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円安・株高で浮かれてばかりもいられない

前屋毅フリージャーナリスト

■円安・株高はうわべだけ

円ドル為替相場がついに1ドル=100円を突破した。安倍晋三政権の誕生で、対ドルで20円も円安になったことになる。「アベノミクス効果」と浮かれる論調が目立っているが、つが、浮かれているだけでは日本経済の先行きが思いわずらわれる。

円安効果で、輸出産業の代表である自動車メーカー各社は好調な2013年3月期決算を発表している。円安による営業利益の増加はトヨタ自動車で1500億円、ホンダが358億円、富士重工業が293億円となっている。

こうした日本勢の好調に対してアメリカの自動車産業界は、「日本の金融政策は円安誘導をねらったもので、貿易相手国、とりわけアメリカを犠牲にして輸出を拡大させている」と批判する声明を発表し、アメリカ議会に対応を求めた。日本政府に圧力をかけて金融政策を転換させ、アメリカの自動車産業を守れ、というわけだ。日本に圧力をかければどうにでもなる、というアメリカ的発想にはあきれる。

こうした輸出産業の好決算を受けて、日経株価平均も1万4600円を超える好調ぶりを示している。最大の危機のなかにあるソニーは、こうした株高のおかげで金融子会社の利益が増えて、5年ぶりに最終黒字に転じている。

決算の結果だけをみると、日本企業に光明が差し込んできたかのような錯覚をうける。もちろん、日本経済が完全に復活したわけではないのだ。

自動車にしても、アメリカ車に歴然たる差をつける商品開発ができているわけではない。ソニーにしても、本業ではなく、子会社の金融収支に底上げされたにすぎない。日本企業の抱える根本的な問題はなにひとつ解決されていないのが現実だ。それで浮かれているようでは淋しいかぎりである。

重要なのは、円安・株高で少しでもできた余裕を次につなげる戦略を描くことだ。研究開発費を増やすなど、次の飛躍につながる施策をとることである。

■「守り」ばかりが目立つのが現状だ

しかし、そうした動きが表面化してきていない。多くの大手企業と同じく10日に決算発表を行ったパナソニックは、2013年3月期(2012年度)にマイナス3984億円だった税引き前利益を、2014年3月期(2013年度)には1400億円にするとしている。今年度には黒字転換する、というわけだ。

その黒字化の原動力の柱は「構造改革」である。構造改革と言えば前向きに聞こえるが、要は合理化である。これまでやってきた節約をさらに強化して、利益を確保しようというのだ。給付額が決まっていて不足分を企業側が負担する確定給付年金制度から給付は運用損益で給付が変わるため企業の負担は減る確定拠出年金制度に移行し、これによって浮く798億円を営業外収支として計上する策も含まれている。

2013年3月期決算においてもパナソニックは、持ち合いで保有している株式の約1000億円分を売却して利益に計上している。少しでも収支をよくみせるために、株高状況を利用したわけだ。

商品開発の基盤強化につながる具体的な投資方針も、根本的な商品力による業績改善の見通しも示されない。「攻め」はなく、「守り」の姿勢ばかりが目立っている。

パナソニックでなく、「攻め」の姿勢が乏しいのは多くの日本企業に共通している。「攻め」がないかぎりは、日本企業にも日本経済にも明るい見通しはもてない。円安・株高で浮かれるのもけっこうだが、企業が攻めの姿勢をとらないことにもっと関心をもつべきだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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