカフェを数軒はしごしてコーヒーを楽しんだあと、三十三間堂や東寺、夕暮れの鴨川沿いなどを散策した。また、京都の日本海側にある緑豊かな田んぼを見たり、海辺の町にも足を伸ばし、「天の橋立」を観光した。
これまでに何度も日本観光をしている友人で、最近はとくに関西地方に行くことが多いが、決して中国人の団体観光客が行くような「おのぼりさんコース」には足を向けないし、「爆買い」にも興味がない。ひっそりとした穴場スポットや、日本人でも感度の高い人が行くような最新のおしゃれなスポット、そして大自然のある場所を巡る。
その情報源となっているのは日本に住む中国人の友人やSNSでの情報だ。東京では自由が丘にあるお気に入りのセレクトショップや、代官山にある蔦谷書店、高級メガネ店などでショッピングを楽しみ、夜は高級寿司店や焼き肉店でグルメを堪能した。
旅行中の友人に問い合わせしてみると、こんな言葉をつぶやいていた。
「今ごろ、杭州は厳しい警備とパトロールで自由に外出ができない状況でしょうね。それをみんな我慢しなくちゃいけない。旅行に行けなかった友だちはみんなブーブー言っているよ。国際的な行事のときに政府の規制が厳しいのは、ある程度は仕方がないこと。だけど、ここまで全体主義でやり通そうとするのはあまりにも前時代的。なんか笑っちゃうよね………」